日欧米スタートアップ11社が集結ー注目のClimate Tech最新事例

 addlight journal 編集部

弊社アドライトは、サステイナブル領域のスタートアップとの事業共創プログラム「SUITz(スーツ)」を始動し、2022年3月16日にローンチイベントを開催。

欧米では有望なスタートアップも登場し、注目を集めている「Climate Tech(二酸化炭素削減や地球温暖化への対処に焦点を当てた技術)」をテーマにした本イベントでは、有識者による基調講演やパネルディスカッション、日欧米の注目スタートアップ11社のピッチが実施された。

本記事では、ピッチに登壇した日欧米のスタートアップ11社について、イベントで語られた内容を織り交ぜながら、今最も注目されている領域「Climate Tech」の最先端事例を紹介したい。(紹介はピッチが行われた順)

1.Green Li-ion Pte Ltd.(シンガポール)

(Green Li-ion Pte Ltd. CEO・Leon Farrant氏)

Green Li-ionは、革新的なリチウムイオン電池の二次リサイクル技術を開発しており、産業廃棄物処理業者のみならず、自動車や電池大手企業の注目も集めている。

ピッチでは、リチウムイオン電池の95%以上がリサイクルされていないという課題に対し、Green Li-ionのもつ技術で従来のサプライチェーンを変革することでどのような価値を生み出すことができるかなどについて語られた。

世界初のリチウムイオン電池のサーキュラーエコノミーの実現に向けて、ビジネスは拡大しており、すでに1500万ドルのARRを確保している。

2.株式会社Closer (日本)

(株式会社Closer 財務・Biz Dev担当・杉江ニック氏)

株式会社Closerは、独自のAIロボティクス技術で、食品工場・物流の効率化や持続可能な世界の実現を目指すつくば発のスタートアップだ。

小型で拡張性の高いロボットを目指し、画像処理技術やロボット制御、利便性を高めるUIをオールインワンで提供する。現状は食品工場に特化しており、他社よりも小さく、コストも3分の1以下で抑えることができるのが強みだ。

「最終的には派遣社員を一人採用するよりも、Closerのロボットを導入した方が安い」という世界観を作っていきたいと語った。

3.Novonutrients Inc.(米国)

(Novonutrients Inc. Senior Vice President・Kumiko Yoshinari氏)

Novonutrientsは、工業的に排出された二酸化炭素を独自の微生物や発酵技術で代替タンパク質にアップサイクルする技術を開発している。

二酸化炭素の排出、中産階級の人口増加によるタンパク質不足、水資源の不足という世界的に大きな3つの課題解決のため、CCU(Carbon capture and utilization)という技術を生み出した。

技術としては、独自の発酵機に工場から排出されるCO2に酸素、水素、アンモニアを微生物と一緒に加えて発酵させると、粉末状の単細胞タンパク質が生成されるという仕組みだ。

これは魚の飼料に適しており、いずれは人間やペットフードにも適用が期待される。

4.Orbillion Bio Inc. (米国)

(Orbillion Bio Inc. COO, Co-Founder・Samet Yildirim氏)

Orbillion Bioは、シリコンバレーで最も注目されている代替肉開発スタートアップだ。シードアクセラレータで著名なYCombinatorにおいて初の培養肉スタートアップとして、開始わずか数週間で500万ドル(約6億円)の資金調達に成功している。

食肉市場はグローバルにおいても大きな市場となっており、50年前から3倍も成長している。しかしながら、生産環境や食の安全性、持続可能性など、課題も多く、消費者の需要に応えるためにはこれまでの生産方法から変わる必要があるという。動物を使わず肉を作る代替肉は地球環境にも優しく、コストの最適化も可能になると語った。

培養肉市場は2040年には4,500億ドルにも拡大すると言われており、同社のビジネスは順調に成長している。

5.Lingrove Inc.(米国)

(Lingrove Inc. CEO・Joe Luttwak氏)

Lingroveは、鉄の7倍の強度と炭素繊維の軽さを持つと言われる植物由来の硬質木材「Ekoa®」を製造・販売している。

世界中で木材需要は高まっており、例えば、グローバル企業であるIKEAは1秒間に1本(毎年200万本以上)の木を使用している。しかしながら、環境や木の生育の制限から需要に対し、供給が追いついておらず、木材に変わる代替の素材が必要でEkoaがそれになり得ると語る。

Ekoaの特徴は、通常木材だと10〜20年かかるところをわずか90日で素材として利用可能な点、可塑性、低炭素な点だ。通常の木材よりさまざまな用途に使用が可能という。

将来的には北米、アジア、ヨーロッパへの進出も予定している。

6.SunGreenH2 Pte. Ltd. (シンガポール)

(SunGreenH2 Pte. Ltd. CEO・Tulika Raj氏)

SunGreenH2は、独自のモジュール式高効率電解槽システムを駆使して、地球に優しい水素を創る画期的なモジュラーグリーン水素技術を開発している。

グリーン水素市場は10年後に160倍の爆発的な成長を遂げると予想されている。
水素の製造には通常化石燃料を使用し多くのCO2が排出されているが、電解槽システムを用いれば、CO2を排出せずに水素の生成ができるという。しかしながら、従来の電解槽システムは高価で非効率だという。

そこで、SunGreenH2は画期的なモジュラーグリーン水素技術を開発した。これは通常の電解槽技術と比較し、2倍の水素を生産し、原材料を30分の1、エネルギー使用量を10%削減できるという。

クリーン水素のコストを下げて、広く普及することで脱炭素社会を実現したいと語った。

7.Divigas(オーストラリア)

(Divigas. Co-Founder, CEO・Andre Lorenceau氏)

Divigasは、製油所、化学、工業処理業者向け工業用膜のサプライヤーで独自の水素分離膜技術でクリーンな水素製造を実現している。

現在、水素は化石燃料や天然ガスから作られている。製造方法としては2つあり、化学薬品を利用する方法と分離膜を用いる方法で、分離膜を用いる方法は化学薬品に比べ、安価でシンプルだが、耐久性の点で懸念がある

この課題に対し、Divigasは従来の分離膜より耐久性に優れた新しい高分子型中空糸膜を開発した。それは酸に強く、高温でも使用でき、単位あたりの経済性に優れているという。

現在はパイロット試験が行われており、実績が出てくれば、グローバル展開も視野に入れていると語った。

8.VoltStorage Inc.(ドイツ)

(VoltStorage Inc. Founder&CTO・Michael Peither氏 )

VoltStorageは、太陽光や風力などの自然エネルギーを独自のストレージ技術で24時間安定利用を実現する。

同社は「持続可能なバッテリーソリューションで自然エネルギーを24時間365日利用可能にする」をミッションとして掲げている。

ソリューションとしては、Fe(鉄)とCI(塩素)という地球上で最も豊富にある2つの素材を組み合わせた鉄塩をベースにした電池で、製造単価が10ユーロ以下になるほか、-10°から60°まで幅広い温度でも使用できる。加えて、10,000回使用しても容量減衰のない長寿命で、10〜100時間の充電・放電が可能だという。

すでに市場に数百台納入されており、さらに商業用プロダクトとして適用するセクターを拡大していく予定だ。

9.株式会社ワープスペース(日本)

(株式会社ワープスペース CFO・北原明子氏)

株式会社ワープスペースは、前身の大学衛星プロジェクトを含め、これまで3機の通信衛星を打ち上げており、民間として世界初の衛生間光通信ネットワーク「WarpHub InterSat」の実現を目指している。

今日の衛星通信における課題は、宇宙から地上への通信が極めて限定的で大量のデータを地上にダウンリンクできない点で、$180Bの損失に繋がっているという。

この課題に対し、ワープスペースは低軌道衛生の外側に光通信ネットワークを構築することで常時高速通信かつ即時通信を実現し、周波数調整の手続きも省略できるという。

ビジネスモデルとしては地球観測衛星からの通信料と、宇宙通信キャリアとしてのインフラ整備/運用サービスなどがメインだ。宇宙光通信において、地上通信企業におけるAT&TやNTTのようなトップキャリアを日本から目指していくと語った。

10.株式会社Recursive (日本)

(株式会社Recursive Co-Founder&COO・山田勝俊氏)

株式会社Recursiveは、GHG Scope3のみならず、ESG評価の可視化からソリューションまでをワンストップで提供するESG経営オールインワンプラットフォーム「Dataseed」を開発している。

近年、注目が高まるESGだが、評価手法がブラックボックスだったり、CO2偏重のプロダクトが多かったり、評価のために莫大なコンサル費用が必要だったりと可視化するための課題も多いという。

そんな中で、株式会社RecursiveはGHGのScope3算出もESG評価も可能にするESG経営プラットフォーム「dataseed」を開発した。主な特徴としては、「CO2排出量をサプライチェーン含めて可視化できる」、「CO2だけでなくESG評価状況の可視化できる」、「複数のデータソースからデータ収集可能」、「先端AIを駆使した改善提案・レポート作成ができる」の4つを上げている。

現在はPMFを目指し、日本の大手企業の複数社に無料提供を行っている。

11.ReGrained Inc.(米国)(※録画によるピッチ)

ReGrainedは、食品の生産・製造プロセスで発生する副産物を独自のアップサイクル技術で新たな機能性食材を開発するB2B2C企業である。

食品を製造する過程で多くのバイプロダクトが生じる。これらは通常、ゴミとして廃棄されるが、これらを再利用し新しい付加価値を提供することをアップサイクルという。

ReGrainedでは有機廃棄物を活用し、タンパク質粉末を開発している。この粉末によりさまざまな風味づけが可能となっている。

現状は他社製品を、開発した粉末を使用して再開発するなどしてビジネスを拡大している。

取材を終えて

本記事では、日欧米の革新的なスタートアップ11社のピッチについて紹介した。どの企業もポテンシャルのある市場において、特徴的な技術を持っており、可能性を感じるスタートアップであった。

事業共創プログラム「SUITz(スーツ)」では、今回ご紹介したようなスタートアップを引き合わせて事業共創を行っていく。ぜひご紹介した企業に興味を持たれた方は弊社アドライトまでご連絡いただきたい。