台湾スタートアップ12選:SparkLabs Taipei Batch 5 Startups報告会

 addlight journal 編集部

8月10日、株式会社アドライト主催のもと、海外のオープンイノベーションやトレンドをキャッチアップするイベント「Trend Note Camp#26 魅惑の台湾スタートアップトレンド」をオンラインにて行った。

ゲストスピーカーにSparkLabs 台北共同創設者&マネージングパートナーのエドガー・チウ氏を迎え、台湾におけるスタートアップのトレンドや、先日行われた「SparkLabs Taipei Batch 5 Startups報告会」デモデイについてお話しいただいた。

モデレーター:弊社株式会社アドライト 代表取締役・木村

キャリアを積む中で見えてきた課題

大学の専攻はconnected financeというもので、一般的なfinanceとは違いコーディングや数学を勉強する環境で学生生活を過ごしたエドガー氏。大学卒業後はhpに入社し、その後IBMに戦略コンサルタントとして加わった。当時は大手企業の中でオープンイノベーションの発想が芽生え始めていた時期であり、エドガー氏もいちコンサルタントとして協業によって新たな技術やサービスをどのように外部から持ち込むかを考えていたという。

しかしそれを実現させることは、簡単な道のりではなかった。スタートアップが成功するまでにある程度の時間の猶予が必要だったからだ。しかしながら当時のアジアでは成功が全てという考え方があり、スタートアップへの理解がそれ程なかった。そこでスタートアップへの寛容な姿勢を醸成していくことを目指したという。

IBMでしばらく働いた後、大学の知人から一緒に会社を始めないかと声がかかり、意を決して広告関係の会社を立ち上げた。その会社は一年半後にネイバーに買収されたが、実はこの買収はネイバーにとって初の海外案件だった。その後ネイバーで4年ほど働くなか、海外の企業がどのように台湾でビジネスを展開していくかを学ぶと同時に、スタートアップで働くことの大変さにも気が付いたという。

スタートアップに必要なプロダクトマーケットフィット

5人の社員と5人のインターンの計10人からなる小さなチームで、エドガー氏は海外進出を目指そうとする環境づくりに努めたという。「これはとても大変なことのように聞こえますが、実現可能」とエドガー氏。環境づくりの一環としてオフィスには各国の国旗を飾っているそうだ。

キャリアを積む中でスタートアップを立ち上げることは決して簡単ではないことを理解しているからこそ、彼らを支援したいと考えるエドガー氏。資本に限らずネットワークや経験、企業とのコネクションなども提供していきたいという。

「韓国を始め、日本、東南アジア、インド、北米、中東など初期の段階から世界を目指していくという気概でファンドを展開しました」とし、下の図を展開してくれた。3か月毎に100万人のユーザーの増加を示す成長曲線であり、Eコマースやテクノロジーを駆使した海外戦略を中心に据え、中東や日本、韓国に四半期ごとに事業進出をしていったという。

順調に事業拡大をしているように見えるエドガー氏が常に重視しているのが「プロダクトマーケットフィット」。「機能やUI/UXといったことに目が行きがちですが、もっと大きな視野で物事を考える必要があります。私達は既存顧客をいかに増やし、欠陥や新たなニーズに対応することを念頭に置いていました」という。

スタートアップの成長にはいくつかのフェーズがあり、その中で最もチャレンジングなのはバリデーションのフェーズだ。よく質問を受けると前置きし、「例えばユーザーの声を直接聞くといった方法があります。時間や費用を拠出する前にフィードバックを得ることは重要です」と話す。さらにスタートアップは積極的に海外に出ていくべきだともエドガー氏は述べる。「グローバル市場は決して容易ではありませんが、挑戦のしがいがあります。競合優位性の獲得・有能な人材の獲得・出口戦略の模索のために、スタートアップは世界を見据えて事業を展開するべきです」

実はエドガー氏のファンドは、台湾発のスタートアップの海外進出を支援すると同時に、日本やアメリカ、香港などの海外のスタートアップによる台湾進出もサポートしている。割合としては、台湾発が80%、残りの20%が海外のスタートアップだ。エドガー氏のほかにsilverlakeで働いていた経験を持つトニー氏と、Facebookの初期メンバーの一人でもあるアレックス氏の2名のパートナーがこれらの事業を支える。

彼らがシリコンバレーに拠点を置いていることからもわかる通りグローバルなメンバーで構成されており、その他にもアメリカで成功を収めたアジア系の起業家たちがサポートメンバーとして名を連ねる。そして彼らと共にアジアから世界に羽ばたけるような起業家を育成しているという。

5回目のデモデイを終えて

上の写真はエドガー氏のファンドが投資をしている分野の一覧である。「台湾は製造業で知られていますが、実はIoTも大きな産業の一つです」と話すエドガー氏。TSMC、UNCは台湾で創業された半導体の会社だ。製造業に関連し、AIやマシーンラーニングは作業効率の改善といった課題解決の側面で躍進を見せる。

参加者からの質問にもあったように、コロナウイルスによって最も打撃を受けた製造業の現状は、50%の人員削減をしなければならない一方、生産量は維持していかなければならない。そのため生産工程の自動化が鍵を握る。またHTCを始めとして、バーチャルリアリティといった映像系の技術も注目を集めている。「私たちもVRを駆使した射撃ゲームを展開する会社に投資をしています」とエドガー氏。

さらにアジアでは多くのeコマース関連の会社が多く立ち上げられているという。エドガー氏のファンドは、shopify上の事業者を支援するビジネスを展開するスタートアップにも投資している。

台湾政府が医療関係データを公開しているそうだが、医療の充実という点で有効活用できる可能性があり、エドガー氏も注目しているという。そうした台湾政府による医療関係のオープンデータを活用し、デジタルヘルスケア関連アプリの開発を試みている台湾発の医療系スタートアップも存在する。「国内に限らず日本を含む海外諸国とも今後デジタルヘルスケアの領域で協力していけるように、政府としてもデータをよりオープンにしようと努めています」と話す。

政治的側面から見て台湾という国は、中国とアメリカの間で非常に複雑な立場にいる。そのためサイバーセキュリティも重要になってくる。BPMなどを利用したサイバーセキュリティ関連の開発も進み、トレンドマイクロを始めとしてサイバーセキュリティ事業に取り組む企業も台湾発の企業が多くなっているという。また金融の面でも台湾の立場は中立的なため、フィンテック関連の企業にとってもオープンな環境づくりを目指している。自動運転の分野ではテスラの重要部品は台湾で生産されたものが使用されており、存在感を見せている。

以上の産業領域は台湾に限らず、日本においても同様に重要となる領域だ。「私たちはプラットフォームとしてスタートアップの発掘やメンタリング等を手掛けています。そして我々が採択した企業に対して投資をしています」と述べる。

あくまでシード投資ということで金額は小さく、倍率は2、3%となる。コーチングやリーダーセッションのほか、重要会社とのコネクションも提供する。基本的には英語を使用するが、通訳を付けるなどの対応も可能とのこと。

先日(8/5)、5回目のデモデイを終えたばかりで、その報告会も今回のイベントの目玉となっている。国内で最大規模のデモデイを実施し、昨年度は900人が参加するなどクロスボーダーのパートナーシップを多く持つSparkLabsが採択した企業が、以下の8社である。

・smart tag
http://www.smarttag.tech/
IoTソリューションの開発会社で、主に製造業向けのアプリ開発を行う。機械にこのスマートタグを搭載すると、分析ツールによって製造工程の中の異常を検知することが可能になる。既に半導体関係の会社と協業をし、成果を上げている。現在製造業ではいかにデータを収集するかが重要になっているため注目を浴びている。

・spaceship
https://www.spaceshipapp.com/zh-hk/
香港の国際物流のデジタルプラットフォームの会社。複数の業者を比較することが可能。アーリー段階で出資を決めた会社のうちのひとつ。創業は1年ほど前になるが、昨年の段階で3億円ほどの売上をあげている。

・Yallvend
http://www.yallvend.com/
自動販売機のアップグレードを行う会社。ソフトバンクなど日本の製造会社の一部ともパートナーシップを組んでいる。自動販売機に彼らの製品を搭載することで、機能のアップグレードを果たすことができる。さらに彼らのソリューションを使うことで、売れ筋の商品を把握することができる。

・Knowtions Research
https://www.knowtions.com/
ヘルスケア事業を行う会社。AIシステムを構築し、人それぞれの健康状態に基づいた様々な医療データを活用。生命保険のパッケージなどに活かされる。自身の健康状態に基づいた適格な生命保険に加入できていないケースがあり、こうした課題を彼らのサービスで解決する。

・PowerArena
https://www.powerarena.com/
製造業界の労働集約的な現状を解決しようとする会社。製造ラインの上にカメラを搭載し、画像処理を行うAIによって作業の正確性を測ることができる。さらに従業員の作業スピードを検知してデータ化することも可能。製造工程のデジタル化によって工場のスマート化を図る。創業者はスタンフォード大卒で、当事業は既に助成金も受け取っている。

・Slasify
https://slasify.com/en/
採用には現地の法律を理解する必要があり、海外進出する際にはネックになることがある。通常その国の弁護士や会計士が必要になるが、そうした採用の負担を請け負うサービスを展開する。彼らのサービスはアメリカや中国を始め様々な地域を網羅している。

・Tsaitung
https://www.tsaitung.com/
フードテック、ロジスティック、クラウドキッチンは盛り上がりを見せている領域。日本にも関連したユニコーン企業が存在するが、台湾ではいまだ未開拓の領域。そのような中、生産者である農家と消費者が直接繋がる、いわゆる「farm to table」を可能にするデジタルソリューションを提供する。

・GRAID Technology
https://www.graidtech.com/
クラウドの世界では情報処理速度が非常に重要な要素であり、当初は十分かと思われていたSSDはまだ改良の余地がある。彼らはソフト・ハード両方の技術を備え、処理能力を高めることが可能だ。クラウドが主流の世の中で、その要となるデータセンターにとって彼らのサービスは効果的である。著しい成長を遂げ、事業の売却にも成功している。

台湾発スタートアップ動向

「木村さんがおっしゃったように、台湾ではIoTや製造業界、医療業界がトレンド化しています」とエドガー氏。また台湾では個々の健康状態への関心が集まり、それに関するマーケティングテクノロジーや分析ツールといったソリューションを有する会社が存在するが、必ずしも全ての会社が台湾市場にサービスを提供しているわけではない。実際、過去2年の投資先の企業に関しては35社に投資し、うち半分が日本を含めた台湾以外のマーケットで事業化を成し遂げたという。

・FunNow
https://www.myfunnow.com/jp/
即時予約プラットフォームを提供する。現在は東京や沖縄などのホテルや飲食店などの予約もできる。コロナ禍ということもあり台湾市場にも注目していく予定。アクセラレータープログラムを経てNEC から投資を受けた。

・iDrip
https://www.idrip.coffee/jp/
スマートコーヒーマシーンの会社。プロのバリスタのワザを模倣することは難しいが、マシーンラーニングによって完全に再現する技術を持っている。自社製品を日本市場でも売っていきたいと考えている。

・Appier
https://www.appier.com/ja/
今年の3月に日本市場において上場を果たした台湾企業。現在データの取り扱いに関して大量の情報をどう集めるのか、処理していくかが課題となっている。LINE公式アカウントの分析ツールを活用し、ユーザー間の行動分析を行う。LINE上でビジネスを展開するブランドオーナーはサービス効率化を図ることが可能になる。

その他にも日本への進出を考えているデジタスヘルスケア関係の会社も存在する。

こうした台湾企業による日本市場への進出の背景には、文化的な側面もある。「台湾の人たちは日本の文化に非常に親しみを持っています」とエドガー氏。日本のテレビドラマやテクノロジーが台湾に持ち込まれており、トヨタやNECといった日本のブランドをよく認識している。したがって、台湾以外においては、まず日本市場で事業を興していけるか考えている。

一方、日本のスタートアップが台湾に進出しようとする流れもある。またスタートアップではないが、楽天は台湾で積極的に事業展開を行っている。このように台湾と日本での事業の行き来は決して珍しいことではない。例えば日本の大手企業である丸紅や京セラは、台湾市場で取引先の開拓や案件の発掘を積極的に行っている。

おわり

今回のイベントでは、台湾のビジネストレンドやスタートアップについて詳しくお話しいただいた。さらにスタートアップに必要なマインドセットも解説いただいたが、今後参考にしていきたいポイントが随所にちりばめられていた。

また日本の約10分の1の国土の台湾において、様々な領域でスタートアップが独自の事業を展開し始めていることがおわかりいただけただろう。SparkLabsを筆頭に、こうしたスタートアップを支援しようとする姿勢が台湾でもさらに浸透していけば、彼らのサービスが世界で日の目を浴びるのもそう遠くはない。国外市場として日本への注目度が高いとの話しもあった。台湾と日本の融合は今後さらに見られる可能性があると考える。