事業開発におけるChatGPT活用のポイントとは。AIとの共創で人が担うべき役割

 addlight journal 編集部

AI技術の進歩は目覚ましく、従来の人間同士の共創に加え、人間とAIがどのように共創するかが重要視されている。特にChatGPTの登場はビジネス界に新たな可能性を提示し、多くの企業がその活用方法を模索している。新規事業開発の分野でもChatGPTを取り入れる試みが増えているが、うまくいくケースは少ない。

そこで、アドライトでは「ChatGPTとの共創による新しい事業開発のカタチ」と銘打ったウェビナーを開催。ウェビナーではChatGPTをいかに新規事業開発のプロセスで取り入れていくのか、新規事業開発における3つの起点からのアプローチ方法やその理論、ケーススタディを交えた実践解説を有識者である九州大学大学院芸術工学研究院准教授 徳久悟 氏に語っていただいた。

本記事では、ウェビナーで語られた内容のサマリーと関連プログラムについて紹介する。

事業開発におけるChatGPTの活用方法

登壇者である徳久氏から新規事業におけるChatGPT活用の要諦、新規事業開発における3つの起点、AIとの共創で人が担うべき役割について語られた。

ChatGPT活用のポイントは「適切な理論が使えるか」

単にサービスアイデアをChatGPTに問い合わせるだけでは、表層的な結果しか得られない。どのようにすればChatGPTを通じて検討に値するアイデアが得られ、プロセスを効率化できるのか。

徳久氏は、ChatGPTを活用する際に事業開発のプロセスの中で特定のステップで単発的に利用する「点」での使い方ではなく、プロセスの中で各ステップで活用する「幅」と、新規事業構築、デザイン、イノベーションマネジメントに関連する適切な理解を持って利用する「深さ」を意識する必要があるという。

まず、ChatGPTはイノベーションプロセスにおけるリサーチ、分析、アイデア生成、プロトタイピング、実装、そしてスケールアップの各段階で幅広く活用できると徳久氏はいう。

また、各プロセスでの活用を深めるには、それぞれのステップを深く理解し、適切な理論に基づいてプロンプトを設計することが不可欠である。ChatGPTのテクニカルな話の前に「適切な理論が使えるか」が重要なポイントであると徳久氏は語った。

新規事業開発を行う上で重要な3つの起点

新規事業開発において重要なのは「人間/課題起点」「シーズ/テクノロジー起点」「リソース/パートナー起点」の3つの起点で考えることである。そして、ChatGPTの活用においてもそれぞれの視点における手法や理論を理解することが重要だと徳久氏はいう。

人間/課題起点は、人間の課題やニーズから出発し、新規事業を考えるアプローチである。このアプローチは、フィールド調査を通じて現場やヒトのデータを収集し、そのデータからアイデアを着想するプロセスである。実際のビジネスシーンやアカデミアで用いられるこの手法は、顧客の課題を深く理解し、それを解決するサービスや製品を開発することに貢献する。

シーズ/テクノロジー起点は、特定の技術やイノベーションを基に新規事業を構築するアプローチである。徳久氏からはMITのマーティン・トラスト・センターで採用されている技術ベースの新規事業開発手法が紹介された。この手法は、技術ありきで考えられていることが特徴で、技術を市場に適用するまでの道筋を具体的な24のステップに分解することで、各ステップのアクションを明確にする。

リソース/パートナー起点は、自社やパートナー企業が持つリソースを活用して新規事業を創出するアプローチである。徳久氏は「エフェクチュエーション」という概念を紹介し、熟達した起業家に共通する特徴を基に、どのようにしてビジネスを立ち上げ、成長させるかという原則を説明した。エフェクチュエーションでは、「自分が何を知っているか」「誰を知っているか」「どのリソースを持っているか」という手元にある手段から出発し、許容できるリスクの範囲内で事業を進め、不確実性をも活用しながらパートナーシップを活用し、事業を構築していく。

また、技術起点やリソース起点において、どの市場を選ぶのかについて、アンソフのマトリックスというフレームワークが紹介された。アンソフのマトリックスは、企業が成長戦略を立てる際に用いるフレームワークで、市場と製品の既存/新規を軸にした4つの成長戦略を提案する。徳久氏は、このマトリックスを使って、新規事業開発における様々なアプローチをどのように検討するかを説明した。

そして、ウェビナーではこの3つの視点を元に、ハンズオンでChatGPTの使い方が実演された。

AIとの共創で人は何をするべきか

講演の最後には、AIとの共創のポイントが紹介された。ChatGPTの活用においては、これまで説明してきた通り、適切な理論に基づいたプロンプトの提供が重要である。加えて、プライマリデータの重要性を徳久氏は強調する。ChatGPTはインターネットの中にあるデータを使って学習されており、基本的には同じプロンプトであれば、同じ回答が返ってくるためオリジナル性が出ない。しかし、フィールド調査や自社とパートナーのリソースを踏まえた自分たちしか持っていないデータを用いることができれば、オリジナルな回答を得られる可能性が高まる。

また、ChatGPTの回答が自分の求めるクオリティに達していない場合、どこがどう達していないかを対話を通じてフィードバックすることで、アイディアの精緻化が可能であることもポイントとして紹介された。

パネルディスカッション

ウェビナー後半には、弊社代表 木村のファシリテーションのもと、パネルディスカッションが行われた。

「AIを活用した有望テーマの探索では、各社が同じ成果を得ることができると思われるが、競争環境の中で差別化されたテーマを見出すことは可能か」という質問に対し、 徳久氏は、プライマリーデータを提供しない限り同じ成果になる可能性が高いと説明。しかし、フィールド調査の結果や自社の顧客からのフィードバックデータなど、自社しか持っていないデータを活用することで、差別化を図ることが可能であると述べた。

​「ChatGPTが出力するアイデアが実現不可能な案だった場合の軌道修正はどうすればよいか」についての質問に対しては、新規事業のアイデア出しにおいて、実現不可能な案が出てくることがあると認めつつも、そのような場合には、例えば工学的に難しいのか、コスト的に難しいのかなどその理由を明確にし、対話を通じて解決策を探求することが重要であると回答した。

関連プログラム「INTRAPRENURz」

ここからは今回の講義などに関連するプログラムである「INTRAPRENURz」について紹介したい。

このプログラムは「DOJO – イノベーション人材育成支援」「SHSHERPA – 事業開発伴走支援」「COMPASS – インキュベーションマネジメント支援」と大きく3つのパートから成り立っている。

「DOJO – イノベーション人材育成支援」では、5段階のプログラムになっており、単なる研修ではなく、新規事業の経験を積んでもらう実践型のプログラムになっている。

「SHSHERPA – 事業開発伴走支援」では、伴走型の支援を行なっており、個別の課題設定やフレームワークに沿った新規事業支援を行なっている。

「COMPASS – インキュベーションマネジメント支援」では、ステージゲート制度の設計やテーマ評価の設計、生まれてくる事業のマネジメントをするための仕組み作りを伴走型で支援する。

加えて、「INTRAPRENURz CAMP」という複数企業参加による事業開発と人材育成のための集中プログラムもある。(INTRAPRENURz CAMPの様子については過去の記事を参照いただきたい)

ChatGPTを使ったオンライン事業開発プログラムとは

最後に、INTRAPRENURz DOJOに関連した弊社の新しいプログラムであるChaGPTの活用プログラムについても紹介をしたい。

このプログラムはChatGPTを実際に企業の新規事業開発の中でどう具体的に使っていくかを支援するオンラインプログラムである。1チーム4人を基本とし、最大で20名、5チームまで参加可能となっている。提供されるプランには、半日プラン、1ヶ月プラン、3ヶ月プランがあり、プログラムのスコープはそれぞれ異なるが、いずれも実際に手を動かして進めるオンラインプログラムとなっている。

詳細についてはこちらのサービスページもご確認いただきたい。

まとめ

本記事では、新規事業開発におけるChatGPTの活用方法について、ウェビナーの内容を元にご紹介した。

ゲストの徳久氏からは「適切な理論に基づくプロンプトの提供」が語られた。現状の生成AIは無限にある可能性からプロンプトを基に確率的に回答しているに過ぎない。つまり、適切なプロンプト設計ができないと、求める回答は得られない。また、真にオリジナルなアイディアを得るにはプライマリーデータの重要性が大切であることも強調された。今後、人に与えられた役割としては、インターネット上だけではカバーできないプライマリーデータにアクセスすることが重要になる。それらを用いて、さらに対話を通じてアイディアを深めていくことが重要である。