【事例】アイデアを事業に繋げるステージゲート制の策定。取り組みの中で見えてきた新しい課題とは ーー明電舎

 addlight journal 編集部

明治30年の創業より、業界トップランナーとして電気を中心に、生活に関わる社会インフラを支えてきた株式会社明電舎。(以下、明電舎)

明電舎は「中期経営企画2024」として、新しい社会構築に向けた新規事業への投資を加速する両利きの経営を推進。経営基盤の強化として、イノベーションを支える体制構築やイノベーション活動にも力を入れている。

アドライトは同社に対し、1年間を通じてアイデアを事業化するためのステージゲート制の策定やイノベーション人財の育成支援、オープンイノベーションの3つのテーマをメインに支援を行った。

今回、同社にてイノベーション戦略を推進する経営企画本部 事業開発部 企画課長 坂野 仁美氏にプロジェクトについてお話を伺った。

会社紹介:株式会社明電舎

株式会社明電舎では、「より豊かな未来をひらく」という理念のもと、発電・変電・送電などの電力インフラ、水のろ過処理、電気自動車モータ、自動車試験装置など、生活に大きく関わるインフラ事業を中心に、国内、海外で幅広く事業展開。

会社に点在するイノベーションシーズの統括、活用が課題

ーー事業開発部の発足経緯や役割について教えてください。

事業開発部は当初、既存事業をマーケティング観点から支援する目的で2016年に発足しました。それから2020年にイノベーション活動に舵を切り、私もそのタイミングで事業開発部に管理職として参画しています。

背景に、弊社でもイノベーション活動に取り組んでいかなければいけないという課題は前々からありまして、シリコンバレーにオフィスをかまえてスタートアップの動向などの調査をしていました。

ただ、全社横断的に旗振りする役割がいなかったことで、せっかく得た最新事例などの情報を新規事業や実業務に活かせていませんでした。そこで、事業開発部署がその立ち位置となって、事業開発テーマを管理し、推進していく役割を担うことになりました。

ーー2020年からイノベーション活動に舵を切ったとのことですが、以降の主な取り組みについて教えてください。

まずは全社横断的に各部署に点在しているイノベーション活動の整理から始めました。

研究開発部門で取り組んでいるものやトップダウンで立ち上がったもの、人財開発の一環として行われていた研修から出てきたもの、社内アイデア公募など、さまざまなイノベーション活動が行われていました。ただそれらはあくまで単独に動いていたので、自社としてレバレッジが効くまでには至っていなかったと思います。そこでこれらを把握し、どのようなメンバーが関わっているのかを整理することにまずは集中しました。

©Adobe Stock

次のアクションとして、横断的な活動組織を作ろうということになり、イノベーション戦略委員会を立ち上げました。イノベーション戦略委員会では、主に3本柱と呼んでいる取り組みを行っています。

1つ目は「イノベーションプロセスの整備」で、社内で取り組んでいるテーマをどのように事業に繋げるかを仕組み化しました。

2つ目は「イノベーション人財の育成と確保」です。イノベーション人財の定義と評価を定めて適切なスキルや経験を身につけるための機会を提供し、イノベーション人財を育成しようという取り組みです。

3つ目は「社会ニーズの探索と社外共創」です。自前で考えたテーマだけでなく、社会や顧客ニーズ・課題を積極的に探索しようという取り組みです。

これらを進めていく上でアドライトさんにも協力をお願いしました。

選定のポイントは相談のしやすさと専門性の高さ

ーー今回、弊社にご依頼いただきましたが、こうした外部の力をお借りすると思われた背景を教えていただいてもよろしいでしょうか。

新規事業の創出について、内部に知見があまりなかったことがきっかけです。私も研究開発部門で技術戦略など企画の経験はありましたが、新規事業の経験はありませんでした。新規事業は既存事業と同じように考えてはうまく進まないのが事実です。弊社は社員の多くが新卒入社のプロパーで、新規事業に精通した社員も少ないことから自前で進めることは難しいと判断しました。

ーー外部支援企業の決め手となったポイントを教えてください。

まずは他社の事例や経営陣のネットワークからの紹介などを中心に複数社とオンラインで面談しまして、強み、支援いただく場合の範囲や内容、事例などをご紹介いただきました。

選定の軸としては、”相談がしやすいか”、”柔軟に対応いただけるか”で、”大手企業への新規事業開発支援実績があり、スタートアップにも精通している”など、新規事業に対する幅広い専門性があるかどうかも見ていました。

©Adobe Stock

その中で最終的にアドライトさんを選んだ理由としては、実際に提案を受けていく中で、私の悩みに対して毎度しっかりと向き合ってくれる姿勢を感じました。それぞれの課題に対して各専門家を紹介してくれたり、スタートアップや大手企業それぞれに精通している専門性なども決め手になりました。このように弊社の事情やスタイルに合わせて一緒に取り組んでくれる点を評価しました。

今回はご縁がなかったですが、他に提案いただいた企業様は、特定のイノベーション活動に特化した事業者様でしたので、漠然とした課題を抱え、何からやろうかと思案しているタイミングでは、柔軟性というのは最大のポイントでした。

ステージゲート制の導入を中心に幅広いテーマで支援

ーーイノベーション戦略委員会の3本柱の取り組みに対し、どのような支援を受けたのか教えていただきたく思います。まずは「イノベーションプロセスの整備」から教えてください。

主にステージゲート制の策定でご支援をいただきました。

ステージゲート制はアイデアを事業化するためのフレームワークです。社内でも研究開発部門の視点で技術的な実現性を中心に各ステージゲートを用意していました。ですが、事業化した場合の収益性や顧客への提供価値の検討がプロセスとして整備されていませんでした。

そこで、改めて最初のアイデア出しから、事業化までの各ステージをどのような内容にすればいいのか整理するところから始めました。議論を重ねた結果、「着想、立案、育成、事業化準備、事業創出」の5つのステージに整理することができました。

ステージゲート制を設ける上で難しかったのが、各ステージの定義をどのように決めるかという部分です。社内でも部門や立場が違うと考え方も変わるので、なかなかイメージが揃​わない部分がありました。

ですが、アドライトさんはこうした課題を各ステージに合わせて定量的な評価基準を策定し、それに合わせたフレームワークの準備などを全て整理してくださりました。おかげで非常に助かりました。

ーー次に「イノベーション人財の育成と確保」に対してはどのような支援内容でしたか。

講演会やワークショップ、テーマの伴走をお願いしました。

当初、イノベーション人財の定義を整理して社内に人財プールを作りたいという思いがありまして、人財評価案を作成するところで支援をお願いしていました。ですが、議論を重ねていくうちに、スキル以前の問題としてイノベーションに対するマインド醸成が必要だと気づきました。

弊社ではイノベーション人財をピラミッド構造で考えています。一番上からイノベーションに最も関心の高いイノベーター、実際にテーマに取り組んでいるコア人財、何かやってみたいテーマが具体的にあるテーマ提案者、イノベーションに興味がある関心者と人財構成を分けて考えています。講演会やワークショップに参加した社員を最下段のイノベーション関心者と位置付けて、まずはここの数を増やしていくことに時間をかけようとなりました。現在はそれぞれの階層で具体的な人数を目標において取り組んでいます。

またすでに進んでいた主要テーマについては、人財育成も兼ねてアドライトさんにメンターを配置いただき、伴走もしていただきました。メンタリングの参加者からは「普段、研究開発部門だけではできなかったビジネス構想の話などが壁打ちでき、有意義だった」と好評で、ポジティブな波及効果が期待できました。

ーー最後に「社会ニーズの探索と社外共創」に対してはどのような支援内容でしたか。

オープンスペースを作るための企画と情報収集、アクセラレーションの情報収集をお願いしました。

イノベーションの取り組みを整理し始めた2020年頃、「イノベーション活動のためのオープンスペースを作りたい」という要望が沸きおこり、我々も実現に向けてどこにブースをかまえるといいのかなど検討していました。ですが、コロナ禍ということもあり、議論を重ねるうちに、そもそもオープンスペースで何をやりたいのか目的が定まらないと活用できないだろうということになりました。そのタイミングでアドライトさんから有識者を紹介いただきまして、メリット・デメリットについて具体的な知見を教示いただきました。

特に、デメリットのお話しは軌道修正のきっかけとなりました。結果的にオープンスペースの話は、その時は一旦休眠となりましたが、その過程について支援をいただき、今のタイミングではやらないと判断できたのはアドライトさんの支援のおかげだと思います。現在は、社外共創の目的意識もはっきりしたので、社外の方とのお付き合いの中でどんな場がふさわしいのかを再び検討しています。

またアクセラレーションについても他社事例の紹介など情報収集で支援をいただきました。こちらも有望なスタートアップと出会えたとしても、うまくコラボレーションする体制を社内に整える必要があるという課題を認識して実施を見送りとしましたが、その検討過程でも外部の知見をいただくことができて助かりました。

その他にも社内向けにイノベーション活動を配信しているホームページである、イノベーションハブサイトの設計のアドバイスや記事作成も実施いただきました。サイト自体は元々あったのですが、なかなか自前だけだとコンスタントに記事を作成することができなかったり、活性化ができたりしていませんでした。そこで、アドライトさんにも記事内容を提案いただき、他社事例やフレームワークの解説記事などの作成をお手伝いいただきました。作成記事のPV数は非常に伸びており、イノベーションへの関心の醸成や人財発掘に寄与できていると思います。

ーーありがとうございます。各種支援を通しての振り返りもいただいてもよろしいでしょうか。

専門分野に合わせた担当者を選任いただけたのが一番大きかったです。弊社の内情に合わせて、ご経験や知見をお持ちのプロの方から客観的な意見をいただけて非常に助かりました。何よりプロジェクト全体のPMを担当された近野さんが私の悩みに対してどこに重点を置いて議論すべきか調整してくれて、時間内に吸収できるものを用意してくださりました。この手厚いサポートは他のコンサルではできないと思います。

2024年までに新規事業を3件、イノベーター人財を10名輩出したい

ーー今後の展望について教えてください。

2021年度はアドライトさんの支援をいただきながら、ようやくスタートラインに立ったという状態でした。
2022年度は自走する中で新たな課題を見つけていき、イノベーション活動を定着・拡大していきたいと考えています。

その中でもイノベーションに対するマインドセットが現在の課題です。社員へ行動変容を求めることになり、大きな壁もあると思います。それを時間をかけて取り崩していき、2024年度にはこれまでの取り組みの成果として、「明電舎のイノベーション活動はこうです」と大腕を振って言えるような状態にしたいと思っています。

具体的な数値も置いています。2024年度には新しい事業を3件、イノベーターを10名輩出するということを中期計画に置いています。今回作成したステージゲートで事業化を目指しながら両輪で人財育成も行っていきたいと思います。