ロンドン、スタートアップエコシステム発展の陰に「人との繋がり」

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

世界屈指の金融都市として知られるロンドンに、昨年MUFGが欧州初となるFinTechの研究拠点を置いたニュースが話題となった。オープンイノベーションにも積極的で、もはや大手企業にとって「当たり前」の世界。スタートアップにも寛容で、様々な制度が整っているという。

Old Streetを中心に広がるスタートアップエコシステム

2010年11月、米国・シリコンバレーのライバルになるべく、ディーヴィッド・キャメロン元首相によりロンドンのテックシティ構想「East London Tech City」が発表された。これにより、比較的家賃の安いOld Streetに多くのスタートアップやインキュベーション施設が集積し、ロンドンのエコシステムの中心となっている。

Googleが2012年に設立したインキュベーションスペース「Campus London」も同エリアに位置。地下一階の個人用フロアは満席で熱気にあふれており、ロンドンのスタートアップの過熱ぶりを肌で感じることができる。

Campus London自身ではスタートアップへの投資をしない代わりに、入居している「Seedcamp」というアクセラレーターが行っている。

SeedcampでInvestment Partnerを務めるTom Wilson氏によると、Seedcampの設立は2007年。当初はいわゆるシードアクセラレーターだったのが、ファンド金額も大きくなり、現在はシードファンドとして多数のシードスタートアップに投資や必要なネットワークを提供している。投資対象国は英国を起点とし、ヨーロッパやアメリカと広げている。FinTech以外で注目している領域はLegaltechやRPA等のオートメーションとのこと。

FUZED ファウンダー・小野力氏

FUZED ファウンダー・小野力氏

ロンドンをベースにしたスタートアップ「FUZED」のファウンダーの一人が、日本人の小野力氏(以下、小野氏)。16歳で渡英し、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン (以下、UCL)に入学。UCLでは心理学を専攻し、大学のイギリス人の友人らと3人で起業することに。きっかけは、その友人らが来日した際レストランを探したが、集約した情報がなかったことによる。「情報検索に頼らない位置情報ベースでの世界感を実現したい」と思った彼らは、ホテルやレストラン情報をAPI化してグローバルで地点ベースで提供し、送客や利用によって課金するモデルを考案。

「ロンドンで起業すると色々なサポートがオプションでついてくる。アクセラレーションプログラムも様々。起業家もコミュニティベースで繋がりができている」と小野氏。UCLには起業家ビザ「Tier1(Graduate entrepreneur Visa)」の制度があり、一度は帰国した小野氏もこちらを利用し、卒業後ロンドンに戻ったという。

同社は、Old Streetにある複数企業のアクセラレータ拠点「IDEAlondon」にある、政府がバックアップするインキュベーション組織「Capital Enterprise」のプログラムに参加しサポートを受けている。その傍ら、UCL運営による大学インキュベーション施設「Base King’s Cross」にも入居している。ここにはUCL出身の起業関係者が集まり、2014年にGoogleに買収された「DeepMind」を筆頭に、AIや機械学習関連のスタートアップを数多く輩出する。大学発のインキュベーション施設は、他にもインペリアルカレッジ等が積極的に展開している。

人と人との繋がりを大切にするロンドン

金融都市・ロンドンでもトップクラスに位置するFintechインキュベーションスペース「Level39」のファウンダーの一人で、現在は「token.io」というブロックチェーンを活用した金融機関向けサービスのスタートアップに籍を置くAdizah Tejani氏は、「ロンドンでFintechが世界に先だって立ち上がり、現在も業界をリードしていることは必然だ」と語る。

「ロンドンは小さなエリアにスタートアップが集積していて、人と人との繋がりを大切にしている」というAdizah氏にイギリス発の有名なスタートアップを尋ねると、PtoPで国際送金サービスを展開する「Transferwise」を挙げてくれた。同社は100億円以上を調達し、日本ではFintechのコミュニティ&スペース「FINOLAB」のメンバーとして大手町に拠点を構えている。

オープンイノベーションは大手企業にとって当然の取り組み

イギリスでは、大企業とスタートアップによるオープンイノベーションの動きが盛んだ。イギリスの政府機関「DIT Venture Capital Unit」にてスタートアップ支援を行うRoy Williamson氏によると、Barclays等の金融機関によるアクセラレーションプログラムやインキュベーションスペースはもちろんのこと、ジャガーやBMW等Fintech以外の領域でも進んできているという。

欧州の様々な大手企業とのオープンイノベーションの取り組みを支援するLmark Programme Manage・Ben Thomas氏曰く、「オープンイノベーションは大手企業にとって当然の取り組み。何か良いことや特別なことをしていると思っているようでは時代遅れだし、成功しない。オープンイノベーションを前提にした様々な施策を工夫して継続していく必要がある」。ロンドンに拠点を構える同社はスポーツ領域や自治体等で展開し、引き合いも他業種に広がっている。

前述のインキュベーション施設、Capital Enterpriseの代表を務めるJohn Spindler氏は、投資機能を持つシードファンド・aiseedの代表の顔も持ち、献身的にロンドンのエコシステムに貢献する第一人者だ。「大手企業や大学をIDEAlondonに一緒に入居させることによって、Face to Faceでのオープンイノベーションが可能になる」と語ってくれた。

IDEAlondonにはCISCOやEDF Energy等民間の大手企業のイノベーション部門の他、UCLのインキュベーション部門も入居している。毎日のように企業や大学を巻き込んだスタートアップイベントが開催される他、インキュベーション組織とシードファンドの代表を兼務するJohn氏が常駐し、人と人を繋ぐ有機的な機能も有する。

取材を終えて

ロンドンでは、官民ともにオープンイノベーションやスタートアップのエコシステム形成に力を入れていることは明らかだが、至る所で聞く「人と人との繋がり」が後押ししていることは間違いなさそうだ。

<イベント告知>


2018年3月27日(火)、記事にも登場したFINOLAB(東京・大手町)にて「Trend Note Camp#12:ベンチャー投資額欧州1位の英国、Brexit後は?」を開催します。Brexitを1年後に控える英国は、当初の下馬評を覆し、ヨーロッパきっての資金調達先としての立場が強化されているようです。本記事以上に英国のスタートアップエコシステムについて詳しい内容をお伝えする予定です。
※イベントは英語にて進行します。

ゲスト:過去CVC業界にて16年間活動し、英国国際通商省のベンチャーキャピタル部にて世界中の企業に英国のスタートアップ投資のアドバイスを行っているPaul Morris氏と、イギリスのベンチャーキャピタル団体・British Venture Capital AssociationからGurpreet Manku氏です。

【講演内容】(当日一部変更になる可能性有り)
・英国のスタートアップ最新事情
・英国スタートアップと日本企業・VC・投資家との協業事例
・VCUの機能紹介
・Brexitが与える影響、今後の見通し
・英国におけるベンチャーキャピタルの成長
・BVCAの機能紹介
・パネルディスカッション