【開催報告】「インドにおけるFinTechトレンド」(Trend Note Camp #6)

Trend Note Campとは

株式会社アドライトが主催するイベントシリーズ「Trend Note Camp」では、世界で活躍する起業家や投資家の方々に、アメリカやアジアの最先端ベンチャーのトレンド・ビジネスモデルなどをプレゼンテーションいただき、その後、参加者の皆さまを交えてパネルディスカッションを行っています。

第6回目となる今回のテーマは、「インドにおけるFinTechトレンド」。目覚ましい経済発展を続けるインドのFinTech領域におけるスタートアップの最新動向を、インドで実際に投資活動を行っている小池藍氏をお招きしてご紹介いただきました。インドの各種制度やインフラ事情は日本でまだ認知されていない情報も多く、非常に複雑なイメージを持たれがちですが、小池氏にはこのような事情を加味した上でお話いただきました。

アジアやインドを中心に活動することになったきっかけ

小池氏の講演では、まずインドにおいて投資活動を行うことになった経緯をお話されました。小池氏は、高校時代にご家族で韓国に駐在していた時にアジアに魅力を感じられたそうです。その後大学時代には、スタートアップ企業でインターンシップを経験しスタートアップの面白さを実感。新卒後に務めた企業では社内起業を経験し、その後プライベートエクイティファンドにてバイアウト投資と投資先のマネジメントに従事、今までの経験と好きなことの点をつなげたいと思い、現在のポジションでアジアおよびインドのスタートアップへ投資をするようになった、とお話されていました。

アジアやインドのスタートアップ企業を中心に投資活動を行っている小池藍氏

競争が激しくスピード感が求められるインドのスタートアップ業界

スタートアップ企業の台頭で注目されるインドの都市は、ムンバイ、ニューデリー、バンガロールの3都市。ムンバイは古くから金融業が発達している地域でFinTech関連のスタートアップも増加傾向。バンガロールはインドのシリコンバレーと呼ばれており多くのグローバルITカンパニーがオフィスや開発拠点を構えています。また、都市への人口集中があまり進んでいなかったインドで、この3都市の人口は直近5年間では2倍近くに膨れ上がったそうです。

インドのインターネット利用人口に関しては、ほとんどの人がPCではなくスマートフォンからインターネットにアクセスしており、約97%ものシェアがAndroidと言われており、iOSユーザーは少数派とのこと。また、Android端末の中でも格安スマホの普及が顕著とのこと。アプリやブラウザベースのウェブサービスは、低スペック格安スマホやスローなネットワークでも問題なく動作するようにする必要があるため、軽くてわかりやすいUI/UXが求められるといいます。エンジニアリングのレベルは一般的に高いようです。

次にFinTechスタートアップに関して、2015年にFinTech新規起業数がそれまでの年に比べ激増、それに合わせて同領域の投資件数や金額もピークを迎えたそうです。2016年にはこの傾向は少々落ち着いたものの依然増加傾向にあります。なお、未公開企業の資金調達は金額ベースで日本の約6倍の規模だそうです。

投資傾向については、インド系スタートアップの投資で求められることはスピード感。そのため、資金調達の労力をあまりかけたがらず、全ての資金調達のステージに参画してくれる投資スタイルが好まれるそうです。なお、最新動向としては、シードステージで米国YCの参画や、レイトステージで中国アリババの参画をハイライトとしてご紹介いただきました。

それ以外にも、スタートアップが各ステージの生き残る割合が低く競争が熾烈であることや一般的なエグジットは株式市場が未発達であることからM&Aが主流であること、また、昨今ではモバイルペイメントを手掛けるスタートアップが台頭していることなど、現地での投資活動を通じて得られた知見や見解をもとにした貴重なお話を聞かせていただきました。

スタートアップ業界に大きく影響を与えた政策改革

次に、政府の政策面などからFinTech領域のスタートアップ環境について分析した内容をお話いただきました。

スタートアップに関連するような政策面での動きは主に3つあったといいます。

1つ目は、2016年11月にインド政府によって施行された高額紙幣の廃止。モディ首相が突如発表した通貨改革は、ブラックマネーを一掃する目的、また、現金以外の決済方法を増やしたい目的で実行されたと報道されているそうです。これによる混乱も少なからず発生したようですが、モバイルペイメントへの転換を加速させる要因になった側面もあり、スタートアップにとっては追い風をなりました。

2つ目は、生体認証制度の整備。日本のマイナンバーに似たシステムですが、インドでは個人IDに加えて指紋や光彩といった生体データも付与されました。生体データを読み取る設備があれば本人確認を即時に完了することが可能になりました。政策ながら、民間企業のIT最大手Infosysの創業者がこの制度改革のリーダーとしてプロジェクトを率いているのが特徴とのこと。なお、照合記録や取引記録は政府が蓄積、管理しており、信用情報として取り扱われるそうです。第5回のTrend Note Campのお話で、中国でアリババがこのようなアーキテクチャーを構築して信用管理会社としての役割を担い始めているとのことでしたが、インドでは政府レベルで行っていることになります。

3つ目には、消費とサービス税が改正見込みで、これまで州ごとに異なっていた基準が連邦政府のもとに統一されるようになり、これによってスタートアップを含む多くの企業にとって、会計が明確になり手間が省けるなどコスト削減に繋ることが見込まれるとのことです。

台頭するモバイルペイメントサービスの注目株

今伸びてきているモバイルペイメントから、代表的なサービスとしてPaytmについて紹介していただきました。

Paytmは、中国のアリペイと似たサービスを展開しています。ユーザーは、クレジットカードまたは銀行口座と連携させたアカウントを所持し、そこからチャージ。そして、店頭での支払いはQRコードの読み取り、または、電話番号と金額の手動入力によって完了します。ECでの決済手段、公共料金の支払い、PtoP送金も可能で、規制の緩いインドではスタートアップがあらゆる領域に積極的に進出していっているといいます。

また、UIやデザインに対するこだわりも強くサービスが多く、優秀なエンジニアが心血を注いでUI/UXの作り込みを行うといいます。これは、前述した通り、インドで多く出回っている格安スマホの低スペックでもストレスなく利用できる必要があるためで、エンジニアリングのレベルは非常に高いと言えそうです。Paytmもそのような事業者の1つのようです。

FinTech領域の発展に向けて

最後に、小池氏ご自身の投資実績をケーススタディとしていくつかご紹介いただきました。

プラットフォーム事業者であっても将来的にFinTech領域に事業拡大する見込みのある企業であれば積極的に投資を行っているそうです。細かい投資先などについては、割愛させていただきますが、講演の最後には、インドのスタートアップが持つアドバンテージについて教えていただきました。公用語として英語が一番普及していること、また業種に関係なくマネージメント能力に長けた人材が多いこと、激しい国内競争で鍛えられ、優秀な経営者が生まれやすい環境があること。また、今後も人口ボーナスの恩恵もまだまだ受けられると予測されていることなどが大きいそうです。

実際にインドやアジア全般の市場で投資活動を行われている投資家としての知見、経験、見解を交えた小池氏の講演は興味深い内容であり、ご参加いただいた皆さまが小池氏のお話に聞き入っていて積極的にメモを取る姿が印象的でした。

注目度の高いインド市場

インド市場に対する興味を持っている方が予想以上に多いことに小池氏は驚いているようでしたが、今回は本当に色々な質問が飛び交い、予定終了時間をオーバーして熱いディスカッションが繰り広げられました。

インドで普及している格安スマホの低スペック制約はブラウザベースのサービス展開を促しているのか、都市部の銀行口座の所持率はどのくらいなのか、Paytm以外のモバイルペイメントサービスの動向はどうなのか、仮想通過に対する市場の反応について、AIを活用した技術開発に起業家やエンジニアは積極的なのか、サービスの横展開やスケールはどのような基準で行われているか、投資家として投資先の選定で重視している判断軸は何になるのか、など幅広い質問が小池氏に投げかけられました。

講演の後には、登壇者と参加者を交えた懇親会も行われ、今回も盛況のうちに幕を閉じました。

インド系スタートアップがグローバルに活躍するプレイヤーに

巨大な人口を抱えるインド市場の存在感は日に日に強くなっていることを感じます。今回は、そんなインドにおけるFinTech関連スタートアップの事業展開について知る大変貴重な機会となりました。インド独自の制度やインフラ事情を加味した小池氏の見解は非常に示唆に富んでいて、投資家としての目線から的確かつ実践的なお話をいただきました。お話の最後に指摘されていたように、インド発の企業が世界中で今後ますます存在感を増すだろうとのことで、VC関連の投資に関しても、インドが非常に重要な市場になっていくことと思います。

なお、弊社では最新トレンドや海外スタートアップに関する個別のリサーチやレポート提供を行っております。

ご興味ある方はこちらからお問い合わせくださいませ。

Written by O.