蒸留酒スタートアップが目指す新しいアップサイクルの形とは

 addlight journal 編集部

2022年6月8日、弊社アドライトはサステイナビリティ領域でのオープン・イノベーションに関する事例や最新情報をお届けするイベントシリーズ「Mirai Salon」17回目として、「広がるアップサイクル。蒸留酒スタートアップが目指す循環型の世界」と題したオン/オフラインイベントを開催した。

ゲストに蒸留酒スタートアップであるエシカル・スピリッツ株式会社COO 小野力氏(以下、小野氏)を迎え、前半は「エシカル・スピリッツが目指す循環型経済」と題した講演をいただき、後半はQ&A形式でこれまでの取り組みや現在進行中のプロジェクトについて語っていただいた。

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蒸留酒スタートアップ エシカル・スピリッツとは

エシカル・スピリッツは、廃棄可能性素材を素材の根幹において蒸留酒を製造するスタートアップだ。現在はクラフトジンのみの製造だが今後の可能性を踏まえて、「蒸留酒」スタートアップと自らを位置付けている。

そもそもなぜ廃棄可能性素材を使ったクラフトジンを製造するに至ったのか。エシカル・スピリッツのジャーニーは日本酒製造におけるある”課題”から始まる。
3人のボードメンバーのうち、2人は日本酒の業界に携わってきたメンバーなのだが、日本酒を作る工程で原材料の50%が酒粕として廃棄される実情を目の当たりにしていた。大手の酒蔵であれば、これらの廃棄物を肥料にするなどなんらか再利用する取り組みが行われているのだが、日本の酒蔵の多くが中小規模であり、酒粕がそのまま廃棄されている。

「この酒粕は成分としては日本酒と同じであり、これを何かに活用できないかというのが1番の着眼点でした。だから、クラフトジンが作りたくて事業が始まったというよりも、この酒粕をどうすれば救えるかというのが先にあり、その一つのソリューションの1つとしてジンにしてみようということで始まりました」と小野氏は語る。

酒粕の廃棄がきっかけで立ち上がった同社だが、現在の製品は酒粕の活用だけに留まらない。例えば、製品の一つに「REVIVE from BEER」という製品があるが、これは廃棄されるはずだったバドワイザーのビールをジンに再生した製品だ。

創業した2020年2月はちょうどCovid-19による世界的なパンデミックが始まったタイミングで飲食店は休業停止になり、本来消費されるはずだったビールなどが大量に余剰していた。ビールや日本酒などの醸造酒と呼ばれるものは保存できる期限が決まっており、急激な需要減によって大手メーカーでは大量の廃棄が発生した。それを活用できないかと考えた同社は大手ビール会社のバドワイザーとプロジェクトを立ち上げ、廃棄予定だった2万リットルのビールを活用し、4500本のジンへと再生した。

「酒粕から始まっているものの我々がフォーカスしたいものは酒粕だけではありません。今は認められていないものの、無限の可能性を持っていて、見方ややり方を変えれば輝くものが多く存在していることを信じています。それを我々は”hidden gem”(隠れた才能や魅力)と表現しており、それを磨いて、スポットライトを当てることを我々のフィロソフィとしています」と小野氏は熱弁する。

エシカル・スピリッツの差別化戦略と販売戦略

酒粕を活用するための手段としてジンの製造に至った同社だが、なぜジンというお酒を選んだのか。理由は大きく2つあるという。

1つ目の理由は蒸留酒にすることで半永久的に飲めるものになるという点だ。前述した通り、ビールや日本酒など醸造酒は保存できる期限が限られているのに対し、蒸留酒はアルコール度数が非常に高いため常温でも保存ができる。

2つ目の理由はジンというお酒の定義が非常に柔軟でプロダクトとして幅が広い点だ。ジンは元となるアルコールは米でも麦でもブドウでも何からできていてもよく、そこにジュニパーベリーと呼ばれる木の実から香りをとって蒸留すれば、ジンと呼んでいいというのが世界共通の定義である。そんな特徴をもったジンだからこそ、同社が実現したいフィロソフィとの相性がよい。

では、同社のジンは他社と比べて何がユニークな点なのか。酒粕から始まったというストーリーのユニーク性はもちろんだが、品質においてもユニークな点が2つあるという。

1つはベーススピリッツそのものが味や香りを持っている点だ。他社だと味のないスピリッツに味や香り付けしていくのが一般的だが、同社のベーススピリッツは酒粕やビールなど廃棄素材で作られるため、素材の持つ味わいや香りを持っている。

もう1つのユニークな点はボタニカルに使われる素材へのこだわりだ。これも同社のフィロソフィが色濃く反映されており、これまで実際に使用された素材は廃棄される予定だったみょうがの茎の部分やカカオ豆の殻などである。今までは使われていない素材に着目し、酒粕に合うものを毎週数素材実験し、組み合わせを検証している。

このような素材へのこだわり、活用方法の独自性に加え、単純においしいかどうかという味へのこだわりも重要な点だという。客観的に美味しいと認められるかということを重視しており、世界で最も大きなジン市場をもつイギリスにて行われる品評会で2021年度日本で最高のジンとして評価されている。「今我々が出せるベストを出せているかというのは常に評価をいただくようにしています」と小野氏は語った。

プロダクトとして強いこだわりをもつ同社だが、販売戦略はどのように進めているのか。基本路線は、D2Cブランドの方法は尊重しつつ、既存チャネルでの販路拡大に注力していく戦略だと小野氏はいう。

物量を出していくためには問屋であったり、業務用酒販店など既存チャネルの活用が必要だ。そこでしっかりと量を担保し売上に繋げることで、酒粕の消費量も上がっていく。最近では、大手スーパーマーケットにも棚を置いてもらい、お客様の認知獲得を狙っている。

D2Cではオンラインで運営する自社ECに加え、オフラインでも直営ショップを蔵前と大手町に運営している。特に蔵前のショップでは1階は蒸留所とショップになっており、2階では食事を楽しめるバーとダイニングスペースになっている。そこでは、まだまだ食中酒としての認知がないジンの新しい楽しみ方を提案している。

講演の最後には、エシカル・スピリッツが目指す循環型経済について語られた。

重要なのはインパクトをいかに作れるかというところであり、酒粕からできたジンが何本飲まれて、酒粕何トン消費されたかが1番分かりやすい指標であるという。そのためには、ストーリーで推すのではなくて、未来のスタンダードをどう作るかがポイントであり、アップサイクルやサステナブルな取り組みが品質に繋がることが重要だと小野氏は語る。

「最終的には本当に美味しいジンを選んだら、たまたまサステナブルなジンだったという気づきが重要です。だから、これからも質にこだわっていきたいと思います」と言葉を添えた。

初期投資が重たい事業でどのように対処したか

イベントの後半には参加者より小野氏に向けて、質問が行われた。

事業立ち上げにおいて最も大変だったことはという質問に対しては、初期投資が非常に大きいと回答。参入障壁は高くない業界ではあるものの、設備への投資など、とにかく初期投資のかかる業界であり、プロダクトマーケットフィットがとれるまで、どれだけ投資を抑えた上でやっていくかが大変なポイントだったと振り返った。また、その対処方法としては事業内容に共感してくれたパートナーの中で蒸留機などを持っているパートナーの協力を得ながらプロトタイプを製造を行うことであると答えた。

資金調達の戦略はどうか。新しいお酒を作っていくというR&Dと、売上を伸ばすための製造キャパシティ増加の2本軸があるという。新しいお酒についてはつくば市の国立森林総合研究所との取り組みで木そのものから作るお酒に取り組んでいる。製造キャパシティ増加への設備投資としては現在千葉に蒸留所を作る計画があるという。

海外戦略についても質問がされた。3、4年後には輸出の売上が全体の30~40%になることを目標としており、主にヨーロッパが中心になるという。その中でも、ジンの市場が大きいイギリスでは輸入代理店を使わず、ロジスティックを手伝ってくれるパートナーを見つけて、自分達で販売していく方法をとっている。一方、中規模ぐらいの市場のイタリアなどは独占権をお渡しして輸入代理店で販売していく方法を採用した。現在は2種類の攻め方でどちらがワークするかを検証している段階だという。

事業の継続性について工夫していることは何か。事業の継続性については酒粕の継続性が直結しているという。そのため、これまでのパートナーに加えてさらに酒蔵とパートナー関係が組めるかがポイントだと語った。

文化との融合や認知獲得のためにどう展開していくか。認知という観点だと客観的な評価をとるというのが非常に有効だという。コンペティションで結果を残し、実力を持っている会社という評価がとれれば、新製品を出す際もある程度のコンフィデンスを持って販売いただけると説明した。また、食文化との融合という観点においては、ジンをいかに食中酒にもっていけるかが重要で、そこについては大企業のマーケティングにのっていくことを考えていると答えた。

取材を終えて

近年、フードロスの問題やアップサイクルが注目されており、消費者の購買行動は変化している。ただ、この流れを本当に持続可能なものにしていくためには、環境のために仕方なくやっているという”やらされ感”ではなく、一人一人が進んで行動していくことが大切である。

その点で、美味しさという品質にこだわり、その後にストーリーがついてくるというエシカル・スピリッツのアプローチは非常に有効な手段だといえる。

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