前回の記事では、Accelerator Ranking Projectの最新版についてお伝えしましたが、その中でR/GAのようなコーポレート・アクセラレーターが上位に格付けされており、自社のリソースを利用して上手く差別化に成功している事例として取り上げました。今回はそんなコーポレート・アクセラレーターの米国における展開と活動についてまとめてお伝えしていきたいと思います。
Techstarsとコーポレート・アクセラレーター
アクセラレーション・プログラムを始めるためには、支援先企業の募集から選定、メンタリング、そしてデモデイの開催に至るまで様々なノウハウが必要になりますが、Techstarsはそれらのノウハウをパッケージ化して提供することでこれまで様々なコーポレート・アクセラレーターを誕生させてきました。今回は代表的な5つの事例をご紹介します。
1. Disney Accelerator
2. METRO Accelerator
METRO Acceleratorはキャッシュ&キャリー方式の会員制卸売業を展開するドイツの企業、METRO AGがTechstarsの支援によって開始したアクセラレーション・プログラムです。METROの経験豊富な社員がメンターとして入っているのが魅力で、同社のフード・バリュー・チェーン上でのネットワークを利用できることもプログラムのメリットであるようです。毎年10チームほどが参加するバッチをこれまでに2回開催していて、2017年度からは従来のホスピタリティ部門に加えて、リテール部門が開設され、9月にデモデイを迎えるようです。
3. Barclays Accelerator
Barclays Acceleratorは、世界的な金融グループであるBarclaysとTechstarsとのコラボレーションで2014年に開始されたアクセラレーション・プログラムです。世界的金融機関のプログラムらしく、その開催地が世界4都市にまたがっているのが特徴で、これまでにロンドンで4回、ニューヨーク、ケープタウン、テルアビブでそれぞれ1回ずつプログラムを開催してきました。FinTech領域でのスタートアップにとって、バークレイズのメンターによる助言や、同社のネットワーク、技術へのアクセスは大変魅力的なものであると考えられます。参加チームはこちらも各回10チームほどで、卒業チームには、アフリカのPtoP送金サービスを手掛けるSimba Payやブロックチェーン技術の導入で取引管理を行うWaveといったチームがあります。
4. Alexa Accelerator
Alexa Acceleratorは、米アマゾンが100M USDを拠出して2015年に設立したAlexa Fundを母体とし、Techstarsの支援によって新たに2017年7月より開始されたアクセラレーション・プログラムになります。参加チームはAlexa Fundより資金提供を受けることができ、さらに音声認識や自然言語解釈を行うパートであるAlexa Voice Connectやその認識内容に基づいて他の様々な機能との連携を行うパートであるAlexa Skills Kit、さらにはクラウド・コンピューティング最大手Amazon Web Servicesといった、Amazonのもつ様々な技術へのアクセスも可能であることが大きな魅力となっています。
7月17日のプログラム開始時点で9チームの参加しており、音声認証技術をエンターテイメントに利用するNOVEL EFFECTや会議室の設備とSlackを同期させるサービスを開発しているtwineなどが加わっています。デモデイの開催は10月17日に予定されているので、今後もAlexa Acceleratorの動きには注目していきたいと思います。
5. Cedars-Sinai Accelerator
Cedars-Sinai Acceleratorは、ロサンゼルスに位置するNPO医療法人、Cedars-SinaiがTechstarsとの提携で開催するアクセラレーション・プログラムになります。参加チームは120K USDの投資を受けることができ、さらにCedars-Sinaiの医療チームからの専門的なアドバイスも得られるそうです。ワークングスペースは、ロサンゼルスにあるCedars-Sinaiのメディカル・センターに隣接しているそうなので、医療系のファウンダーにとっても最適な立地であると言えるかもしれません。
それ以外のコーポレート・アクセラレーター
続いては、自社の様々なリソースを活用して自力でアクセラレーション・プログラムを手掛ける企業の取り組み事例を4つご紹介していきます。
6. Airbus BizLab
Airbus Bizlabは、フランスのエアバス社が手掛けるアクセラレーション・プログラムになります。エアバス社は、同プログラムを計画するにあたって、他の様々な企業のアクセラレーション・プログラム(MicrosoftやCoca Colaなど)とのネットワーキングを行ったようです。こうして、航空機メーカーでありながらも、様々な領域でのメンタリングを提供できるような仕組みが整っています。なお、エクイティの取得についてはAirbus Venturesによってなされることがあるそうです。
エアバス社としてはスタートアップの領域は絞っていませんが、それでも参加チームはやはり航空関係のチームが多いように感じます。
過去の参加チームはこちらで紹介されています。
7. Illumina Accelerator
Illumina Acceleratorは、米国のバイオテクノロジー大手であるIllumina社が手掛けるアクセラレーション・プログラムになります。スタートアップの領域は遺伝子関連技術に絞っており、これまでに14チームへの投資実績があるようです。参加チームはIllumina Accelerator Boost Capitalを通じて40M USDの投資を受けることができるほか、illuminaの技術チームによるメンタリングやilluminaの持つ研究開発施設も利用できるようになっています。
8. Intel Education Accelerator
米Intel社による教育分野に特化したアクセラレーション・プログラムがIntel Education Acceleratorです。参加チームはIntel Capitalより最大で100K USDの投資を受けることができ、世界中の教育機関で教育プログラムを手掛けるIntel Educationのスタッフからのメンタリングも受けられる他、そのIntel Educationの持つネットワークも利用できるようになっています。過去2回のピッチには合計で16チーム参加しており、10代向けのプログラミング学習ツールを開発したvidcodeや、AIを利用した学習ツールを提供しているPREPFLASHなどの卒業チームがいます。
9. EY Startup Challenge
EY Starup Challengeは、世界的な会計事務所であるErnst & Youngはその顧客ネットワークと各産業のプロフェッショナリズムをアセットとして活用するアクセラレーション・プログラムを展開しています。EY Startup Challengeには、毎回抜粋された10チームほどが参加でき、期間中にはEYの顧客ネットワークを利用して投資家や潜在的顧客とのネットワーク作りができるようです。ワークショップでは顧客マネジメントといったビジネス上の課題を中心に扱い、EYの各産業リーダーによるメンタリングも含まれたプログラム構成になっているようです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。企業によりアクセラレーション・プログラムを開催する目的は様々であり、Barclays、Amazon、Illumina、Intelのように、自社の事業領域に募集するスタートアップを絞り、技術開発の一助とするような方法や、Airbusのように募集領域を広くとって総合的なシナジーを狙っていくような方法等がありました。また、プログラムの創設に関しても、Techstarsという老舗アクセラレーターの協力のもとに既成のプログラムをフルセットで導入するスタイルと、全て自社で展開していくスタイルとがありました。
いずれにしても、コーポレート・アクセラレーション・プログラムを実施するにあたっては、自社の持つアセットを最大限活用し、それをアピール・ポイントとしてプログラム全体の特色を出していくのが共通した戦略であるように感じます。確かに、Disneyの持つブランド力、Amazon Alexaのもつ音声認証とその周辺技術、医療法人やバイオ企業のもつ研究施設、会計事務所のもつ顧客ネットワークなどは、シードステージにあるスタートアップにとって大きな価値のあるビジネスの上での武器となり得るものですね。
株式会社アドライトでは、テーマ選定からスタートアップ候補のスカウト、及びその後の事業化までをワンストップで提供する企業アクセラレータープログラムによる事業創造支援を行っております。ご興味ある方は弊社ホームページよりお問い合わせくださいませ。