【事例】若手中心に新事業プロジェクトを発足。自走するための事業開発プロセスと人材育成をサポート ーー戸田建設株式会社

 addlight journal 編集部

1881年(明治14年)の創業以来、学校や病院、国の重要文化財やインフラなど、ゼネコンとしてさまざまな建物を手がけてきた戸田建設株式会社。(以下、戸田建設)

人口減少によりインフラの新規開発から維持管理に市場が移りつつある中で、新しい収益源になるような新規事業を立ち上げることは建設業界全体の課題だ。戸田建設も次の事業の柱となるような新規事業を模索し、新事業プロジェクトを立ち上げた。

アドライトは同社に対し、2019年度よりマインド醸成を目的としたワークショップを実施。また、フレームワークを使ったアイデア整理や新規事業開発に関わる一連のプロセスに対し伴走支援を行った。

今回、同社にて新規事業開発を推進する戦略事業推進室 新事業プロジェクト推進部 部長 の松井行太氏(以下、松井氏)、イノベーション戦略部 主管 兼新事業PJ推進部 課長代理の斎藤寛彰氏(以下、斎藤氏)にお話を伺った。

会社紹介:戸田建設株式会社

戸田建設株式会社では、「”喜び”を実現する企業グループ」をグローバルビジョンに掲げ、建築・土木など建設事業、地域開発・都市開発、不動産管理や売買、再生可能エネルギー等による発電事業などの事業を展開。

自力で事業を創る力を身につけるために支援を依頼

ーープロジェクト立ち上げの背景についてお伺いします。新事業プロジェクトを始めるにあたり、どのような課題をお持ちでしたか?

斎藤氏:新事業プロジェクトの検討を始めたのは2016年頃です。グループ全体としてこれまでずっと建設事業をやってきましたが、人口が減少するなか、インフラも維持管理に市場がシフトしていくとされることもあって、次の事業の柱となるようなものを模索していました。

当時はオリンピック需要で建設業界全体が盛り上がっていたのですが、「オリンピックが終わったらどうなるんだ」という危機感から新しい事業に取り組まないといけないという意識も業界全体にありました。

ーー新事業プロジェクトに取り組まれるまでの経緯について教えてください。

松井氏:新しい領域に投資を進めていく上で、当時は色々な部門でバラバラに担当しており、情報が共有できていませんでした。そこで、一元化を見据えて戦略事業推進室が5年前に立ち上がりました。ここでは我々の本業である建築土木以外の新領域から収益を上げていく目的を持っていまして、不動産投資や洋上風力発電事業、海外にも投資をしています。

また、グループ会社の底上げを図るために、新しい事業の立ち上げを推進する役割もあります。今回の新事業プロジェクトでは、若手を何人か集めて新たな発想で事業に取り組んでみたらどうかということで、さまざまな部署から人を集めてプロジェクトチームを立ち上げました。

斎藤氏:その中で私はプロジェクトチームのリーダーとして活動しています。当時は、特に”重厚長大なビジネスではなく、短期的に成り立つようなビジネス”に会社として取り組んでいなかったこともあって、まずはビジョンを策定するところからスタートしました。

プロジェクトを進めていく上で、ビジョンの策定までは内部で整理ができたのですが、いざ具体的に進めていくとなると新規事業を進めた経験がある者がほとんどいないことで、どうすればよいのか全くわからなかったのが正直なところです。そこで、外部のサポートをお願いしようということになり、アドライトさんに相談させていただきました。

ーー外部のサポートを検討してから、選定までの流れを教えてください。

斎藤氏:新規事業開発やスタートアップのコミュニティーイベント、セミナーなどに参加し、色々とお話をお伺いしました。その中で、アドライト代表の木村さんが登壇されたNEDOのイベントに参加したのが知ったきっかけです。

調査をしていた頃、大企業の新規事業開発を支援している会社はあまり多くなかったのですが、アドライトさんは我々のような企業への支援実績があるということで、我々がやりたいことに合致した支援をされていると感じました。

お話をお伺いする中で、誰でも使いやすい事業アイデアの整理の仕方など、再現性のあるフレームワークを使ったプロセスが非常にわかりやすかったのと、要所要所で支援をいただくというよりは、伴走して一緒に取り組んでくれるスタイルというのが新規事業開発に関わる人材の育成という弊社の目的にも合っているのではないかと感じました。

社員のアイデアから3件のPoCを実施。立ち上げの過程が人材育成にも繋がった

ーー新規プロジェクトに対し、どのような支援を受けたか教えていただきたく思います。まずはどのようなことから取り組まれたのでしょうか。

斎藤氏:新規事業をうまく進めるためには、新規事業をやりたい人がいて、その人がやりたいテーマがあって、それらが会社の事業と重なっているのかが重要です。なので、まずは”新しいことをやりたい人がいるのか”を調べる活動から始めました。

具体的には、アドライトさんに全国11支店を弊社と共に行脚してもらってワークショップを開催しました。

それまでは新規事業をやらなければいけないという雰囲気はありましたが、具体的にどうすればいいか分からないという状態でした。ですがアドライトさんに事業開発の仕方や考え方、市場の捉え方などをご説明いただいた結果、どのようなステップで事業開発を進めていけば良いのかが整理できたと思います。またワークショップを通じて、新規事業に取り組みたい人材やアイデアの発掘にも繋がりました。

ーーワークショップ実施から、実際に事業化されていく過程ではどのような支援内容でしたか。

斎藤氏:事業開発に挑戦したい社員を部門に集めて、ワークショップから出たアイデアをヒントにしながら事業化に向けた検討を進めていきました。

70件ほどのアイデアをどのように評価していくのかという過程でフレームワークの設定や使い方を教えてもらったり、市場調査をいただいたりと幅広くご支援をいただきました。ビジネス形態や市場規模、実現性、弊社の重点領域との親和性などの観点で1件1件整理していき、10件まで絞りました。

アイデアの絞り込みでは、皆が納得しながら篩にかけられるかというプロセスの部分が重要だと思うのですが、アドライトさんから客観的なアドバイスをいただくことでスムーズに進められたと思います。絞り込んだ10件のアイデアについては、やりたい人がいるかという観点からさらに絞り込んで検討を進めていきまして、最終的には3件のテーマでPoCを実施しました。

ーー取り組まれたPoCの内容について教えてください。

松井氏:「仮囲いアートギャラリー」「ワーケーション」「郊外型コワーキングスペース」の3つに取り組みました。

「仮囲いアートギャラリー」は、工事期間中に工事現場の周囲に設ける囲いを仮囲いというのですが、そこにアマチュア芸術家の作品を展示するという取り組みを行いました。

工事現場の仮囲いというのは殺風景なところがあるのですが、地域に馴染んだ作品を飾ることで景観も華やかになりますし、若手の芸術家を知ってもらう機会になるのではないかということでPoCを実施しました。

「ワーケーション」は、逗子市と共同で取り組んでいるプロジェクトです。(詳細:地域の魅力を再定義。逗子から始まる官民連携ワーケーション)当時、菅官房長官が働き方改革の文脈で推進してたこともあって、新聞やTVなどでも取り上げられました。コロナの影響などから当初の予定通りにはなかなか進まない部分もありましたが、ウェビナーでの認知度向上などできることから進めております。

「郊外型コワーキングスペース」は、千葉県印西市に牧の原テーブル・コワーキングとしてオープンしました。都内に出ずとも快適に働けるようなスペースを提供しています。オープンして半年になりますが、徐々に登録者も増えてきています。辛抱強く積み上げて、印西牧の原での取り組みをモデルケースに全国に展開していきたいと考えています。

いずれのPoCも「遊休不動産の活用」と「地域の課題を解決し、地域活性化に繋がるような取り組み」がポイントです。我々としては不慣れなBtoCのビジネスだったのですが、人口動態の調査の仕方やメディアの選び方など、アドライトさんに実践的にご支援をいただきました。

ビジネスの観点から再度整理し、現状プロジェクトとして進めているのはワーケーションとコワーキングスペース事業の2つですが、いずれも既存事業とのシナジーも視野に入れてビジネスを拡大していきたいと考えています。

挑戦したい人が挑戦しやすい仕組み作りに取り組みたい

ーー取り組みを通じてどのようなことを得られたと感じますか。

斎藤氏:今回、2つのプロジェクト立ち上げを通じて新規事業開発のやり方や考え方を教えていただきました。実は、アドライトさんの支援後に自社で1つ新しいサービスのプロジェクトを立ち上げまして、まさに実証実験中です。ご支援いただいた経験を活かして、他のプロジェクトにも応用できています。

松井氏:ご支援いただく中で課題の整理やプロジェクトの進め方など、新規事業開発に関わらず、ビジネスを進める上で役立つ経験ができたと思います。今回、若手中心のプロジェクトでしたが各人の成長に繋がったと思いますし、所属部門に持ち帰って展開することで、本業にもよい効果がもたらされたのではないかと思います。新規事業も既存事業もベースとなる進め方は一緒だと思うので、非常に参考になったんじゃないかなと思います。

ーー今後の展望について教えてください。

斎藤氏:今まではやりたい人がいて、やりたいテーマがあっても、会社としてそれを引き上げていく制度がなかったので、事業開発がサステイナブルではない状態でした。まずは今回新規事業開発の一連の流れを経験できたので、今後は挑戦したい人が挑戦しやすい仕組みづくりに取り組んでいきたいと思います。

松井氏:まずは、立ち上がってきた新規事業を進めるうえで見つかる課題に取り組んでいきたいです。それが本業にも繋がるでしょうし、投資にもつながっていく。どんどんチャレンジをして新しい発想をしていくのが大切なのではないかと思います。