量産化の鍵は製造コストの削減。細胞培養肉開発の最新動向。

 addlight journal 編集部

2022年6月28日、弊社アドライトは日欧米スタートアップとのサステイナブル領域における事業共創プログラム「SUITz(スーツ)」連動企画として、世界の培養肉スタートアップ等を紹介する「Food-Tech Webinar Summer 2022」を開催。

ゲストに欧州屈指のアグリフードテックアクセラレータープログラムの代表格であるStartlife(オランダ)のLin Zhu氏、連続細胞培養技術開発で注目されるCellRev(英国)のCCO・Chris Green氏を迎えた。いずれも日本初登壇となる2社に、世界のトレンドや培養肉の未来について語っていただいた。

本記事では、イベントのイントロダクションとして行われた弊社シリコンバレーの熊谷による「世界の細胞培養肉開発と製造コストの課題と最新開発動向」と題した講演について紹介したい。

細胞培養肉市場への投資が活発化

米EDISON Investment Reserch社の2022年1月付のレポートによると、細胞培養関連の世界主要投資額については2020年から2021年にかけて飛躍的に伸びている。

2017年、2018年ごろは基礎的な研究開発に対する投資(シリーズAやシード)が中心だったのに対し、2021年は製造インフラの構築、開発資金の確保などが資金使途が中心になっている。

特に、ユニコーン企業であるPerfectDay社(米国)がシリーズD、Future Meat Technologies社(イスラエル)、三菱商事が出資しているAleph Farms社(イスラエル)などがシリーズBで大型の資金調達を成功させ、市場を牽引したという。

また、コロナ禍の状況にあっても食と細胞培養肉開発市場は大手企業とスタートアップのオープンイノベーションや協業が活発化しているという。

特に2021年以降は住友商事や三菱商事など日本の総合商社を始め、ネスレのような大手食品メーカー、DSMなど総合化学メーカーが欧米の細胞培養肉スタートアップと投資や共同開発、事業開発、マーケットエントリーの支援、M&Aなどさまざまな形で関わり始めているという。

「考え方によっては、大手企業が大きな予算を引っ張ってきてベンチャーにお金を費やすという段階まで市場が発展してきていると言える」と熊谷氏は語る。

培養肉開発の原動力

なぜ、いま世界中で細胞培養肉への投資が集まっているのか。背景には世界中を取り巻く課題があり、それらが細胞培養肉開発の原動力になっているという。

1つ目は世界人口の爆発だ。国連の予測では2050年までに世界人口は100億人を超えるという。そうなると、良質なタンパク質の需給が逼迫するのではないかと予測されている。

2つ目は地球環境保護で、従来の動物肉から細胞培養肉に転換することで温室効果ガス排出量を96%削減することが可能と言われている。特に、牛肉の生育が地球温暖化に与える影響は大きい。

また、水資源についても82〜96%削減可能性があり、土地利用についても95%相当の削減が試算されている。

3つ目は価値観の変遷で、健康志向の強い世代が世界中でメインストリーム化してきている。また、動物愛護的な価値観を重視する傾向も出てきており、消費者の目線が変化してきていると熊谷氏は指摘する。

細胞培養肉市場の成長予測

世界的な課題を原動力に年々投資額を増やしている細胞培養肉市場だが、実際に我々の食卓に並ぶのはいつごろになるのか。

熊谷氏が示したグラフによると、2025年から2030年には市場が形成され、細胞培養肉が我々の食卓にも並ぶという。2030年からさらにCAGR(年平均成長率)41%の成長を続け、2040年には今の動物性肉の半分以上の売上規模に成長すると言われている。

培地のコスト削減が鍵

高い成長率が期待される細胞培養肉だが、思い描くような成長をするためには2つの課題をクリアする必要がある。「おいしさ(味覚、風味、歯ごたえ、旨味、見栄え、機能性など)」の問題と「生産コスト≒培養肉製造のコスト削減」の問題だ。

おいしさの問題については、慣れ親しんだ動物肉と遜色ない形にしていくために欧米のスタートアップが試行錯誤をしているポイントだ。また、どのように栄養素を付加していくかなど機能性の面についても大きなテーマとなっており、直近でさまざまなプロジェクトが動き始めている。

培養肉製造のコストについては、現在製造されているパイロット版をいかに大量生産し、コストを下げていくことができるかが鍵だ。特に細胞培地が製造コストに占める割合は大きく、米GFIのレポートによると、成長因子としては1%に満たないTGF-β/TGF-2が、総コストの99%を占めるという試算がある。

このままでは培地1ℓあたり、約376米ドルかかる計算となり、市場合理性がない。実際、多くの企業にとって細胞培養のプロセスが最大のボトルネックとなっている。

量産化×コスト削減実現がバズワード

培地の製造コストがボトルネックとなっている細胞培養肉だが、本日登壇するCellRev社を始め、世界中の大手企業、スタートアップ、アカデミアで細胞培養のコスト削減に向けて研究が行われている。先行しているスタートアップでは研究成果も出てきており、オランダの細胞培養肉開発のMosa Meat社では培地コストを従来より65%削減することに成功している。

研究論文の発表も2019年ごろより加速しており、特に欧米培養肉スタートアップのR&Dチームが産学連携等で活発に論文発表を果たしている。今年に入ってからはMosaMeat社をはじめ、スペインのBioTech Foods社、イスラエルのAleph Farms社などが次々と論文を発表しており、名だたる研究雑誌に掲載されている。

「2023年にかけての培養肉のテーマとしては、1つは量産化、それとコストを削減していくための技術開発がバズワードになる」と熊谷氏は講演を締め括った。

取材を終えて

培養肉開発は食糧不足や地球環境問題などグローバルな課題に対するアプローチであり、実現のインパクトはとてつもなく大きい。そのため、世界中でお金と人材が集まり、エコシステムを形成している。

このような市場環境の中で、培養肉実現に向けた課題は明確であり、講演の中でも紹介された欧米のスタートアップを中心に技術開発は日進月歩で進んでいく。そう遠くない未来に我々の食卓に培養肉が並ぶ日が来るだろう。