シニアビジネスを展開する起業家の、アイデア創出プロセスとは

 addlight journal 編集部

2022年9月7日、弊社アドライトはアイディエーションCamp #1を開催。

本イベントシリーズは、毎月起業家やイントレプレナーをゲストに迎え、製品やサービスの開発の裏側にある思考プロセスに迫ることで、アイデア創出のヒントを得ることを目的としている。

初回は、介護ワークシェアリングアプリを開発するカイテク株式会社 代表取締役 武藤 高史 氏と排泄予測デバイスなどの事業を展開するトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役 中西 敦士 氏と話題のベンチャー起業家2名をゲストに迎えた。

本記事では、登壇者2名による事業紹介、弊社代表の木村を交えたパネルディスカッションの様子をお届けする。

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カイテク株式会社の紹介 -業界初の介護ワークシェアリング『カイテク』

カイテクが持つフレームワークとは

カイテク株式会社は、「人類未踏の介護医療人材不足を無くす」というミッションを掲げ、業界初の介護ワークシェアリング「カイテク」のサービス開発・運営を行なっている。

介護ワークシェアリング「カイテク」では、介護職に従事される方と介護施設を繋いで、いつでもすぐに働ける世界を目指す。近年ではウーバーイーツやタイミーなど、ギグワーカーという新しい働き方は浸透しつつあるが、カイテクの特徴は介護職というエッセンシャルワーカーに特化している点だ。

同社が介護職に特化したワークシェアリングサービスを始めた背景に、超高齢化社会である日本が抱える介護職人材の不足という問題がある。

すでに人材不足は顕著であるが、今後さらに需給差が拡大し、人材不足は深刻になっていく事態が予測されている。AIによる代替も非常に困難な仕事であり、現状は人間が対応せざるを得ない。

カイテクが見つけ出した、介護人材不足解決の方法 

深刻な人材不足の解決に取り組むうえで、「カイテク」は眠っている介護人材リソースに注目した。「有資格者の埋没労働時間」を「労働時間」に転換することを目指しており、「新しい働き方」をソリューションとして提供する。

カイテクが提供する「新しい働き方」とは何か。
ポイントは「すぐに(最短当日)」「SPOT(1日単位)」で働ける点だ。また、即日スポットの働き方はこれまでもあったが、介護職は誰でもできる単純作業ではなく、命を預かる仕事であり、この3つを掛け合わせることで新しい市場を開拓している。

また、それらを実現するためにテクノロジーを活用しており、独自信用スコアリングを利用し面接なしでの即日採用の実現、契約に関わる手間な作業の自動化、データ活用による職場改善などを行なっている。

利用事業者数、勤務ワーカー数など、重要なKPIも右肩上がりに成長しており、4.4億円の資金調達にも成功するなど、順調に事業拡大している。

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の紹介 -排尿のタイミングをスマートデバイスに通知できる世界初の排泄予測デバイス『DFree』

トリプル・ダブリュー・ジャパンが持つフレームワーク

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社は、超音波で膀胱のたまり具合を捉え、スマートデバイスにトイレのタイミングを通知することができる排泄予測デバイス「DFree」を開発、運用している。

「DFree」は施設向け、個人向けにそれぞれ販売を開始しており、特定福祉用具販売の新種目として、新技術を活用したものとしては11年ぶりに追加されるなど、すでに現場で活用が進んでいる。

排泄予測が求められる背景に、特に介護の現場における失禁の課題と、オムツなど伝統的な排泄ケアの限界がある。
介護する側にとって、排泄介助は負担が最も重い業務である。先の説明でも記載した通り、介護人材の不足が深刻化していく中で、その負担は在宅介護の家族ボランティアに向かっている。

介護される側にとっても、排泄の問題は適切なケアが求められる。失禁は威厳や自立性、情緒の低下に繋がり、著しくQOLが低下する。また、認知能力が低下しても便意・尿意は感じるため、自分でトイレに行こうとした際の転倒など危険な事故の要因にもなりうる。

これらの問題に対して、伝統的な排泄ケアはどのように対処してきたか。
代表的なものにオムツがある。実は日本は世界平均の3倍大人用のオムツを消費している。しかしながら、多くの人々は大人用オムツを着用することに抵抗があり、加えて再利用できないオムツがそのままゴミになるという環境問題にも関係している。

また、排尿日誌などで予測をするアナログな方法もあるが、プロでも他人の排泄タイミングを測ることは難しい。タイミングを外せば、何度もトイレに連れていくことになり、生産性を下げる要因となりうる。

「DFree」という新たな方法

これらの伝統的な排泄ケアが解決できなかった問題に対処できるのが、「DFree」だ。
DFreeが提供する価値は利用者のQOL向上と、介護職員の排泄業務の負担軽減である。実際にエビデンスが提示可能な効果としては以下のようなものがある。

現在、排便予測デバイスも開発中で、今後は同社が持つ要素技術を活かして、遠隔医療のキーデバイスとなるウェアラブルエコーの開発、普及を目指している。

パネルディスカッション

後半は弊社代表の木村がモデレータを務めパネルディスカッションが行われ、ゲストのお二人ととアイディエーションについて、議論が深められた。

Q.事業アイデアのきっかけとなる原体験は?(誰のどんな課題に注目?)

最初のトークテーマはアイデアのきっかけとなった原体験に関する質問。

武藤氏は、事業アイデアの最初のきっかけは祖父が認知症になり家族介護を行ったことと回答。時間的にも精神的にも苦労が多く、家族介護の大変さを知ったという。「社会を支えるものとして介護サービスがいかに重要かを知り、そこから介護業界に興味を持ちました」と武藤氏は自身の経験を振り返る。

また、自身も介護職を経験するなど、介護業界に関わるうちに介護職をはじめとするエッセンシャルワーカーの方々や施設の方々に何か役に立てないかと考えるようになったという。その中で注目したのが介護職の方々の働き方で「介護職はブラックなイメージがありますが、実は全然ホワイトな職場が多く、逆にシフト表からはみ出る人がいることに気づきました。この人たちが自分達のタイミングですぐに働ける世界をつくれば、介護人材の不足などの課題解決に繋がるのではないかと考えました」と武藤氏は語った。

中西氏は、自身の失禁経験がきっかけと回答。奇しくも自身が失禁経験をした2013年は日本で大人のオムツ市場が子供のオムツ市場を上回った年となり、失禁に困っている人が多いことを知ったという。

さらに、デバイスの開発時にクラウドファウンディングを実施したところ、介護業界にニーズがあることが判明。ユーザーインタビューなどを繰り返していくと、介護現場におけるトイレ補助を行う業務難易度の高さや、要介護者が自身でトイレに行こうとした際の転倒リスクなどの問題が浮き彫りになってきたという。

介護従事者や要介護者双方にとって非常にストレスのかかる排泄という介護の課題に対し、「誰にどんな排泄ケアをすればいいかを可視化できるという点で介護の課題解決に繋がるのではないかと思いました」と中西氏は語る。

また、今後介護が必要な高齢者人口が増えていく中で、自立した介護ができるかという点にも注目。自立的で高い質の介護を、革新的なテクノロジーを使って誰でもできるようにすることが同社において重要なミッションであると説明した。

Q.様々な可能性の中で今の事業に絞り込んだ決め手は?

次のディスカッションテーマは数あるテーマの中でどのように今の事業に絞り込んでいったのか、最終的な決め手について質問。

武藤氏が施設と介護従事者のマッチングサービスに絞っていった経緯は、施設側には人が足りないという明確な課題があり、人材派遣や人材紹介など、既存の解決方法ではコストとマッチングまでのスピード感に課題があることを知ったためである。

「ロマンとしては介護従事者にお力添えしたいという気持ちが強かったことで、ソロバンとしては、このサービスをLPでテストマーケティングしたところ、かなり低いコストで人材が獲得できることがわかり、このサービスのニーズの強さを確認することができたからです」と加えた。

中西氏は、自身のシリコンバレーでの経験から事業を絞り込んだという。「当時、VCに留学をしてキャピタリストやシリアルアントレプレナーに自分の考えた事業を20個ほどプレゼンしたところ、全員が排泄予測デバイスに興味を持ってくれました。プロの人たちが言うなら間違いないだろうということでプロトタイプの制作を行いました」と中西氏は振り返る。

さらに、中西氏の中でこの事業アイデアで進めようと確信に至ったのはクラウドファウンディングだったという。テストマーケティングに行ったクラウドファウンディングは予想以上に反響があり、世界中から問い合わせがあったことから排泄予測の課題の広さと深さを知るに至ったと中西氏は語る。

Q.これからのシニアビジネスに求められることは?

次のディスカッションテーマは、これからのシニアビジネスに求められることを両名に質問。

武藤氏は、「この業界はエンドユーザーの気持ちは自分が高齢者にならない限りはどうやっても理解できません。だからこそ、どういう気持ちで介護を受けたいと思っているかを徹底的に寄り添ってサービスを考えることが重要です」と答えた。

中西氏は、「社会保障の限界から施設を建てまくるみたいなことは難しくなります。そうなった時に、老老介護などパートナー同士で介護したり、在宅環境で自立してできることが重要になってきます」と自立×在宅×テクノロジーというキーワードの重要性を語った。

最後に、参加者からの質問として「事業で1番難しいことは何か」という質問が投げかけられた。

武藤氏は、事業開始のタイミングを図ることが一番難しいと回答。法律が関わってくる業界のため、現法でやれることとやれないことがあるという。また、踏み込めるタイミングでちゃんと「ヒト、モノ、カネ」が揃っていることも重要との考えを述べた。

中西氏は、シニアビジネスは時間がかかるのが難しいとの回答。シニアビジネスが発展していくという方向性は間違いないものの、その中にある変数が非常に多く、事業が実るまでに時間がかかることも多いという。10~20年やる覚悟が必要であると語った。

取材を終えて

内閣府が出した調査によると2019年10月1日時点で、日本の65歳以上人口は3,589万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%となっている。今後もより高齢化は加速していくとの見込みであり、介護の問題は深刻な社会課題になっている。

今回登壇の2社のように、テクノロジーを駆使したさまざまなシニア向けビジネスが出てきている。これらのソリューションは今後日本の問題解決のみならず、世界中で今後予測される高齢化に対する希望となりうるかもしれない。事業アイデアのシーズとなるような課題はそこにある。

株式会社アドライトでは、アイディエーションを含む新規事業の立ち上げに関する、制度設計、人材育成、伴走支援の新規事業化支援総合プログラム「イントレプレナーズ」を展開している。詳細は以下サービスページも参照されたい。
https://www.addlight.co.jp/intrapreneurz/

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