政府ブロックチェーン導入、IT人材輩出…ジョージア、アルメニア、ウクライナ

JETRO イスタンブール 経済部長(産業調査員) 廣瀬 浩三

汚職、革命、サイバー攻撃。旧ソ連の中でロシアの驚異にさらされる国がニュースで取り上げられるのは、こうしたキーワードとのセットが多い。しかし、これらの各国でも、地政学上の逆境、国や産業への信頼低下からか、スタートアップへ夢を抱く若者を輩出し始めている。

ジョージア、ブロックチェーンが政府の登記に

2017年、世界で初めて土地の登記の仕組みにブロックチェーンを導入した国をどこかご存知だろうか。アメリカでもない、中国でもない、コーカサスの小国・ジョージアだ。実はこの国は、ブロックチェーンのマイニングの量で世界第三位の地位を占める。水力発電による安価な電力を活用した国興しの一環だったが、それが一つの契機となり、ブロックチェーンの政府への導入が決まった。

かつてのジョージアは汚職が蔓延し、かつソ連崩壊後の混乱の中で土地が誰のものか曖昧な状況になり紛争が多発したケースがあった。このような背景から、信頼感のある透明なシステムを国民が強く要請する傾向にあった。この結果、電子政府の動きがEUなどの支援も受けて早くから起こり、気づけばシステム会社も感心するような電子の登記システムができあがっていたという。

これに着目したブロックチェーンの会社Bitfuryが、ジョージア政府に土地の登記へのブロックチェーン導入を売り込んだという。これを契機に、ブロックチェーンを活用したスタートアップを始めとするスタートアップの波が一気に押し寄せているのだ。

ディアスポラが支えるIT人材育成─アルメニア

アルメニアは、ジョージアと同じくコーカサスの小国であり、隣国のトルコ・アゼルバイジャンと紛争を抱える内陸国だ。地政学的なディスアドバンテージは大きく、経済はなかなか成長しなかった。それでも、彼らには強い財産がある。人口は約300万人に対し、海外に住んでいるアルメニア人は約700万人と言われ、多くのアルメニア人が、ディアスポラ(離散の民)として、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、アジアなど世界中に分散して暮らしている。

旧ソ連時代にPCのコンピュータ設計やソフト開発を担い、「旧ソ連のシリコンバレー」とまで言われたアルメニアでは、ソ連崩壊後、隣国との関係悪化などで、そのサプライチェーンが崩壊し、経済危機に苦しんだ。こうした危機にディアスポラが立ち上がり、近年アメリカ企業の拠点展開が進み、国際的なITのアウトソーシングが進み始めた。

TUMOセンター(Tumo Center for Creative Technologies)ウェブサイト

TUMOセンター(Tumo Center for Creative Technologies)ウェブサイト

彼らの投資は教育にも及ぶ。TUMOセンター(Tumo Center for Creative Technologies)では、放課後の子供達に無料のITトレーニングを提供している。プログラミングを始め、ゲームやグラフィックデザイン、仮想通貨やブロックチェーンについても学ぶことができ、フランスのパリでも同センターの開校が予定されている。数年後、アルメニア人の子どもたちがどのような未来を描くのか期待は高まる。

理系人材がITに移動、ウクライナでスタートアップブーム

幾度なく内戦などの危機に見舞われてきたウクライナだが、経済に関しては、1990年代の間、激しいインフレが起こるなど非常に厳しい時期となった。

元々、ウクライナはソ連の軍需・航空・宇宙産業を担っていた。そこでは、その関連企業が200社1万人の雇用を支えていたともいわれる。ソ連崩壊後も、ロシア等への納入が中心だったが、2014年のマイダン革命後、ロシアとの関係の悪化で売り先の模索に躍起となっているなど厳しい環境にさらされている。

軍需・航空・宇宙等の産業にいたシステム開発を担っていた人材がIT業界に流れ、ウクライナにはIT人材が多かった。米国、インド、ロシアに次ぐ世界4番目ともいわれている。また、国内の混乱は、世界に優秀な理系人材を散らした。その中でも、WhatsAppの共同創業者ジャン・コウムとペイパルの共同創業者で元CTOのマックス・レブチンは、どちらもウクライナ出身であり、このようなスタートアップの成功例に憧れる若者が増えている。

ボーイング、シーメンス、オラクル、サムスンなど世界的な大企業が研究開発拠点を設置し、サムソンの社内のプログラミングのコンペティションでは、毎度トップ10にインドとウクライナが複数人入るというこの国のポテンシャルはこれから発揮されるのではないだろうか。

これらの国は、地政学的な不利を抱えており、必ずしも政府の信頼性が高くないという共通項がある。エストニアのように、政府全体が電子政府に向けて動くようなラディカルさはないといえるが、そのようなマイナスの点を若い人材がスタートアップやイノベーションという切り口で乗り越えていく未来が見えてこないだろうか。世界が大国の対立の応酬で先行き不透明になり、地政学が注目される中、断層ともいうべきこのエリアの兆しは、もしかすると世界の未来を占っているかもしれない。

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お知らせ

【10/29 東京・大手町】Trend Note Camp #19 未知なる黒海周辺スタートアップ〜トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナ

トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナと聞くと何を思い浮かべますか?治安情勢、親日家などニュースで見聞きすることや観光スポットとしての印象が強いですが、FinTechやブロックチェーン等テクノロジーへの取組が進みつつあるエリアでもあります。

加えて、ジョージアは世界銀行が毎年発表する「ビジネス環境ランキング」で9位(とくに、事業設立の容易性4位)と、日本の34位を大幅に上回り、トルコは2023年までに世界10位の経済規模を目指し、5Gをはじめとした国産開発を強化。ウクライナやアルメニアは、昨年日本との外交関係25周年を迎え、強みとするITや研究分野での日本企業との連携を望んでいます。

当日は、これらエリアのスタートアップに着目。取り巻く環境や最新テクノロジーを通じて、知られざる魅力に迫ります。

ゲスト:JETRO イスタンブール 経済部長(産業調査員)・廣瀬浩三

主催:株式会社アドライト