財閥とスタートアップのコラボで次世代プロダクト創出─Lotte Accelarator

 addlight journal 編集部

江南区に拠点を構えるLotte Acceleratorは、その名のとおり韓国の財閥の一角を占めるLotteがおこなうコーポレートアクセラレーションだ。韓国のY Combinatorを目指して作られたと聞き、アクセラレーティングチームのマネージャーを務めるLee June氏に施設を案内してもらった。

韓国のY Combinatorを目指す

Lotte Acceleratorは今から3年前にできたが、こうしたコーポレーションアクセラレーションを運営しているのはLotte、Hyundai、Hanwha等一部の大手財閥に限られているという。CVC運営企業はそれなりに存在するが、コーポレートアクセラレーターとは概念が完全に違うため、コーポレートアクセラレーターは運営することのできる企業が限られている。

Lotte Accelerator アクセラレーティングチーム マネージャー・Lee June氏

Lotte Accelerator アクセラレーティングチーム マネージャー・Lee June氏

Lee氏はLotteグループがコーポレートアクセラレーターを設立するにあたって2つの意義があったと話す。

「1つはCSR。中小スタートアップを支援していくことで社会的責任を果たすのが目的です。もう1つがオープンイノベーション。新たなビジスをするのに遅れがちになってしまう部分をスタートアップを用いることで解決していくことに狙いがあります」

Lotte発のカーブアウト

Lee氏にLotte Accelerator出身のスタートアップチームをいくつか紹介してもらった。

まず、相乗りサービスを提供する「BUXI」というスタートアップは、2つの目的地間をあらかじめ予約し、複数人でライドシェアするというサービスを提供する。事前予約システムを採用しているが、平昌オリンピックの時期に合わせてUberのようなリアルタイムサービスの提供も試験的に開始するという(取材した2018年2月2日時点の情報)。

昨夏、サムスンネクストから投資を受けた「Mobidoo」もLotte Accelerator出身のスタートアップ。非可聴域の音波を使うことで、BluetoothやNFCなど従来ハードウェアが必要だった通信から、ソフトウェアのみでの決済が可能になるという製品を公開した。他にも優れたチームがいくつもあり、Lotte Acceleratorのレベルの高さを伺える。

1stバッチとなった2016年春のL-Campでは16チームが参加し、現在までに42チームが参加してきたという。デモデイはオープンに行われ、分野は多岐に渡っているがテック系のチームが割合としては多い。Lotte AcceleratorではL-Camp含め全部で4つのプログラムを提供している。6ヶ月間のアクセラレータープログラムであるL-Camp、マイクロVCと呼ばれる新興VCとのマッチアップを図るL-Office、そして自社でのベンチャー投資と社内ベンチャー制度だ。

Lee氏によるとビジネス・税務コンサルやフィナンシャルアドバイザリーサービス、AWSやIBMのサービスのようなITインフラの充実に加え、Lotteグループとのコネクションというのはスタートアップにとって大きなインセンティブになっているという。

社内ベンチャー制度は、チームビルディングなどの関係からピッチを行ったうち年に1チームが選抜されるという。こうした社内ベンチャー制度により優秀な社員が抜けてしまうことの脅威についてLee氏は次のように考えているという。

「優秀な社員の喪失は確かにリスクです。ですが、新たな製品やアイデアの出現もまたリスクです。それに対応するということの間にある種のトレードオフのような関係があるのも確か。そのためできるだけモチベーションを高めることでどうにか対応している状況です」

Lee氏から説明を受けた後、L-CAMPに参加しているスタートアップ2チームをメンタリングする機会をいただいた。

LINKFLOWの事例

「LINKFLOW」は首に装着する360度ウェアラブルカメラを開発している。CEOのKim氏によれば、首はあらゆることを想定した場合に都合がいいのだという。頭に装着するタイプのカメラと比較した場合、首はブレる体勢が少なく、視線が一人称に近くなり没入感が増す。そして腕時計タイプと比較すると口に近く、マイクを想定した場合にも完全なハンズフリーを実現することができる。こうした理由から首にフォーカスすることになったとのこと。

LINKFLOW CEO:Kim氏

LINKFLOW CEO:Kim氏

LINKFLOWは今から2年前にサムスンからスピンアウトしたスタートアップにつき、サムスン時代の大量生産という経験が製品化に生きてくるのだという。

2年後の製品化を目標としており、スマホやタブレットといったデバイスを必要としない時代になった時に備え、従来のデバイスに取って代わる存在を目指している。そうした意味でもやはり会話がしやすい首装着タイプのデバイスは都合がいいというわけだ。

KITTEN PLANETの事例

EdTechスタートアップの「KITTEN PLANET」は子供たちが抱える課題を解決を目指している。今回は「Blush Monster」という歯ブラシデバイスを紹介してくれた。歯磨きは日本だけでなく、韓国やその他の国の子供たちにとっても教育が難しい分野という。CEOのChoi氏によれば、子供たちにとってこうした問題は”何かと同時に行うか”がポイントと指摘する。

KITTEN PLANETは歯磨き教育に対してAR技術とスマホアプリを組み合わせてアプローチする。スマホの優れている点は、インカメラを使うことによって鏡代わりに利用することができるところ。

アプリを起動し、インカメラに自分の顔を映すとアプリが口の部分を認識する。そしてデバイスとしての役割を兼ねている電動歯ブラシを口の中に入れると、ARでどこを磨けばいいのか、磨き方は正しいのかなどゲーム感覚で歯を磨くことができる。歯ブラシデバイスにはモーションモニターが内蔵されており、動きや磨いている箇所などを正確にデータ化することができるという。

Choi氏は「こうした歯磨きデータ自体、手に入れようとしても手に入るものではないので興味深い」と話す。

KITTEN PLANET CEOのChoi氏自ら実演

KITTEN PLANET CEOのChoi氏自ら実演

日本をはじめとした海外での展開について聞くと、日本ではKickstarterのようなクラウドファンディングサイトが発達しているため、それを用いて活動していくことになるのではないかということだ。また今後の展望については、教育という分野で考えており、別の課題についてもEdTechスタートアップとして解決策を提示していきたいとのこと。今年中はBlush Monsterに集中し、来年にはクラウドファンディングをしていきたいと締めくくった。

大手財閥とスタートアップの協業のメリット

メンタリングを担当したLINKFLOWとKITTEN PLANETにはいくつかの共通点がある。まず1つ目はどちらもCES 2018に参加していたということだ。韓国からは100チームものスタートアップが参加しており、政府やサムスンといった大手企業から支援を受けているチームもあるという。

そしてもう1つはどちらもサムスンが深く関わっているということだ。LINKFLOWは前述の通りサムスンからスピンアウトし、KITTEN PLANETはC-LABというサムスン電子のインキュベートプログラムに参加していた。

これに関してLotte AccleratorのLee氏とKITTEN PLANETのChoi氏は、リテールのLotte、生産のサムスンといったある種の棲み分けがなされているようにも感じると話す。大手財閥が自分の得意分野にスタートアップを引き込むという構造はスタートアップにとっても大手企業とのマッチングを増やしバリューを高めるチャンスが多くなることを意味する。

大企業とスタートアップがそれぞれ対極に位置するのではなく、お互いが歩み寄って価値を創造していく姿を垣間見ることができた。