自社に合う最適なスタートアップの見つけ方

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

2021年4月28日、弊社アドライトは事業会社での新規事業創出を目指すイノベーターに向けたイベントシリーズ「Brave Changer」第8回目として、「自社に合うスタートアップの見つけ方」をオンラインにて開催。ゲストにMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社 総合企画部イノベーション室・鈴木智洋氏(以下、鈴木氏)と鹿島建設株式会社 関西支店 建築部 生産推進サポートグループ・竹内秀和氏(以下、竹内氏)を迎え、スタートアップとのオープンイノベーションに欠かせない心構え等語っていただいた。

ファースト文化が根付くシリコンバレー

鈴木氏は2017年11月から2020年4月までシリコンバレーに駐在。名だたるハイテク企業やグローバル企業の集積地であり、大型の投資や技術も生み出されるなか、あらゆるファースト文化が形成されていると感じたという。

「とにかくスタートアップファーストです。スタートアップの数やスピード、多様性が圧倒的で人材の流動性も極めて高い状況で、大手企業よりスタートアップの立場が上です」と鈴木氏。MBAの素養を有するハイレベルな人材が集まっており、自分が何者で、何を求めているのかを最初に伝える文化が浸透しているという。

また面談相手に何かを与えることが当然であるというGiveファーストや、高いビジネスマナーを備えつつ、カジュアルなコミュニケーションが重視される効率性ファーストも根付いている。日本でよくある情報交換目的でのアポは敬遠される。もしセットしてしまおうものなら次回以降会うことは難しいことを意味している。

成功者(現状維持)よりも失敗者(挑戦者)が評価されるチャレンジファーストや社会課題等のペインポイントからイノベーションを生み出す文化等も挙げ、「これらが融合し独自のスタートアップエコシステムを形成しています」とした。

MS&ADグループのイノベーション活動

このようなシリコンバレーの生態系をふまえ、現地で2つのイノベーション創出活動を行っていた鈴木氏。1つはCVC、もうひとつはMS&ADガレージプログラムだ。

将来のディスラプターへの先行投資を行うために技術ドリブンでCVCを行う同社は、2018年10月の創設以来、50社を超える海外スタートアップに対して投資を行ってきた。領域は保険に留まらず、あらゆる業種・業界に及んでいる。投資先との協業も複数進んでいるとし、イスラエルのスタートアップ・ビドゥ社や米国Hippo社との取り組みを例として紹介した。

MS&ADガレージプログラムは、ペインポイントドリブンへのアプローチで、今ある課題を解決するためのビジネスディベロップメント活動を指す。

MS&ADグループ会社の社員がシリコンバレーへ中長期にわたる出張ベースでイノベーション活動に取り組み、ペインポイントの解消や事業アイデアのブラッシュアップ、イノベーションマインドの醸成を図るというものだ。「自社だけに閉じず、日系企業を含めた大手企業等とオープンディスカッションを含めて事業提携候補を選定することもあります」と鈴木氏。ベストな連携の仕方を模索した結果、これまで社内25グループから42名の参加を受け入れ、毎回複数の候補を持ち帰る成果につながったという。

帰国後、満を持して日本でも同様のスキームを展開したところ、参加企業の一社である鹿島建設がスタートアップと出合うことに。

建設業の死亡・重篤災害根絶を目指して

昨年8月、鹿島建設は東京証券取引所が経済産業省と共同で選定した「DX銘柄2020」に、建設業では2社のうちの1社として選ばれた。背景に、建設業に従事する層の高齢化を掲げている。

日本の就業者数は1997年を境に2010年から横ばいだが、他の産業の平均に比べて建設業は約3割が55歳以上、29歳以下は1割という実態がある(総務省「労働力調査」(暦年平均)を基に国土交通省で算出)。そのため建築工事に関わるあらゆる生産プロセスの変革を推進し、生産性向上を目指す「鹿島スマート生産ビジョン」を2018年11月に掲げ、その取り組みが評価されたかたちとなる。

それでも「課題は山積み」とし、2017年〜2019年の業種別死亡災害発生数を挙げた。林業・製造業・建設業・陸上貨物運送事業・第三次産業のなかで建設業は常に最も多く、全体の3割にあたる300人前後が毎年亡くなっている(出典:厚⽣労働省 平成31年/令和元年労働災害発⽣状況 建設業労働災害防⽌協会)。

どの現場でも安全対策は徹底して行っているが、建設業における死亡・重篤災害を根絶するにはどうすべきか。調査を進めた結果、誤って作業員が立ち入り禁止場所に進入するというペインポイントが明らかとなった。「彼らにアラートを出せたら死亡・重篤災害も減るかもしれない」――竹内氏は早速行動に移した。

鈴木氏を通じて見聞きしていたリモートガレージの力を借り、関連のありそうなシリコンバレーのスタートアップを70社ピックアップしてもらうことに。その後保有技術の精査や面談を通して数社に絞り、5月から実証実験を進める予定だ(イベントは4月実施)。

「シリコンバレーの技術力は少なくとも日本の半年から1年ほど進んでいる印象です。スピード感を持ってPoCから本格導入に進む必要があると感じました」と、今後の活動に対して強い意志を示した。

本事業は竹内氏の在籍する関西支店がリードし進めているが、イノベーション創出には本社の協力は欠かせないという。「鹿島建設にはR&D専属部署があり、しっかり形にするためには本社の技術が必要です。一方、支店は現場のニーズを捉えてスモールスタートできるフットワークの軽さがあります。本社のメリットと支店のメリットを使い分けて、役割分担して進めることが重要です」

コロナ禍前後でスタートアップソーシングに変化はあったのか

イベントの後半では、弊社代表・木村がモデレーターのもと、鈴木氏・竹内氏とイベントのタイトルにもある「自社に合うスタートアップの見つけ方」をテーマにトークセッションが行われた。

「コロナ禍でスタートアップ発掘の方法に変化は特段見られません」と鈴木氏。それまでもZoomを用いて面談が行われていたためという。ただし、大手企業の担当者とスタートアップがフランクに話すうえでは対面に勝るものはないとした。

では、スタートアップの見極めはどのように行っているのだろうか。鈴木氏は「チームの雰囲気が最も重要です」と回答。「チームの中での役割を各々が理解し、阿吽の呼吸で行動できるスタートアップが今後伸びていくと予想されます」という。

また協業や出資を決断する際の判断ポイントとして「スタートアップから大手企業のペインを深掘りし、自分たちがどのように役立てるのかを考えてくれる企業とは結果的にいい方向につながることが多いです」と添えた。

竹内氏は多数のスタートアップと話をするなか、技術の押し売りをするのではなく、協業先に寄り添いながら提案するところが選定のひとつになったという。「これから協力していく意識や、同じようなスピード感を持っているかどうかを1つの判断材料にします」と語った。

ただし、スタートアップが提供する製品・サービスと自社のペインとのマッチングはスムーズにいくわけではない。「実装までたどり着くのはかなり低い確率です。何回も挑戦していく中で目利き力を高め、より確率の高いものを見つけることが重要となります」と鈴木氏。実際、MS&ADガレージプログラムの実績を振り返ると、ソーシングしてから実装に至る割合は千三つ(せんみつ)だったという(上図参照)。

「スタートアップソーシングの段階で実装への確率を上げるために、企業側はピッチ資料の質を上げることが必要です。そして完全にペインを解決する技術と出合うのは難しいことを念頭に置き、将来性など他の視点から考えるなどの間口を広げる努力も必要になります」と竹内氏は締めくくった。

取材を終えて

スタートアップとの協業で最大の成果に近づけるには、自社のペインポイントの深堀りが欠かせない。そして目利き力やネットワークを有するMS&ADグループのプログラムを活用するのも有用と言える。

我々アドライトもオープンイノベーション創出を支援する企業の1社として、以下も添えておきたい。

スタートアップはパートナーとして対等の立ち位置にいる。