プライム市場への残留に向けて上場企業がやるべきこと

 Tadaaki Kimura

連日ニュースでも報道されていましたが、東京証券取引所(以下、東証)に大きな再編の動きが起きました。

東証は2020年12月に「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について」を公表しました。現在の市場区分をスタンダード市場・プライム市場・グロース市場の3つの市場区分に見直すことや、その新市場区分の上場制度の全体像、市場選択の手続及び上場維持基準を充たさない場合の経過措置をとる等が挙げられています。
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/index.html

最上位のプライム市場の上場基準では、流通株式の時価総額が100億円以上であることや、流通株式比率が35%以上であることが求められます。2021年2月15日付けの週刊エコノミストOnlineの記事によると、現在東証一部に上場している約2,200社のうち、プライム市場の要件を満たしていない企業は約600社。

元々、東証の新規上場や東証一部指定替えの基準や審査は厳しいものの、一度クリアし入場してしまえば退場の基準はありつつ緩やか。言葉を恐れず言えば、ぬるま湯に浸かっていたと見られる上場企業も多くありました。その多くが今回の東証の再編を機に、改めて株式市場とどのように向き合い、株価という「信任」を得るかを突き付けられている状況にあります。

現在上場している企業は、2021年6月末を「移行基準日」とし、2021年9月1日から12月30日までに上記3つの市場のうちからひとつを選択のうえ東証に申請する必要があります。こちらを勘案すると、今年後半から特にプライム市場の要件を満たしていない上場企業群を中心に、株価の見直しについて本格的な検討が更に加速するものと推測されます。

既に新市場区分の再編を見越した動きも出ているようです。Bloombergの2021年3月25日の記事によると、現在東証一部に上場するトヨタ紡績やアスクルは、プライム市場の要件となっている流動株式の基準を満たすため、相互保有している株式を一部売却したり、自社株式の消却などを決定したようです。

このように財務オペレーションによってプライム市場の要件を満たすことができる大手の上場企業は、基準に合わせた対応を期日までに実施するという対応になりますが、問題はそれ以下の規模の企業群です。時価総額が250億円に満たないような前述の約600社の企業については、株価そのものを上げることが必要になり、根本的な株価対策が必要になります。

根本的な対応が必要な中堅上場企業

中堅上場企業の多くは、PBR(株価純資産倍率)が1を割り、現行の時価総額が解散価値を下回っているような状況の企業も多くあります。これまで東証でも問題となっていた点が改めて浮き彫りになっており、割安な時価総額を改善し適正な株価を形成することは、中堅上場企業の経営にとって待ったなしのテーマと言えるでしょう。

中堅上場企業の中には、業界の中で安定的なポジションを築き、堅実に業績を維持している企業も少なくありません。ところが、安定した業績を維持しているだけでは、上記のような割安な株価を改善することはできません。株価とは、将来への期待値から形成されるものだからです。

具体的な未来にしっかりとしたビジョンを打ち込み共感を醸成し、そこにアンカリングする形で期待値を醸成しながら、有言実行をマイルストンとして示していく。中堅上場企業の中は上場してから時間も経過している企業も多くありますが、どんな企業も上場のタイミングでは夢のあるエクイティストーリーがあったはずです。それを常にアップデートし、上場ゴールと揶揄されるようなことのないよう、戦略と組織をアップデートした中期経営計画を策定し、その中核にイノベーション戦略を据えるべきと考えます。

IRを通じたイノベーション戦略の波及効果

中堅上場企業がこれまでの既存事業から脱却し、業界の成長率や利益率を上回るためには、オリジナリティある成長戦略を描き実行することが必要です。頭一つ出た成長戦略を持つ事業や企業には投資家はこぞって投資しますが、業界の平均的な企業には、その既存事業がよほどの成長市場でない限り限定的でしょう。

そのオリジナリティある成長戦略には、これまでの延長線上にない非連続な成長やジャンプを行う必要があり、イノベーション戦略が必要です。M&Aやベンチャー投資(CVC含む)のような全くの非連続のジャンプもあれば、外部となめらかに連携してオープンイノベーションにより既存領域の外に飛び出していくようなアプロ―チもあります。

イノベーション戦略は、一朝一夕で成果がでる訳ではなく、すぐに既存事業と比較できるような規模の事業が生まれる訳でもありません。しかし、新しい事業や収益が生まれる「仕組み」を作り、その仕組みを改善しながら回し続けることは、その企業が将来にわたって生み出す価値そのものを創り出しているとも言えます。

イノベーションの成果として、直接的な売上や利益のみに着目すると、時間もコストもかかりますが、その将来価値への貢献を一貫したIRストーリーをもって株式市場に伝え株価に反映させることができれば、波及効果として大きなものとなって返ってきます。このように、イノベーション戦略について株式市場の目線も併せ持ったうえで立案・実行し、IRを通じて株価に反映させていくことがこれからの中堅上場企業に特に求められています。

プライム市場難民を一社でも救うべく、弊社アドライトでは、株式市場を念頭に置いたイノベーション戦略の策定・実行の支援を行っております。お気軽にご相談頂ければ幸いです。