資金調達時に知っておきたい、スタートアップと出資側間の対立点

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

1月10日、愛知県主導のアクセラレータープログラム「Aichi Open innovation Accelerator」連動企画のイベント「公認会計士、弁護士、証券取引所が教える『資金調達の留意点』」をなごのキャンパス(愛知県名古屋市)にて開催した。ゲストに株式会社名古屋証券取引所 営業推進グループ チームリーダー・大澤誠氏、弁護士法人小山・古澤早瀬 弁護士・古澤仁之氏、税理士事務所 公認会計士・税理士 前田勝己氏をお招きし、最適な資金調達の仕方や調達後のリスク等について解説してもらった。

Aichi Open innovation Acceleratorとは?

愛知県は製造業に強みを持ってきたが、CASEやMaaSの進展、Society5.0の到来により、今後その産業構造や競争環境が大きく変わることが予想されている。そこで、愛知発スタートアップの土壌を醸成し、産業の新陳代謝を活発化させることを目的に「Aichi-Startup戦略」が立ち上がった。

愛知県 経済産業局 次世代産業室 室長補佐・山田英明氏

愛知県 経済産業局 次世代産業室 室長補佐・山田英明氏

本プログラムはその一貫として、IoTやAI 等の技術を有するスタートアップを愛知県内外から誘致し、個別の短期集中支援や、資金獲得・事業提携等につなげるための場を提供している。弊社・株式会社アドライトは委託事業者として企画・運営を担っている。

IPOは狭き門

大澤氏は、1991年に名古屋証券取引所に入社。2004年からは新規上場促進の担当者としてIPO候補企業に対し誘致活動を行い、年間100社以上の未公開企業と接触している。講演では、最近のIPO事情やスタートアップにとっての理想と現実について触れた。

大澤氏によると、2019年のIPO社数は86社。多少の変動はあるが、2014年頃から大きく変化はしていないという。これはライブドアショック(2006年)やリーマンショック(2008年)以前のIPO社数の半分程度になる(2004年175社、2005年158社、2006年188社)。このマーケット環境はまだ続くと大澤氏はみている。

株式会社名古屋証券取引所 営業推進グループ チームリーダー・大澤誠氏

株式会社名古屋証券取引所 営業推進グループ チームリーダー・大澤誠氏

「上場を希望する企業は毎年1,000社程度ではないかと推測しますが、そのうちIPO達成は1割程度。お金をかけて準備してもできないケースは沢山あります」(大澤氏)

2019年の新規上場会社の項目別分布を見てみると、様々な特徴が見えてくる。まずは「売上規模が小さい」。IPOを果たした企業のうち、売上20億円以下が40%、50億円以下の企業が67%を占める。

また「赤字での上場」も16社にのぼる。全IPOのうちの18%、マザーズに限れば25%にもなる。「これだけの赤字上場は見たことがありません。規模が小さく債務超過でもエッジの立ったビジネスモデルを展開する企業が上場してきています」と大澤氏。Sansanやfreee、ランサーズも該当する。

さらに初値時価総額に着目すると、50億円以下でIPOした企業は13社と、全体の15%程度。一方、300億円より大きい初値時価総額で上場したのは17社であった。子会社上場が増えていることも最近見られる傾向という。

このような環境においてスタートアップはどのような資本政策を考えれば良いのだろうか。「資本政策の最適な時期は正直分かりません。企業によって異なります」と大澤氏。昨今IPOまで至る情報・通信業、サービス業以外では高いバリュエーションがつきづらい。「Exitが求められることを理解したうえで外部資本調達を行うべきであり、もしおこなったならIPO以外のExitも検討することが重要です」と締めくくった。

 

スタートアップと出資側間でトラブルに繋がりやすい7つの齟齬

「これまで見てきた様々な事例、特に失敗例から『転ばぬ先の杖』としてお伝えします」。20年以上にわたり、弁護士としてスタートアップの支援に取り組んできた古澤氏は、資金調達側と投下側(VCやCVC、企業、個人投資家)との利害の対立点のうち、特にトラブルに繋がりやすいという7点に触れ、資金調達をするうえでの大事な心構えを語った。

以下は、弁護士が投資契約書のリーガルチェックで注目するもので、資金調達側と投下側が揉める点という。

(古澤氏の講演資料を基に作成)

ここでは対立点1、2、5について紹介したい。

・対立点1「株式の上場」

契約書の終わりないしは初めに「甲と乙は相互に協力して、株式の上場に向けて最大限の努力を」といった文言が書かれていることが多いが、「投資契約書を受け取ったら真っ先に見て欲しい項目」と古澤氏は言う。

資金投下側は「株式の上場を契約書で確約できないのは分かる。でもIPOに向けて『最大限』努力してね」という想いで資金を投じるが、資金調達側は「努力は結果の保証ではない」と資金を受け入れる傾向にある。このような思惑の対立を意識して、資金調達側が投下側の期待に応えようとする姿勢がないと揉めてしまう場合があるので注意が必要だ。

・対立点2「表明保証」

資金投下側は、基本的にデューデリジェンスを行い、事業のリスクを見極めたのち投資するが、全てを評価し尽くすのは難しい。そこで「表明保証」を求める。表明保証とは「契約時の記載事項と提出書類が正しいことを証明するもの」だ。資金調達側はできる限り不都合な事実を隠しておきたいのが本音と言えるが、後々発覚すると「契約違反だ。株を買い取ってくれ」と揉めたり、賠償請求をされたりする事態につながる。実際このケースは非常に多いという。

・対立点5「事前承認事項」

「『報告』と『承認』は質的にまったく異なります」と古澤氏は言う。前者は事後で伝えることで十分だが、後者は事前に許可をとる必要がある。仮に承認をとった証拠がなければ、契約違反の証拠ができることになる。そのため経営の自由度が大きく低下する。弁護士は、資金投下側が事前承認事項をどれくらい契約書に盛り込んでいるかを見て「どれくらい資金調達側を疑っているか」を判断することもあるそうだ。

以上のような思惑の対立がトラブルに繋がることが多いことを踏まえ、古澤氏は「資金調達側の心構え」を次のように述べた。

弁護士法人小山・古澤早瀬 弁護士・古澤仁之氏

弁護士法人小山・古澤早瀬 弁護士・古澤仁之氏

  • 目標に到達しない限り投資契約の目的を達成できないと決意して
  • 不利な事実こそ、事前に、誠実に開示
  • 重要なステークホルダーが経営に参画して当然という意識を持って
  • 株主の立場から見て重要な経営判断は事前に相談
  • 経営にあたる役員・従業員が協調し、人の和を大切にして
  • 最悪の場合は株式を買い取るが、それは恩返しにならないと覚悟する

外部資本調達は決して気楽に行うべきものではないことの怖さが伝わる講演だった。

 

健全な経営を実現するための「誠実な情報開示」

前田氏は大手監査法人で20年ほど勤務した後、3年ほど前に独立。現在は公認会計士としてスタートアップの社内監査役や上場準備のコンサルティングに取り組んでいる。講演では、古澤氏同様に資金調達側と投下側の利害対立関係について言及したうえで、資金の受け手であるスタートアップが「誠実な情報開示」をすることの重要性を話した。

バリュエーションにおいて高い企業価値をつけて欲しいスタートアップは「『業績が順調で資金も潤沢にある会社だ」と強気でアピールする場合が多い」(前田氏)というが、資金が底をつきそうな部分を隠していることも多い。そのような事情があることは資金投下側も十分に理解しているため、「強がらなくて良いですよ」と前田氏は言う。

資金投下側はリスクを負って出資してくれている存在であり、スタートアップにとってパートナーのような存在でもある。しかしながら、スタートアップの開示姿勢と開示内容に対して疑心暗鬼になることも多いという。「ルールに則った誠実な情報開示を行って利害対立を防ぎ、資金投下側との信頼関係を構築していくことは、スタートアップが健全な経営を行っていくうえで非常に重要です」と前田氏は話す。

そのためには、開示内容と姿勢の両方が重要だ。バリュエーションにおいて、企業価値は実際の価値よりも大きく評価される。これは、将来計画に基づき評価された無形の財産 (のれん) の分だけ高く評価されているためである。

税理士事務所 公認会計士・税理士 前田勝己氏

税理士事務所 公認会計士・税理士 前田勝己氏

それを資金投下側は分析しないといけないが、資金投下側にとって情報は非対称的であり、ソースは限定的だ。資金調達側であるスタートアップが説明責任を果たすためには、会計や税務の基準に則り情報を開示することが重要になる。前田氏は「知識不足により、結果的に粉飾まがいなことをしている企業もよくみる」と前置きしたうえで、「実態を表していない財務諸表では、説明責任は果たせていません」と強調した。

また、開示する姿勢も重要である。経営者の中には本業で忙しく、財務や会計については外部の税理士事務所などに任せきりになっている方も多い。しかしこれも説明責任を果たしているとは言えない状況だ。企業の状況について経営者が自分で資金投下側に説明できる必要がある。

出資を受けた以上、誠実に情報を開示するのは義務である。そして、それは結果的に資金投下との利害対立の解消にも繋がる。前田氏は最後に改めてこの点を強調し、講演の幕を閉じた。

 

講演の後には、講演者3名によるパネルディスカッションと質疑応答、ネットワーキングが開催された。資金調達の難しさや奥深さ、そこに伴う責任の重さを学ぶことができた会であったのではないだろうか。当イベントが、スタートアップの健全かつ効果的な資金調達実現の一助となったのであれば幸いである。