ICOはスタートアップへの投資の世界を一新するか:TenX

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部
TenX

「仮想通貨をいつでもどこでも使えるようにする」というコンセプトを掲げる、FinTech領域のスタートアップ「TenX(シンガポール)」の共同創立者でありCPOのポール・キティウォンサンソーン氏にインタビュー。仮想通貨とICO(Initial Coin Offeringの略称で、株の代わりにコインもしくはトークンを発行するという、IPOに代わるスタートアップの新たな資金調達の形を意味)、そしてブロックチェーン上における資産について語ってもらいました。

TenX CPO ポール・キティウォンサンソーン氏

TenX CPO ポール・キティウォンサンソーン氏

ICOとは?

――まずはTenXについて教えていただけますか?

TenXを始めたのは2015年のことで、TenXデジタル・ウォレットという最初の製品を開発した年になります。開発においてはすでにβステージに到達しており、TenXデビット・カードの提供を開始し、当初の計画通り運用できるよう調整する段階にありました。資金調達に関していえば、我々はVCの協賛を得たシード・ラウンドを終え、さらに2017年にはICOを完了しています。

――ICOについて詳しく教えてください。

ICOはIPOと非常に似ている概念です。ただIPOの場合には株式を公開する代わりに、ICOでは「コイン」あるいは「トークン」と呼ばれるものを発行します。このコインとは会社の「持分」を表すものです。その対価として、会社には仮想通貨が出資されます。そうすることで、出資者はその会社の株主ならぬ、「トークン・ホルダー」になるのです。

株式と同様に、トークンもまた様々な方法で構造化されています。例えば、トークンはICOを行った会社の利益と結びつけられ、また「株主割り当て」として会社から提供されることもあります。我々はこう考えるようにしています。つまり、ICOはクラウドファンディングのための一種の方法であり、投資家が関わりたいと思うプロジェクトに貢献するための方法です。

そしてその見返りとして、出資者は将来において価値を持つであろうトークンを得ることができ、さらに会社の利益を分け与えてもらうことができるのです。

――TenXのICOについてさらに詳しく教えていただけますか?

TenXのデビット・カードはモバイル端末と同期でき、ユーザーはカードでの支払いと端末での支払いを切り替えることができる

TenXのデビット・カードはモバイル端末と同期でき、ユーザーはカードでの支払いと端末での支払いを切り替えることができる

我々は2017年にICOを行いましたが、1年以上にわたり計画されていたものでした。その準備のために構造化やプログラミング、スマートな契約方式の作成など様々なタスクが残っていました。ICOの構造とはそのようなものでしたので、アナウンスメントを行う前から我々は調達しなければならない資金の正確な量やその用途まで把握していたのです。

最初の資金調達ラウンドは、我々が「プレICO」と呼ぶもので、大口顧客を相手にするものです。それは、イーサリアム(中央管理システムを必要としない分散アプリケーションのためのプラットフォーム)上で我々が得られるであろう取引量を確実に扱えるようにするために必要不可欠なものでした。

おそらくご存知のこととは思いますが、我々が発行するトークンはERC20(イーサリアム上で最も多く取り扱われるトークン)に紐づけられています。一度基準が満たされると、イーサリアムのプラットフォーム上でトークンを取引きすることができるようになります。我々はICOのために、20万イーサ(ETH:イーサリアム上の基軸通貨)、つまり8000万ドルほど調達しました(当時のレートは1イーサ約400ドル)。

ICOとIPOの違い

――ICOとは、IPOと比較してどのようなものですか?

今のところ、IPOを達成するのは非常に困難です。まず第一に、IPOのためには銀行や株式引受人との強固な関係構築が不可欠になります。また、IPOのプロセス自体も非常に資金力が必要となるもので、とりわけ多くのアーリー・ステージにあるスタートアップにとってはそれが大きな負担となるのですが、大抵の場合50万ドルから100万ドルが必要となります。

一方で、ICOとブロックチェーン技術の方はここ1、2年の間に大衆の中に潜在的に存在する資金調達の機会と結びつけられてきました。そして、それらはプログラミング技術や法的な手続きを必要としながらも、IPOに比べて遥かにコスト・パフォーマンスに優れたものなのです。

ICOをKickstarterとの比較という別の観点から眺めてみます。Kickstarterを介さずに何かを制作したいと思ったら、まず銀行に行って融資を受けるか公に資金を募るか、VCを頼らなければなりません。ICOはKickstarter上のキャンペーンと似ていますが、微妙に異なります(なお前提として、Kickstarterはプライマリー・マーケットに過ぎず、セカンダリー・マーケットが存在しないという根本的な違いがあります)。

ICOは多くの協賛を得てアイデアを実現するための、そして製品のユーザーを集めるための最良の方法です。また、アイデアに関する批判も同時に多く得ることができ、それらはサービスや製品を改良していくならば必ず必要になるものです。それ故、銀行などを介する方法と比べ、IPOは公に開かれた方法であり、また包括的な方法であると言えます。

もちろん、VCをあてにするならば、それにもメリットはあります。例えば、彼らの有するネットワークを利用することができるといったことです。しかし、最終的にはユーザー、資金そしてユーザーからのフィードバックや開放性といったことが必要になるのです。それらをICOならばすべて提供してくれるでしょう。

ICOの抱えるリスクと導入タイミング

――ICOを利用する上でリスクはありますか?

最も主要なリスクは、ICO自体が未だ新興のサービスに過ぎず、また世界の多くの地域において、それは法的なグレーゾーンに位置しているということです。そこにはコンプライアンス上の問題、そして解決されねばならない法律上の問題が多くあるのです。それ故に、例えIPO上で資金調達に成功したとしても、法律上の問題を慎重に扱わなければなりません。

そうでなければ、のちにそれらの問題が付きまとうことになります。例えば、将来的に法律が改正され、それがリスクをもたらす可能性もあります。しかし、規制がしっかりと整備され、ICOシステム自体も何度も改良を繰り返すことで、ルールはより明確なものとなり、またそれはリスクを軽減してくれることでしょう。

――スタートアップはどのタイミングでICOを模索するべきでしょうか?

それに関しては、いわゆる脚本のようなものは存在しないと思います。本当にスタートアップによって様々です。我々のケースで言えば、ICOは資本を得るための手段であり、製品開発を進め、さらに製品の改良を進めるよう促してくれるコミュニティを形成するための手段であるとみなしていました。ですから、スタートアップがどのようなステージにあろうとも、ICOを実行することはメリットになり得るだろうと考えています。

TenXの共同創設者の1人であるジュリアン・ホス博士は、「The ICO world is full of pump-and-dump schemes — don’t be a victim(ICOの世界はP&D〔ポンプアンドダム〕計画に満ちている。犠牲者ではない」と題し、いわゆるサークル・スキームについての認識を高めました。詐欺行為を避ける方法を教えてくれました。


姿形は見えずとも、仮想通貨は現実にあることを植え付けたい

――現在のTenXの達成目標を教えていただけますか?

我々の主要な目標は、仮想通貨の普及を促すことです。そのために、我々はTenXカードサービス(デビット、もしくはプリペイドカード)をローンチしました。というのも、それが消費者や売り手共に慣れ親しんでいるフォーマットだからです。我々のカードはVISA、MasterCard、JCBのユーザーをサポートします。

特徴として、我々のプラットフォーム上ではユーザーはカードの支払いオプションとして仮想通貨を選択することもできるようになっています。実際に、ビットコイン、イーサ、ERC20及びDASGが使用できます。

TenX デビットカードは仮想通貨や紙幣と同様にVISA、MasterCard、JCBのユーザーをサポート

TenX デビットカードは仮想通貨や紙幣と同様にVISA、MasterCard、JCBのユーザーをサポート

もちろん、スマホアプリと、それに搭載されているQRコードリーダーを使って支払いを行うこともできます。また、支払の際には仮想通貨を含む多くの通貨単位から支払い方法を選択することができます。アプリ上でTenXデジタルウォレットを使用していても、TenXカードを使用していても、アプリはカードと正確に同期されています。例えばアプリ上で円からドルへ支払い方法を変えたような場合にそれは即座にカードにも反映されるようになっています。

ご存知の通り、ここ数年にわたり仮想通貨が直面している問題は、人々がそれを「現実」であるとは考えていない点です。それはつかみどころのないもので、他の種の通貨や支払い方法に伴う通常の購買体験とは異なったものとして感じられているのです。

我々は人々のそういった認識を変えたいと思っており、アプリ上のデジタル・ウォレット及びカードでの支払い方法を提供することはそのための最初のステップであると考えます。最終的には、人々が実際に仮想通貨での支払いに習熟するという段階にまで進みたいと考えています。

――今後2年でTenXはどうなっているでしょうか?

我々は本当により多くの人が仮想通貨を利用するようになって欲しいと願っています。もしそうなれば、さらに多くの人がTenXウォレットとカードを利用するようになっていることが期待できるでしょうし、ブロックチェーン上のどの資産を利用したいか手軽に選べるような能力も身につけていることでしょう。ですから、我々はお金に関する人々の考え方を変えたい、そして他のサービスも建て増しできるような仮想通貨のエコシステムを作り上げたいと真に願っているのです。

日本でも仮想通貨は浸透する

――TenXはどうして日本に?

家電量販であるビックカメラのように、日本の実店舗でも仮想通貨での支払いが普及してきており、日本をTenXのようなFinTech関連企業にとっての魅力的なマーケットへと変えている

家電量販であるビックカメラのように、日本の実店舗でも仮想通貨での支払いが普及してきており、日本をTenXのようなFinTech関連企業にとっての魅力的なマーケットへと変えている

日本のFinTech市場も変革が進んでいて、それ故に我々も日本市場への進出を検討しています。そういった変革のひとつに、日本政府が仮想通貨に積極的な関心を寄せていることが挙げられます。銀行や、ビックカメラのような家電量販店が仮想通貨の領域に進出しはじめました。例えば、ビックカメラは現在ビットコインでの支払いに対応しています。ですから、日本のエコシステムは仮想通貨を支持する方向へと動いていると言え、それ故に我々はここでサービスを展開したいのです。

――ポールさんはどんなキャリアを積まれてきたのでしょうか?

私のバックグラウンドはバイク及び自動車のUIの設計といったプロダクトデザインです。それからスタートアップ領域へとピボットしたので、自身のスキルを人々が欲しがる製品をデザインするために活かすことができます。同時に私は経済及び金融に大きな情熱を寄せており、それらの全てをTenXでの仕事に注ぎ込むことができています。出身はタイですが、現在はシンガポールに拠点にしており、日本にもしばしば訪れています。

取材を終えて

仮想通貨を耳にしたことはあるけれども、実際に利用した経験までは少ないのが実状ではないでしょうか。そんなお金に関する認識を根底から変えていきたいというポール氏。本インタビューの中でICOに多く触れていたように、ブロックチェーン上で仮想通貨による資金調達を行うといったスタートアップ投資の形はとてもホットなテーマです。ポール氏いわく、ICOを未成熟であるが故に多くのリスクを含んでいると指摘しつつ、スタートアップにとって包括的な利益をもたらしてくれる手法であり、あらゆるステージにおいて全てのスタートアップが検討すべき手段であると語っていました。TenXが仮想通貨を用いた決済手段として広く普及する日もそう遠くはないかもしれません。