新規事業開発による未来予測手法(シナリオ・プランニング)

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

社会動向や経済状況、そしてテクノロジーが目まぐるしく変化していく今日において、マーケットニーズを読みながら新規事業開発をおこなう難易度は日々高まっています。10年後はもちろん、数年後の世界を”読む”ことが非常に難しい状況です。

未来の”読み”を当てることは難しい一方で、「こうなっているかもしれない」という仮説を立てることは可能です。さらに、「Aという世界になっているかもしれない」「Bという世界になっているかもしれない」…というように、複数の道筋を考えることで、未来の世界をより具体的にイメージしていくことができます。この複数の道筋、すなわちシナリオを想定して、不確実な未来を予測する手法をシナリオ・プランニングといいます。

本コラムでは、シナリオ・プランニングを新規事業開発に活用する方法を具体的な例を用いてご紹介します。なお、予測と近い言葉に「予言」があります。予言は「20XX年に地球が○○する」のように将来事象をひとつに断定することを意味しており、シナリオ・プランニングの手法とは異なるのでご注意ください。

シナリオ・プランニングが新規事業開発にもたらす価値

新規事業開発でシナリオ・プランニングを活用することで、次のような価値をもたらすと私達アドライトは考えています。

  • 将来シナリオをわかりやすいフレームワークに整理することで、活発な議論を生み出すことができる
  • 具体的な将来シナリオにもとづいてプロダクトアイディアを描くことができる

シナリオ・プランニングは事業開発初期段階のアイディアづくりに適しています。なぜなら、シナリオ・プランニングが経済や社会、政治、そして技術などのマクロ環境の変化に注力し、マクロの視点からプロダクトと市場のフィットを考えることができるからです。

「将来は○○のような世界になっているかもしれない」、故に、「○○の価値を提供することを目指そう」

上記のような流れで論点を整理し、将来を思考しながらプロダクトアイディアを深め、プロジェクトメンバーの共通理解を作ることができます。

シナリオ・プランニングの進め方

ここでは「自動車のリース事業における将来予測および新規事業のアイディア創造」を例にとって進めていきます。

はじめに、シナリオ・プランニングの全体的な流れを説明します。
シナリオ・プランニングは、下記5つのステップで進めます。

  1. 課題を設定する
  2. リサーチから将来ドライバーを列挙する
  3. 重要な将来ドライバーを決める
  4. 将来シナリオを描く
  5. プロダクトアイディアを創る

1.課題を設定する

ひとつめのステップでは課題を設定します。課題設定とは、シナリオ・プランニングを通して何に答えを出すのか、議論の方向性を決めることです。ここで、サンプルケースとなる新規事業開発の背景を設定しておきます。

”当該企業には、法人向け自動車リースという既存事業がある。最近経営層より、法人向け自動車リース事業は縮小していくので、事業の転換、すなわち新たな価値提供が必要である、といった声が複数上がった。自動車リースに代わる、既存と異なる新たな価値提供ができる事業を考えてほしい。そこで、社内からプロジェクトメンバ7名が招集され、新規事業アイディアの検討がはじまった。さて、いったいどのような事業アイディアを創出していくべきか。”

ここから課題を下記のとおりに設定してみます。

「5年後における法人の自動車に対するニーズが、様々なマクロ要因変化によりどのように変化していくと考えられるか。また、どのような事業が価値をもたらすのか」

このように設定することで、法人の自動車に対するニーズについて将来予測し、将来シナリオで価値を提供できる新規事業のアイディアを出すことが、シナリオ・プランニングのゴールになります。

課題設定ができたところで、次のステップに進みましょう。

2.リサーチから将来ドライバーを列挙する

ステップ2では、リサーチ(情報収集)を経て将来の事業に影響を与える要因となるドライバーを洗い出します。本ステップでは、ドライバーを網羅的に洗い出すことに注力します。

ドライバーを網羅的に洗い出すために、PEST分析というフレームワークを活用します。PEST分析とは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の頭文字をとったもので、4つのマクロ環境について影響要因を洗い出す手法です。

表1. PEST分析の内容

Politics 法律の施行・改正、規制の導入・緩和など
Economy 景気、物価、設備投資、為替、金利など
Society ライフスタイル、流行、働き方、健康、食べ物など
Technology 技術の動向など

課題設定において「法人の自動車に対するニーズ」としているので、法人の自動車ニーズに影響を与え得る4つのマクロ環境についてアイディアを出していきます。アイディア出しを行うにあたり、十分なリサーチ、すなわち情報収集をおこないます。メディアを中心に、例えば、オンラインメディア、雑誌、論文、統計データ、コラム、ブログ、そしてSNSなどを情報源として収集しましょう。

今回の例では、下記のようなドライバーを挙げます。

P:道路交通法、道路運送法、リース会計基準、地方税法(自動車税)、働き方改革法案…
E:景気の動向、設備投資の需要、雇用の動向、労働力の減少…
S:シェア文化、車離れ、デジタルネイティブ、SNS活用、高齢化、ミニマルライフ…
T:自動運転技術、EV、VR、人工知能、配車アプリ、コネクティッドカー、ライドシェア、センサー…

ステップ2では、ドライバーの質よりも数にこだわり、なるべくたくさんのドライバーを洗い出しましょう。付箋紙を使いながら、プロジェクトメンバーでドライバーの洗い出しを行うとより活発な議論ができます。

3.重要な将来ドライバーを決める

ステップ3では、ステップ2で抽出されたドライバーの中から重要なドライバーを2つ決めます。それらを二軸に用いて四象限をつくります。これが将来シナリオになります。

それでは、重要なドライバーを選択する基準についてみていきましょう。重要なドライバーとは「不確実性が高く、かつ課題に対して与えるインパクトが大きいもの」です。

図 1. 重要なドライバーの選択基準(参照:ウッディー・ウェイド著「シナリオ・プランニング 未来を描き、創造する」/英治出版)

重要なドライバーには、実際に起きうるかどうかが分からず、かつ実際に起きたときのインパクトが大きいものを選びます。すなわち、図1. 重要なドライバーの選択基準で示した、右上に分類されるドライバー「将来を左右する直接的なドライバー」が該当します。

例えば、日本における少子高齢化というドライバーは確実に起きるため不確実性は低い、シェア文化が5年後も続くかどうかは読めないため不確実が高い、のように分類します。また、5年後における自動運転技術の成熟度は不確実性が高いですが、成熟したときのインパクトは相当に大きいものがあります。

このようにドライバーを「不確実性」「インパクト」で評価し、高く大きいものを2つ選びます。これは議論に参加しているメンバーの投票で決めます。そして、選んだ2つのドライバーについて対極となる軸を作ります。
例)
衰退 ← シェア文化 →  発展
停滞 ← 自動運転技術 → 成熟

4.将来シナリオを描く

ステップ4では、2軸を交差させできあがる四象限について将来シナリオを描きます。四象限に呼びやすい名称をつけておくと議論が円滑になるのでおすすめです。ここでは、縦軸に自動運転技術、横軸にシェア文化を置いてみました。左下から、昭和、パーソナル自動、シェア自動、平成と名付けます。名称の付け方は各象限が思い出せれば何でもかまいません。

図 2. 四象限の設定と呼称の決定(参照:ウッディー・ウェイド著「シナリオ・プランニング 未来を描き、創造する」/英治出版)

これら4つのシナリオについて、文章を肉付けして、より詳しく描写していきます。

昭和:シェア文化は衰退し、自動運転技術も停滞した。つまり、法人・個人が手動運転の自動車を所有し、利用する世界。昭和に戻ったような感覚。車をシェアすることが不便と感じ、格好わるいと感じる人達が増えた。また、自動運転技術は事故回避や夜間の走行で難易度が高く、いまだ実用化までは時間がかかりそうである。

パーソナル自動:シェア文化は衰退したが、自動運転技術は成熟した。つまり、法人・個人が自動車を所有し、運転は自動で行われている。車をシェアすることが不便と感じ、格好わるいと感じる人達が増えた。法人では、自分の所有する車をカスタマイズして、営業活動のしやすい環境をつくっている。

シェア自動:シェア文化が発展し、自動運転技術も成熟した。つまり、法人・個人ともに自動車を所有せず、運転も自動で行われている。車をシェアすることは、法人としてもコストに見合わないと判断し、自動車の供給会社が提供する自動車配車サービスを利用し、好きなときに車を呼んで、営業活動に出向いている。運転も不要なので、顧客訪問のスケジュールをカレンダーに登録しておき、出発時間になると自動運転車がオフィスの玄関で待機している。車内では、顧客向けの資料作成を行い、ときどき社内のメッセージ処理をしている。

平成:シェア文化は発展したが、自動運転技術は停滞した。つまり、法人・個人ともに自動車を所有しない。ただし、運転は自分自身でする。いわゆる平成の強化版。自動車の供給会社が提供する自動車をオンデマンドで借りて、営業活動に出向いている。ただし、運転は自分でするので、車内では運転に集中している。

このように、思いつく限り詳細な描写で将来シナリオを描けると、より良いプロダクトアイディアを着想しやすくなるのでおすすめです。

では最後のステップで、将来シナリオからプロダクトアイディアを創ってみましょう。

5.プロダクトアイディアを創る

将来シナリオを踏まえて課題に答えを出します。すなわち、将来シナリオに基づいた事業アイディアを創出します。

例えば、”昭和”シナリオであれば、既存の自動車リース事業は衰退しないとみて新たな事業への設備投資は思いとどまり、より低価格でリースを提供できるよう、既存のプロダクトを強化していきます。背景に示した経営層の指示とは異なる結果ですが、こういった未来もまだ起きる可能性があるということです。

一方で”シェア自動”シナリオであれば、自動車リース事業から自動運転車両の供給会社へ転換することを考えます。自動車リースから、法人における社員の移動サービスを提供することで転換を図っていくのです。

このようおに将来シナリオ毎にプロダクトアイディアを出し、よりアイディアを具体化するための議論を深めていきます。

まとめ

本コラムでは、新規事業開発における未来予測手法ということで、シナリオ・プランニングを紹介しました。シナリオ・プランニングを新規事業開発に活用することで、不確実な将来を複数のシナリオで予測し、シナリオにもとづいた事業アイディアを創出することができます。また、様々なマクロ環境からプロダクトアイディアを想起でき、メンバの共通理解を得ながら進められます。実際は、付箋とフエルトペンを用意して、手や体を動かしながら進めていくと良いでしょう。

参考文献
「シナリオ・プランニング 未来を描き、創造する」ウッディー・ウェイド、英治出版
「事業戦略策定ガイドブック」 坂本 雅明、同文舘出版