中国流新規事業・オープンイノベーションの起こし方

 addlight journal 編集部

2021年11月25日、弊社アドライトは事業会社での新規事業創出を目指すイノベーターに向けたイベントシリーズ「Brave Changer」第11回目として、「中国流新規事業・オープンイノベーションの起こし方」をオンラインにて開催。

ゲストに日中間のインキュベーションに力を注ぐMoon Ventures株式会社 代表取締役・LIN QI氏をお招きし、グローバルで起きている変革をふまえた中国の新規事業やオープンイノベーション実情、日本のイノベーションとの違いについて語っていただいた。

中国マーケット進出の効果的な方法 ~データベースマッチング~

LIN QI氏は事業売却経験やアリババグループとの合弁会社設立実績を有し、日本と中国のオープンイノベーションマーケットに精通している。

その経験から、Moon Ventures株式会社では350万社の企業データベースをもとに、日本企業が中国マーケットに進出する際の支援を行っている。データベースは業種などのカテゴリーはもちろんのこと、資金調達の履歴や競合情報など詳細なビジネスプランが分かる情報が網羅されている。

日本から見ると中国のマーケットは魅力的だが、実際に進出する際のパートナーは未知数であることが多い。日本企業が中国でイノベーションを起こす際には、最適なパートナーをさまざまなデータから深い分析を行い、探し出す必要があるのだ。

 

日本のイノベーションにおけるフレームワークが抱える課題点

人材配置と情報収集の限界

日本は製造業を中心に、実は早い段階からフィンテックやブロックチェーンを推進しようとしていた。しかし、現在は中国より一歩遅れたトレンドを歩んでいる。

その背景にあるのが、レギュレーションが厳しいために意思決定が遅くなることや、新規事業に不慣れな人員で集められた部署がイノベーションの担当になるといった組織的な課題が挙げられる。

また情報収集面においても、日本国内の情報や日系企業からの情報がメインとなるため、現地の鮮度が高い情報を得られていないことも課題だと、LIN QI氏は指摘する。

イノベーション多発のトレンド

イノベーションが起きる潮流も、日本にとっては逆風となったとLIN QI氏は語る。

2014年代まではグローバルのエンドユーザーは日本製品を使っていたため、エンドユーザーから基礎研究までを貫く、日本のトップダウン式のイノベーションで世界をリードすることができた。

しかし2014年以降は様相が変わったとLIN QI氏は続ける。エンドユーザーが世界中から製品を購入することになったのだ。そこに端を発したアプリケーションレイヤーでのイノベーションが多発することになった。

アプリケーションレイヤーに日本企業が不在であることから、日本はエンドユーザーのニーズが分からないまま、発注を受ける状況となった。

このような変化により、日本は世界のイノベーショントレンドから疎くなる状況に追い込まれたのだ。

中国のイノベーションのフレームワーク

面白みで日本よりも秀でる中国のイノベーション

さらにLIN QI氏は、日本とは異なる中国のイノベーションについて語った。

研究ではなくアプリケーション開発中心のイノベーションに加え、90%の性能で世界を席巻する安売品のイノベーションや、90%の性能を60%の価格で提供する効率イノベーションが中心だ。さらにパックリイノベーションと呼ばれる既存事業の分析を通じたイノベーションなどを特徴としている。

独自のイノベーションを推進する中国企業から見ると、日本のイノベーションは、ややもすると「面白みに欠ける」と映ってしまうのだ。

中国イノベーションの具体例 ~SEMCORP~

中国イノベーションの象徴的な事例として、吸収合併によって破壊的なイノベーションを起こしたSEMCORPをLIN QI氏は挙げる。

SEMCORPはタバコの梱包資材から事業スタートしたが、独自のタバコ表紙用特殊紙を開発、その後2回の吸収合併を繰り返し、わずか3年の間にウェットセパレーター事業の世界シェア1位となったのだ。

かつてセパレーター事業をリードしていた日系企業を追い抜いたのは、エンドユーザー発の着眼点と吸収合併を厭わず頂点を取りに行く決断力とスピードだろう。

日本企業が中国進出するために

日本はグローバル市場の情報不足や意思決定スピードが遅い体制面での課題はあるが、1980年代からの大量の基礎研究成果があり、十分に国際的な競争力を有している。

一方の中国は、IoTやスマートシティなど最先端技術の市場やエンドユーザーによる破壊的イノベーションは得意だが、ディープテック関連の研究不足やコア技術の開発は量産までのノウハウを所持していないのが課題だ。

日本の技術力を、中国が得意とするアプリケーションレイヤーのパートナーとマッチングできれば、中国でのイノベーションが可能となる。

そのためには、日本の技術が世界で通用するかなどニーズを発掘し、データベースからパートナーを発掘、事業検証を行い展開するプロセスが有効となる。

 

例えば愛媛大学初のバイオベンチャーは、独自のPrimer技術を持っており、中国マーケットへの進出を検討していた。そこにMoon Venturesのプラットフォームを活用し、中国でパートナー企業を選定し、製品をローカライズ。日本で研究開発を行いながら、中国で事業展開をすることで、素早い成長が実現できたのだ。

日本展開だけでは埋もれてしまったかもしれない優れた技術を、グローバルマーケットへ送り出した好事例といえよう。

今後も日本の研究成果が国際的なイノベーションを起こすためには、自分たちが手の届かない分野を得意領域とするパートナーを見つけるのが要諦になるだろうとLIN QI氏は締めくくった。

取材を終えて

中国での新規事業と聞くと、市場の大きさが魅力なものの、スピードの速さや多産多死などの断片的な話に終始しがちだ。
今回のLIN QI氏の講演からは、巨大な中国マーケットでイノベーションを起こすためには、現地パートナーの存在が不可欠という示唆が得られた。
日本の研究開発力を武器に、グローバル展開にチャレンジする一助になれば幸いである。