大手企業のオープンイノベーション支援等行う株式会社アドライトは、三菱地所株式会社様共催のもと、Mirai Salon「日本流オープンイノベーションによる人工知能の実用化が切り開く未来」をEGG JAPAN(東京・丸の内)にて行いました。Mirai Salonは、有識者の方をお招きし、社外リソースを活用したオープンイノベーションや支援事例をテーマに開催しているイベントシリーズ。今回で第5回目となります。
会場となったEGG JAPANは、「新しい事業の創造や成長を支援する」をコンセプトに、「ビジネス開発オフィス」の運営、「東京21cクラブ」の会員制ビジネスの二軸を柱とし、三菱地所様が2007年5月にオープン。現在600名の会員を有し、もっとも多いのが起業家4割、続いて弁護士等専門業27%、ベンチャーキャピタル・金融関係と、最近増加したという企業の新規事業担当がそれぞれ10%強等で構成されています。
人工知能を扱う企業として社会に貢献することも視野に
最初に登壇したのは、株式会社グラフの代表取締役社長・原田博植氏(以下、原田氏)。「テイラーメイドのマシン・ラーニング」を掲げ、機械学習のライブラリや企業が保有する大規模なサービスやデータベースを活用し、事業課題の解決や利益創出を生業としています。設立後1年未満ながら、金融から小売、メディアに至る幅広い業種のクライアントを抱えています。
原田氏は、昨年可決された「官民データ活用推進基本法案」に言及。
“デジタル・ネットワーク技術の発展により、人工知能による創作物やセンサー等から集積されるデータベースなど、新たな情報材が次々と生み出され、新たな付加価値の源泉が「データ」にシフトするなか、データの利活用に向けて、知的財産制度での対応が重要となってきています。”
(引用:経済産業省「第四次産業革命に向けた横断的精度研究会報告書をとりまとめました」)
原田氏が委員として招致された経済産業省の研究報告会報告書からもうかがえるように、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字で構成)のプラットフォームが日本の政府以上に国民の個人情報を保有し、アプリケーションの開発や販売、決済集中で支配的地位になりつつあることを危惧する事態を受け、人工知能や越境データの法整備や個人情報保護の多面的な健全化に努める姿勢を見せました。
あらゆる印刷物から手書きまで高精度で読み込み!人間らしい働き方を促進
「ホワイトカラーの面倒な作業を人工知能に置き換え、人間は人間らしい仕事に注力できる環境を」と話すのは、Cinammon 共同創業者・CEO 平野未来氏(以下、平野氏)。同社の展開する「Flax Scanner」はアナログ、デジタルを問わず、ドキュメント内の情報を正確に抽出し、申請書からEメールまで必要な情報を抜き出して必要な箇所入力することで、業務効率や構造化を支援するというもの。
99.2%の精度で手書きの文字も読み込める「Flax Scanner Tegaki」も開発。決して上手とはいえない字でも読み込み可能といいます。100%の精度を求めるクライアントも一定数存在するため、人工知能で対応できなかった部分をカバーする人的リソースもセットで提供する等のラインナップも用意。
これらの技術を支えるのは、ベトナム・ハノイの人工知能ラボで育成された若き人工知能エンジニア集団。毎年ハノイ国家大学やハノイ工科大学でComputer Scienceを専攻した大学生や卒業生600名のうち、独自の試験でトップ10%を採択後、AIのトレーニングを有給で実施。こうした低い合格率や待遇面の充実、経営陣のコネクション等活かし、ブランディングを強化。いまではベトナムで人気の職種のひとつにまで成長しているそうです。
日本の人工知能関係のエンジニアはわずか累計400名程度といいます。「ベトナムは若年層の数が日本よりも多く、高等教育におけるコンピューターサイエンスの専攻割合も高い。ベトナムでの採用のインパクトは大きい」と話す平野氏。5年後には100人から150人近い人工知能エンジニアを抱えるアジア最大の人工知能ラボを目指していくとのこと。
アイデア創出から事業化実現までフォロー
ベンチャー企業2社の後、大企業によるオープンイノベーション事例として、パナソニック株式会社 アプライアンス社 事業開発センター Game Changer Catapultプランニングリード・鈴木講介氏(以下、鈴木氏)が登壇。
「最近のパナソニックはトップラインが不動のまま、構造改革によって営業利益を改善させてきた歴史と課題がある。消費者、商品、製造、流通プロセス等の事業環境が変化したいま、成長の種をどう作っていくか(鈴木氏)」――立ち上がったのは4名のメンバー。新しい価値や事業の立ち上げを至上目的とし、アプライアンス社が家電を中心に扱っていることから、未来の家電を生み出す企業内アクセラレーター部門として「Game Changer Catapult」を昨年発足。
重点領域は、家事、教育、メディア・エンターテインメント、フードソリューション、ヘルスケア。「家電というユーザの手の届くところにある物を通じてライフログをいただきながら、IoTや人工知能を組み合わせ、最終的にはハードに加えサービスまで提供を目指している(鈴木氏)」。
ライフログでは、五感のうち触感や味覚、嗅覚でのデジタル化を視野に入れているとのこと。
新規事業を進めるにあたり、運用方針や継続性にも一工夫。やわらかいアイデアもビジネスモデルへ磨き上げる等垣根を低くし、ユーザの声を直接集める場としてITや音楽、映画の祭典「SXSW」に出展。アイデアを考えた社員達を説明員として起用したことでとてもいい機会となったとか。加えて、アドライトの木村も海外のイノベーション事例を紹介するべく登壇した社内ミニピッチセッション「Cat7」等行い、社員の挑戦への意識改革も推し進めているといいます。
今後はオープンイノベーション等社外との協業を積極的に行っていきたいと鈴木氏。お互いやりたいことを明示しながら、そこからこじつけてでも始めるくらいの勢いと身軽さを求めているそうです。
人工知能は人間の仕事を奪うのではなく、働き方を変えるもの
インターネットの普及とモバイルの進化によって発展を遂げた人工知能を投資家はどう見ているのか。グローバルIoTテクノロジーベンチャーズ株式会社 代表取締役・安達俊久氏(以下、安達氏)が、人工知能におけるベンチャーキャピタル業界のトレンドや、これからの働き方について触れました。
同社は産業分野におけるIoTのコアテクノロジーの企業を世界中から発掘。日本の事業会社との橋渡しやオープンイノベーションを加速させ、ビジネスモデルのデジタル化の手伝いをしています。
スタートアップのかなり早い段階でM&Aが進むのが人工知能業界の特徴で、ベンチャーキャピタル業界の投資対象がレイターからアーリー・ステージに遷移。事業性の評価も人工知能で行っているといいます。同社も原石となるようなベンチャーへの投資を行い、なかでもイスラエルに着目。「人工知能やIoT、ヘルスケア関連のスタートアップ興隆の動きが活発で、投資も盛んに行われている」と安達氏。
「人工知能は仕事を奪うのではなく、働き方を変えるもの。仕事は探すのではなく、創るものへ(就活から創活へ)と進化していく。クリエイティビティを発揮してほしい」と鼓舞。
加えて、「起業の原点は社会の課題を見出すこと。直接見て聞いて、触れてワクワクするモチベーションを見つけてもらいたい。日本からグローバルに活躍する企業をどんどん支援していきたい」と、熱いメッセージをオーディエンスに投げかけました。
人工知能の実用化が切り開く未来
後半は「オープンイノベーションと人工知能の裏側」と題し、登壇者全員によるパネルディスカッションを実施(モデレーター:株式会社アドライト 代表取締役・木村忠昭)。オーディエンスからも闊達な質問が飛び交いました。
いまのオープンイノベーションの動きをどう捉えているか?という問いに対し、「日本の研究開発費のうち98%が社内で消費されているため、ほとんどがクローズド・イノベーション。KDDIとソラコムのような画期的な取り組みが契機となってM&Aの動きがより活発になることを期待したい」と安達氏。
そのうえで、「人工知能は非常に大きなきっかけとなる。今までのビジネスモデルが通用しなくなることが考えられ、経営トップが5、6年先を見据えた動きができるかどうかが重要。そのためには、オープンイノベーションの継続的取り組みができるような人事の仕組みも必要」と説きました。
継続的取り組みの観点から、大手企業の社員の自主性を上げるためにしていることを聞かれると、鈴木氏は「母集団をしっかり作るとアイデアが自発的に出やすくなる。パナソニックという企業風土自体にアイデアは潜在的にあると感じている」とコメント。よりいっそうのケアが必要なのは「社内の既存ビジネスとの競合性」。事業立ち上げ初期の段階では競合を意識せず、業績へのインパクトも限られているため内部での説明を意図的に避けている面もある。また、「ある部門に権限やリソースを一元化せず、社内に分散して存立させ、横のつながりを作っていくことが継続性のカギ」とのこと。
オープンイノベーションを進めるにあたり、スタートアップはどう見ているのか。クライアント側の期待との折り合いのつけ方について、原田氏は「同じような気持ちを先方とも共有しつつ、ある程度現実的な話を進めていく。予算や執行役員のもつミッション等をしっかり伺ったうえで、データ分析の成果を出したい部分を明確にする(上流からのハンズオン支援)」といった進め方をしているといいます。
一方、平野氏は「既存のITシステムをインプリメントに改善するのではなく、ビジネスオペレーションを変えることになるため、各社のオープンイノベーション推進室や経営企画室の方とお話しするようにしている」とのこと。
最後に、人工知能を活用して事業改善を進めていくにはどうしたらいいのか聞かれると、働き手へのうまみからマインド変換に至るまで持論が展開されました。
「最終的にはインハウスで行われて行かなければならない。給料以外のモチベーションを持たせることも重要(原田氏)」「日本人全体として働かなければならないという感覚に取りつかれているのではないか。マインドを変化させれば人工知能を活用する道筋も開ける(平野氏)」「人工知能を活用したアプリケーションの楽しさをどう伝えていけるかが鍵(鈴木氏)」。
安達氏が「生産性の改善や人件費削減面での活用マインドが根強いが、新たなバリューやビジネスモデルを創出する手段と捉えること」と締めくくり、盛況のなかイベントは終了。名刺交換も積極的に行われ、余韻を残し会場を後にしていました。
最後に
今後もMirai Salonでは、オープンイノベーションに関する様々なテーマでイベント開催を予定しています。関連トピックに関するイベント登壇やお問い合わせ等ございましたら、こちらよりお気軽にお声がけくださいませ。