バイオマスを活用した事業開発の伴走支援。言語化で見えた事業の姿とは ーーダイセル

 addlight journal 編集部

1919年にセルロイドを生産する8つの会社が合併し生まれた大手化学品メーカーである株式会社ダイセル。(以下、ダイセル)

ダイセルでは、第四次長期ビジョン「DAICEL VISION 4.0」と「サステナブル経営方針」を策定し、特にバイオマス資源の活用と産業間連携を通じて新たな社会的価値の創出を図るバイオマスバリューチェーン構想の実現を推進。バイオマスへの取り組みの中で生まれた木材を常温常圧で溶かす技術─「超穏和溶解技術」の社会実装に向けて力をいれている。

アドライトは同社に対し、「超穏和溶解技術」を活用した新規事業の伴走支援を実施。事業におけるビジョンの言語化や課題定義、事業計画の草案作成の支援を行った。

今回、同社にて事業化のプロジェクトを担当したバイオマスイノベーションセンター バイオマスラボ 所長 後藤 友尋氏と磯江 亮祐氏にプロジェクトについてお話を伺った。

会社紹介:株式会社ダイセル

株式会社ダイセルでは、「価値共創によって人々を幸せにする会社」という理念のもと、硝酸セルロースを原料としたセルロイドの製造を原点とし、有機合成、合成樹脂、火工品など幅広い分野の製品を開発・製造。事業としてはヘルスケア、メディカル、半導体、モビリティ、マテリアル、エンジニアリングプラスチックなどの事業を展開している。

公式サイト:https://www.daicel.com/

社会課題解決に繋がるバイオマス技術をどう実装していくか

ーーダイセルのバイオマスへの取り組みやバイオマスイノベーションセンターについて教えてください

磯江氏:当社では従来よりバイオマス技術に取り組んできましたが、明確に方針を打ち出したのが2年前です。中期経営計画の中でバイオマスプロダクトツリーの構築に取り組むと宣言し研究部門が立ち上がり、2023年4月には「超穏和溶解技術」の社会実装に取り組むバイオマスラボという組織が立ち上がりました。

ダイセルがバイオマス資源の原料化に取り組み始めた背景は、国内の放置された森林の社会課題を解決するためです。ダイセルはセルロースをコア事業として素材開発を行ってきた会社で、今まで主に輸入パルプを原料としてきましたが、その技術を活かして、国産木材などのバイオマス資源を原料にすることで社会課題に貢献できるのではないかと考えています。国産材を化成品として付加価値をつけ、そこで生まれた利益を一次産業に還元できるようにすることがバイオマスイノベーションセンターのミッションになります。

ーー今回「超穏和溶解技術」に注目された背景を教えてください

磯江氏:バイオマスイノベーションセンターができる前からも、各大学との共同研究やリサーチを行っています。

その中でも「超穏和溶解技術」は少し開発ステージに進んできて、木材をとかすことで得られる素材の形態や機能が見えてきたというのがこの技術に注目している背景になります。例えば、接着性、加飾性の機能は塗装代替に使えるなどが見えてきたので、では実際何に使えるのか、最終製品にするには何をしたらいいのかを見極める段階にきたと判断し、専門チームで取り組みを開始しました。

※編集追記※
「超穏和溶解技術」とは…あらゆる樹木を溶かすことができ、紙状、糸状、その他成型物など、あらゆるマテリアルの形に再構成する液化木材をつくり出す技術のこと。従来は困難とされていた、さまざまな種類・状態の木材を余すことなく“超穏和に溶解”することができ、有機酸と攪拌するのみの簡易な工程で、エネルギー的な負荷が非常に少ないのが特徴。

(詳細はダイセル社が運営するメディア「Bipass」を参照ください)

ーーダイセルでは新技術の社会実装をどのように進めるのですか

磯江氏:まず、新素材ができたら、その素材の機能が活かせそうなメーカー様に持ち込んで、議論を進めていきます。その中で足りていない機能がないかなど課題を拾っていき、それを研究へフィードバックし、さらに追加開発するというのが通常の流れになります。

しかし、今回のバイオマスイノベーションセンターでの取り組みは、そもそもどうやって原料を調達するのかやどのくらいの事業規模を想定するのかなどの構想が見えていないところからのスタートでした。そのため、通常の流れのように、ただ単にメーカー様と話を進めて機能を追求するだけでは事業として立ち上がらないなと感じていました。

バイオマスイノベーションセンターが立ち上がって1年ぐらい展示会等でサンプルをお披露目するような活動はしていて、バイオマスに注目が集まっていることもあり問い合わせをいただく機会も多くあったのですが、木材をとかすこの技術ならではの独自性などが出せるような取り組みには繋げられていない部分もありました。新規事業にかけられるリソースも限られているので、受け身ではなくて、自らこの技術をどう活用するのか、どのお客様と向き合ってどう対応するのかという戦略を考えていく必要性を感じ、全体の戦略を考える上で外部支援企業のサポートを求めて、アドライトさんに依頼する流れとなりました。

選定の決め手は伴走支援する上で大切な「汲み取ってくれる力」

ーー今回、弊社にご依頼いただきましたが、外部支援企業はどのように調査されましたか

磯江氏:事業戦略を立てる上でプロの方に入っていただこうという話はあったのですが、依頼する上で「コンサルさんの企画になってはダメだよ」というのは社内で話に出ていました。というのも、今回の取り組みは、大きな利益を追求するだけではなく、我々バイオマスラボが考えている社会課題への貢献などの想いも含めて戦略を立てていけるような形を求めていたからです。そのため、丸ごとお願いするようなところというよりは、伴走支援できるところを選ぼうというのがまず最初の軸になりました。

最初はウェブ検索で「新規事業 伴走支援」のようなキーワードをいれて、明らかに今回の取り組みにマッチしないようなITコンサルなどは除いて、ヒットした9社ほどに問い合わせしました。

ーー外部支援企業の決め手となったポイントを教えてください

磯江氏:実際には問い合わせたうち、5社と商談させていただき、比較を進めました。その中でまずは弊社が考えていたスケジュールや予算の中で、目的としていた事業計画の草案作成まで伴走支援ができる企業を検討しました。他の企業だと想定していた予算やスケジュールでは事業仮説構築までしかできませんでしたが、アドライトさんだと我々が求めているところまでできることが分かり、選定の大きなポイントになりました。

また、特にバイオマスラボが考えていることを汲み取ってくれたのがアドライトさんで、我々が構想していたバイオマスバリューチェーンという考えを汲み取って、提案時から言語化してくれていたのがすごく印象的でした。他にも、面談時の雰囲気や過去の自治体との取り組み実績、スタートアップの方々への広いネットワークをお持ちという点などもあり、バイオマスバリューチェーンの実現に幅広くお力を貸してくれるのではないかという期待もできたので、アドライトさんに決めました。

©Adobe Stock

一歩一歩言語化することでやるべきことが明確に

ーー今回のプロジェクトに対し、どのような支援を受けたか教えていただきたく思います。どのようなことを支援として受けましたでしょうか

磯江氏:体制としては、弊社は私とバイオマスラボ所長の後藤が参加して、アドライトさんからは2名アサインいただいて、主にこの4人で月3〜4回ぐらいの定例会で議論させていただきました。事業企画を策定する中で、事例検索やヒアリングのサポートなどをいただいたり、過去我々が集めていた情報をどういう切り口で整理していけば良いのかというのを壁打ちを通して支援いただきました。

プロジェクトの始めでは、まず我々がどういう社会課題と向き合いたいと考えているのかの抽象度が高かったので、具体的に言語化していくというところから始めていきました。向き合うべき社会課題を定義した後に、バイオマスラボが目指すミッションやバリューを決めていきました。その後は私たちの技術、素材のターゲットとなる市場選定を、ヒアリングや記事検索などを通して支援いただき、事業試算も作って、最終的に計画にまとめるところまで伴走いただきました。実際にメーカーとのやりとりも始まっており、弊社で作った木材由来のフィルムについて、メーカーとの取り組みも始まっています。

ーー支援を受けられての所感や印象的だったことを教えてください

磯江氏:まずは頼もしかったというのが率直な感想です。私自身コンサルティングを受けるのは、初めての経験でしたが、実はギャップもありました。なんとなく、コンサルとの定例会は奇想天外なアイデアを出し合う場になると思っていたのですが、どちらかというと定例会はやるべきことを真面目に一つ一つ確認していく場で、目的を決めて、それについて徹底的に調べることを毎回の提案でいただきました。私の性格的にもやるべきことが明確な方が進めやすかったですし、目に見えて必要な情報が集まってきたのを感じました。

社内だけでやっていると、「本当にこの切り口で良いのか、ここを調べていてよいのか」と自信が持てないことがありますが、今回アドライトさんに客観的なアドバイスを頂きながら進められたので、調査も自信を持って進めることができました。さらに、プロジェクト全体のPMを担当された渡邊さんが集まってきた情報を綺麗に整理してくれて、そこで作成した図は色々な場面で活躍しています。

特に、木材のサプライチェーンを改めて整理した時には、我々の事業のベースとなる「誰の、どの課題か」を整理することができたのが印象的でした。私も過去に何度も世の中にあるフレームワークを使ってサプライチェーンの整理をしたことがあったのですが、どれもしっくりきませんでした。今回の取り組みでアドライトさんに協力していただきながら整理した図は直感的に理解しやすく、情報を整理することができ、整理の仕方って大事だなというのを感じました。

ーー支援を通じてどのような効果があったと感じますか

磯江氏:振り返ってみると、先ほどの情報収集や整理ができたことはもちろん、ターゲット市場の選定においても今回アドライトさんに支援を依頼した意味がありました。PMの渡邊さんからは「木で作るプロダクトなのだから、まずは木材の廃材活用をしている事例を調べてみましょう」とアドバイスをいただいたのですが、これが結構我々にとっては盲点でした。

というのも、我々は化学メーカーで普段はプラスチックをベースに各製品を考えていることもあり、今回の技術も石油代替からという風に考えておりました。そのため、お客様は化学製品業界をイメージしていましたが、アドバイスを元に事例を調べていくうちに木の特性を活用したメーカー様にも可能性があるのではないかと発見がありました。そこから実際に繊維やレザー、化粧品メーカーなどの我々が想定してなかった用途を抽出することができて、内部だけでは見れなかった市場が開拓できたのも大きな成果だったと思います。

バイオマスバリューチェーンの実現に向けて

ーー今後の取り組みについて教えてください

磯江氏:ラボスケールだったものをベンチスケールにスケールアップして、サンプルワークで用途探索ができればと考えています。役員陣には事業企画の草案を説明し、プロトタイプをどんどん作ってくれという話はいただいたのですが、本当にお客様から求められるものなの我々も自信を持ってメーカー様に持ち込める状態にはなっていないので、試作品をたくさん作ってメーカー様や一般消費者の方の声を拾う活動を行うのが次の目標と考えています。それらを元に事業企画の草案をブラッシュアップして、より説得力のあるものにしていきたいです。

また、バイオマスバリューチェーンの構想を実現するにあたり、もう一つの取り組みとして「プラットフォーム構築」の活動も行っていきます。地域に分散しているバイオマス資源を地産地消していくことを考えた時に、私たちと共創できるようなプレイヤーの方が関わっていく場づくりのようなものができればと考えています。

その活動の一つとして研究以外にも「Bipass」というWebメディアの運営を行っています。バイオマスを加工する技術を持っている人や地域の資源を使って地域を盛り上げようとしている方々など、新たなサーキュラーエコノミーを実現しようと模索している方々との繋がりを作れるようなメディアにしていければと思っており、これがプラットフォームにも繋がっていけばと考えています。