【最新版】米国アクセラレータの格付け-Seed Accelerator Ranking Project 2017-

 addlight journal 編集部

こんにちは。弊社株式会社アドライトが動向をウォッチしているAccelerator Ranking Projectにて、最新の2017年版が発表されました。注目すべきは、格付けにおいて新たにPlatinum Plusというグレードが設けられ、Angel PadとY Combinatorが従来のPlatinumからPlatinum Plusへと格上げされている点です。今回の記事ではそのAccelerator Ranking Project2017の内容をお伝えしていきたいと思います。

Accelerator Ranking Projectとは

Accelerator Ranking Projectの目的に関しては、公式サイト上において以下の様に紹介されています。

“The goal of the Seed Accelerator Rankings Project (SARP), now in its fifth year, is to encourage a larger conversation and research about the seed accelerator phenomenon, its effects, and its prospects for the future. The last five years have seen the emergence of hundreds of groups titling themselves ‘accelerator.’ But not all such programs meet the definition of accelerator, and even for those that do, there are often significant differences in program structure and goals. For an entrepreneur considering an accelerator program, finding data regarding the performance of programs is difficult, and there is much confusion and debate regarding how ‘performance’ should be measured for an accelerator.” – Accelerator Ranking Project – About page

「今年で5年目になるSeed Accelerator Programの目的は、シード・アクセラレータ―に関わる現象とその効果と、その将来性についてのより深いリサーチを手助けすることにあります。ここ5年間で、何百もの「アクセラレーター」を冠するチームが登場しました。しかし、そのうち全てのチームがアクセラレーターとしての定義を満たしているわけではありません。さらに、たとえその定義を満たしていたとしても、プログラムの構成や目的にはとても大きな違いがみられます。アクセラレーション・プログラムへの参加を検討している起業家にとって、プログラムのパフォーマンスに関するデータを見つけ出すことはとても難しいことです。また、その「パフォーマンス」をどのように測定するのかということに点も評価軸が曖昧であり議論の余地があるのです。」

Accelerator Ranking Projectが登場した背景には、このように近年になってアクセラレーターを冠するプログラムが急速に増え、起業家にとってどのプログラムが最適かということを検討することが難しくなっているという問題があるようです。

“The goal of our project is to provide greater transparency regarding the relative performance of programs along multiple dimensions that may be of importance to entrepreneurs. Many of the metrics in question, such as fundraising and valuations, are metrics accelerators and startups are reluctant to publicize out of concern for negative competitive effects should they become widely known to investors and competitors. (As an independent, non-partisan research entity run by academics, we collect this sensitive data in confidence, distill it down, and provide information on the relative success of the programs and of the phenomenon as a whole – without revealing individual deal details. Our rankings are meant to provide guidance for entrepreneurs who are considering going through an accelerator, and who are wondering how they differ on performance across various categories.)”

「本プロジェクトの目的は、起業家にとって重要だと思われる複数の評価軸に沿って、アクセラレーション・プログラムの相対的なパフォーマンスを可視化することにあります。投資家や競争相手に広く知られるようになったアクセラレーターやスタートアップの場合、資金調達額や企業価値といった評価軸の多くは、彼らが競争上のネガティブな影響を懸念して公表したがらないものです。(学術的であり、独立した中立的リサーチ機関として、私たちはこれらの重要なデータを内密に集め、それらを分類し、各アクセラレーション・プログラムの相対的な成功度や全体像を提供します。ただし、各取引の詳細まで明かすといったようなことはしません。私たちの作成するランキングは、アクセラレーション・プログラムを経験しようかと考えている企業家や、様々な分野において彼らがどう異なるのかといったことに悩んでいる企業家にとって指南書となるものを提供することを意図しています。)」

アクセラレーション・プログラムに関係する重要なデータが公表されていないために、起業家にとってはそれらの比較検討が難しくなっているという状況を受け、独立した第三機関としてその分析を行い、有益なデータを供給することというのが本ランキング作成の目的であるようですね。

Accelerator Ranking Projectの評価方法とは

まず、ランキングに含めるアクセラレーターの条件としてこちらに以下の項目が挙げられています。

  1. “Meet the definition of accelerator: a fixed term, cohort-based program with a mentorship and education component that culminates in a public pitch event, or demo day.”(アクセラレーターとしての以下の定義を満たすこと;固定された期間で行われていること。公で行われるピッチイベントまたはデモデイによって終了するスクーリングやメンタングを伴った集団ベースのプログラムであること)
  2. “Have graduated at least one cohort and have at least 10 alumni.”(少なくとも1期生を既に送り出していて、10チーム以上の卒業チームがあること)
  3. “Based in U.S.”(アメリカ国内に存在すること。)

アクセラレーターとインキュベーターについてその定義の混乱が生じていることから、条件 1 はとりわけ重要であると考えられているようです。なお、この集団ベースであり、短い限られた期間においてプログラムが完結するという構造が、アクセラレーターの優れた点であるとも考えられています。というのも、インキュベーターのように長い期間スタートアップを現実の問題から隔絶してしまうと、失敗に終わる運命にあるビジネスも無駄に延命されることになってしまいます。アクセラレーターはこれとは対照的に、早い段階でスタートアップを現実に直面させることで、失敗に終わるか、適応して乗り越えるか試すことができます(プログラム最後のピッチイベントやデモデイはあたかもデッドラインであるかのように機能するようです)。これこそがアクセラレーターの長所であると考えられているのです。

そして、Accelerator Ranking Projectが重視する評価軸には以下のものがあります

  1. 企業価値(valuation):スタートアップが資金調達ラウンドをした際の企業価値。プログラム後の1年後・2年後・3年後のシード・アクセラレータのポートフォリオ全体の企業価値の平均値・中央値。全体の平均をとったり、priced roundのみをカウント(convertible noteなどはゼロとしてカウント)したりするなどいくつかの方法を組み合わせてして算出している(計算方法がやや複雑そうです)。
  2. イグジット(qualified exit):5M USD以上のIPOや被買収。5M USDという閾値は、起業家としての寿命に関わってくるであろう金額の合計を表しているそうです。なお、この調査対象のスタートアップ全体の2.1%がこの定義のイグジットに成功しているとのこと。
  3. 資金調達(qualified fundraising):プログラム卒業後1年以内の200K USD以上の資金調達。この定義の資金調達に成功したスタートアップの数(割合)と調達金額(平均値・中央値)の両面から判定している。
  4. 事業継続(survival):プログラム後の1年後・2年後・3年後にスタートアップがビジネスを継続している割合(この指標のウェイトは低めとのこと)。
  5. ファウンダー満足度(founder satisfaction):参加したスタートアップのファウンダーに、また参加したいか・友人に参加を進めるかという観点での満足度調査を実施。なお、「10段階のうちどのレベルでその製品・サービスを推薦するか」というアンケート項目で製品・サービスに対する顧客の満足度を測定するNPS(Net Promoter Score)という一般的な調査方法がここでは用いられています。
  6. 卒業生ネットワーク(alumni network):卒業したスタートアップの数。参加チームの今後のビジネス展開のための重要なリソースであると考えられています。

これらの評価軸に基づいた調査は、各アクセラレーション・プログラムの卒業生を対象として行われ、その回答率は90%を超えたようです。さらにVCやエンジェル投資家、アクセラレーション・プログラムのディレクターといった面々にもインタビューを実施し、それらのデータは2016年12月31日までに集計されたそうです。

ランキング

それでは、上記の評価軸に基づいた最新の格付けを見ていきたいと思います。

Platinum Plus

  • AngelPad

Googleで国際製品マネージャーを務めていた Thomas Korte氏が立ち上げたアクセラレーターで、これまでに130以上の企業と300人以上の卒業生を輩出してきたAngelPadがPlatinum Plusの格付けを得ています。投資総額は800M USDを超え、やはりポートフォリオ全体での企業価値が高いこと、資金調達面で成功を収めていることが、最上位の格付けを得た要因であるようです。こちらの記事でも取り上げられているように、度々Y Combinatorと比較されることの多いAngelPadですが、規模を拡大せずアットホームな雰囲気を保ったまま、3ヶ月の集中プログラムでスタートアップを育てていくという路線はこれからも貫いていくようですね。

  • Y Combinator

マウンテンビューに位置するY Combinatorは言わずと知れた米国の最大規模のアクセラレーターで、毎回100チームほどが参加するバッチを年に2回開催しています。2005年の設立以来1500近いチームを輩出してきており、またポートフォリオ全体での投資額は80B USDにのぼります。最近では社会性の強いテーマを持つチームを募集するなど、テーマとなる事業領域も広げているY Combinatorですが、やはりファウンダーの満足度は高いようです。また、2016年5月には卒業チームであるCruise AutomationがGMに1B USD以上の金額で買収されたというニュースもあり、イグジットの面でも高い評価を受けていると言えます。ちなみに、カンパニーリストはこちらからご確認いただけます。

Platinum

  • The Alchemist Accelerator

The Alchemist Acceleratorは、BtoB領域のチームに限定し、17チームのみに厳選した6か月のプログラムを提供しているアクセラレーターになります。こうした少数精鋭のスタイルで、デモデイには参加する投資家と企業数のレシオが20:1になるなど、資金調達にも非常に優良な環境を築いているようです。

  • Amplify.LA 

Amplify.LAは、L.A.に位置するアクセラレーターで、技術分野に特化しています。各チームに合わせたテーラー・メイドでのプログラムを組んでいるようです。

  • Chicago New Venture Challenge 

シカゴ大学のビジネススクール、ブースによって1996年から開かれているアクセラレーション・プログラムがChicago New Venture Challenge。大学機関の主催という特徴を活かして、クラスルーム・セッションを取り入れた1年スパンでのプログラムを提供しています。過去の卒業チームには、ebayに800M USDで買収され、Paypalグループのビ一員となったオンラインペイメントサースのbraintreeなどがあります。

  • Mucker Lab

L.A.に位置し、ウェブ上でのソフト開発、またはオンラインサービス、メディアに限定したアクセラレーション・プログラムを提供しているのがMuckler Labというチーム。内容としては、メンター参加型でのビジネス・スケールアップを図っていく点に特色があるようです。また、期間は1年、参加チームは10チーム以下と、こちらも少数精鋭のプログラムになっています。

  • StartX

StartXは、スタンフォードの学生や卒業生、教授陣を中心にしてアクセラレーション・プログラムを提供しているチームになります。エクイティは取得せず、参加費もかからないところに特徴があります。また、StartXとスタンフォード大学が共同で設立したThe Stanford-StartX Fund (SSF)という基金も利用でき、1チームあたり平均で510K USDの投資を受けているようです。このようにスタンフォード大学と緊密に連携しているStartXは、投資家・パートナーに対する強みとしてスタンフォード・ブランドをフルに活用しているチームです。

  • Techstars

2006年設立の老舗アクセラレーターのTechstarsは、これまでに1,024チームを輩出し、3.7B USDの資金調達を成功に導いてきました。従来は専業アクセラレーターでしたが、近年ではコーポレート・アクセラレーション・プログラムを支援する業務も手掛け、プログラム運営に必要なノウハウをパッケージ化して大企業向けに売り込むビジネスモデルを展開しているようです。2014年から始まった米ディズニー社のアクセラレーション・プログラムもTechstarsが仕掛けたものとして有名です。

Gold

Goldからは数チームをピックアップしてご紹介します

  • Hax

Haxは、いわゆる特化型アクセラレーターであり、マニュファクチュアリングに特化したプログラムを提供しています。世界的な製造ハブである深圳にも拠点を構えているようです。

  • Health Box 

2011年からシカゴで活動しているHealth Box。こちらも特化型アクセラレーターの一角であり、ヘルスケア領域に限定してプログラムを運営しているチームになります。

  • R/GA Ventures 

米国の大手広告代理店R/GAによって開始されたアクセラレーション・プログラムがR/GA Venturesあり、R/GAの持つリソースを最大限活用して、コーポレート・ブランドの確立まで支援を行っている点に特色があります。

まとめ

2016年度版のランキングから、若干の格付けの変動はありましたが、Platinum PlusランクはAngelPadとY Combinatorというシリコンバレーの双璧とも言える2チームによって占められました。とりわけY Combinatorは様々な領域で活動するチームの募集を行っており、近年はその領域をさらに拡大させています。こうしたフル・ガバレッジ型でのビジネスモデルが成り立つのは、やはりリーダー・ポジションにあるチームならではであり、Platinum以下のチームからは特化型のアクセラレーターが増えています。近年アクセラレーター同士での競争、淘汰はますます熾烈になっていて、今回ご紹介した中でも、エンタープライズ特化のThe Alchemistや、マニファクチュアリング特化のHax、ヘルスケア特化のHealth Boxなど、単一セグメントへのアプローチを行っているチームが上手く差別化に成功し上位に入ってきている印象ですね。さらに、リソースの活用において独自性を出しているチームも多く、Chicago New Venture ChallengeやStartXは、アカデミックな環境を活用したプログラム提供を行っており、R/GAは自社のリソースを活用したブランディング支援という戦略で差別化を図っていました。

Techstarsはそのアクセラレーターとしての経験を活かして企業内アクセラレーション・プログラムの展開を支援するビジネスを行っていますが、今後はそのようにして誕生したコーポレート・アクセラレーターがどのように自社リソースを活用して差別化を図っているのかということにも注目していきたいと思います。