大企業とスタートアップの協業にはマインドセットを変えることが必要

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マレーシアのグローバルイノベーション創造センター「Malaysian Global Innovation & Creatibity Centre(以下、MaGIC)」に焦点をあて、アクセラレータープログラムのありかたを問う(全2回)。「マレーシア『MaGIC』はアジア最大のアクセラレーター輩出拠点となるか?」につづき、後編は、MaGIC プログラムマネジャー・タヌージャ ラジャ氏にインタビュー。そこから見えてきた課題とは?

―― MaGICについて教えてもらえますか?

MaGICはマレーシア政府と元オバマ大統領によって2年前に始まった試みで、金融庁直下の政府機関として「アントレプレナーの育成」というミッションと掲げています。それに由来して、MaGIC敷地内の緑地は「Obama OVAL(オバマ広場)」 と呼ばれています。

噴水手前のオブジェに「OBAMA」の文字が

噴水手前のオブジェに「OBAMA OVAL」の文字が

ミッションを達成するためにマレーシア国内外のスタートアップ・起業家に対して、以下の様々な取り組みを行っています。

まずMaGIC Adcademyとして授業やワークショップを開催を行っています。これによってアントレプレナーが必要なスキルを養える機会をほぼ毎日提供しています。カリキュラムを設けているほか、運営に関しては非常に柔軟で、例えばある産業で対象となる企業の応募がなければその産業についてのカリキュラムを変更するなどしています。

また、アクセラレータプログラムをMAP(Malaysian Accelerator Program)と GAP(Global Accelerator Program)の2種類運営しています。MAPは必ずしも事業化の対象ではないソーシャル分野、GAPはグローバルな分野のビジネスプロジェクトを取扱っています。採択されたスタートアップは週次のメンタリングをMaGICスタッフから受けたり、ボランティアとして来てくれているメンターと隔週でディスカッションしたりしています。

ですが、MaGICでは社会を変えるためのプロジェクトがより持続的なものであるためには、事業性・収益性があったほうが良いと考えるようになり、現在はMAP・GAPとも統一してプログラムを設けています。

――コホートを具体的に言いますと?

採択されたスタートアップの年毎のまとまりのことです。

――MaGICでのあなたの役割を教えていただけますか。

プログラムディレクターとしてアクセラレーションの管轄を行っています。

――日本のスタートアップはGAPプログラムに参加しているのですか?

はい、2、3社が参加しています。もっと日本のスタートアップに来てほしいと思っていますが、コミュニケーションの面で障害があるのが現状です。実際にあった日本スタートアップ参加者の事例として、翻訳者をこちらでアサインしたのですがそれでも日本人が聞く一方になってしまってうまくディスカッションができず、意思疎通がとれなかったことがありました。

――スタートアップを選ぶ条件は何でしょうか?

3つあります。1つめはMVPをもって市場性・トラクションをたてているかを見ています。2つめはASEAN地域でのビジネスかどうかです。例えばASEAN地域でなく主に中国国内を軸足に据えたビジネスであれば、私達のネットワークを活かすことができずMaGICであるべき理由がないのでお断りしています。最後に、インタビューを通じてファウンダーを良く見るようにしています。十分なパッションがあるか、当該ビジネスを成功させるに値する経歴をもっているか、プログラムへコミットする気が十分感じられるか、などです。

――こちらに来てファウンダーの多様さ、そしてみな熱意に溢れていることに驚きました。

MaGIC Demo Dayのランチタイム。いたるところで挨拶やネットワーキングが行われていた

MaGIC Demo Dayのランチタイム。いたるところで挨拶やネットワーキングが行われていた

そうですね、非常に多様だと思います。実は一度、ファウンダーを多性に集めるべきか、もっと職務・分野に対して特定させて集めるべきかと議論したのですが、スタートアップファウンダーたちは異なったバックグラウンド同士の人で協業することが好きだ(love)と気づき、現在のような多様性を重んじた形をとるようになりました。

――スタートアップが参加するメリットとしてはどのようなものがありますか?

2つあると考えています。1つは、ソフトウェア・サービスの利用権利です。私達が契約したサービス、例えばAWSや、スタートアップチームのTシャツをつくるサービスなどを無償・格安で利用することができます。もう1つは私達の強力なネットワークです。政府機関として国内のメディア、銀行、病院、航空会社などの産業の主要なプレイヤーを紹介することができます。

――そうした価値を提供することに対して、スタートアップはお金を支払う流れとなっているのですか?

いえ、MaGICは非営利目的ですので、お金をとることもエクイティを取得して投資することもしていません。宿泊施設やインキュベーション施設、飛行機のチケット、マーケティング用の費用の支給、そしてメンターなど様々なサービスを提供していますが、2つ条件があります。それは”giving-back-program”というもので、マレーシア国内の大学・教育機関で何らかのアクティビティをして、自らのアントレプレナーとしての経験を伝播させることです。今までの感想を見る限り、生徒はそれを聴講して非常に啓発されているようです。

――マレーシアのCVCによる投資やオープンイノベーションの状況はどうでしょうか?日本ではCVCは独立系VCよりもアクティブな投資をしているとされていますが。

現在は企業を啓発しているという段階でしょうか。投資も多いとは思えないですね。特に大企業サイドのマインドセットを変えることが大事だと考えていまして、MaGIC運営チーム内に、大企業に対してスタートアップとの協業を促すための専属チームがあり、このチームが銀行やUNICEFなど様々な分野の企業に対してオープンイノベーションの啓発や、MaGICなどのパートナーシップ相手の探索などを行っています。

――大企業とスタートアップが協力するための障壁・課題はどこにあると思いますか?

協力するという発想そのものがまだ浸透していないというところにあると思いますね。リスク忌避の傾向、「スタートアップと協業するまでリスキーなことをしていなくても事業は成り立つ」といってスタートアップへの協業を避けるような伝統的な考え方があり、協業を阻害しているのが事実です。

実を言うとパートナーになるとは容易に言ってくれるのですが、問題はそこに対して求められる具体的なコミットメントをイメージしてくれていないというところなのです。

――最後に、日本のスタートアップについてメッセージがあればお願いします。

この機会を恐れずに来てほしい。MaGICの価値は世界中から非常に多様なバックグラウンドを持った人が集まっているということです。