【開催報告】日本流オープンイノベーションによる大企業と大学発ベンチャーの未来(Mirai Salon #4)

 addlight journal 編集部

株式会社アドライトが主催する、大企業や官公庁の事業責任者を対象にオープンイノベーションをテーマにしたイベントシリーズMirai Salonの第4回目「日本流オープンイノベーションによる大企業と大学発ベンチャーの未来」を、2017年6月8日(木)に、三菱地所株式会社様共催のもとEGG JAPAN(東京・丸の内)にて開催いたしました。今回のテーマは大学発ベンチャーに視点を置いたオープンイノベーション。大企業側も大学との連携には興味があるとみえ、今回も数多くの参加者の皆さまにお集まりいただきました。

イベント当日は、まず三菱地所株式会社者より、東京・丸の内が魅力的なビジネスセンターであり続けるために行われている、日本の中小ベンチャー企業に対してのビジネス開発支援や誘致活動等についてご説明。オフィススペースの運営や、年間250回以上のイベントを開催する会員組織「東京21cクラブ」の概要や取組み等についてご紹介頂きました。

次に、弊社代表の木村よりご挨拶とMirai Salonイベントシリーズについてのご紹介、および、弊社のベンチャー支援の実績や本イベントのテーマであるオープンイノベーションに対する取り組み、大企業とベンチャー企業を取りまく環境、オープンイノベーションの意義と有効性について、また、経産省が発表したイノベーション創造の現状に関する内容などをご紹介しました。今回で第四回目となる本イベントシリーズでは、過去にはインダストリー4.0IoTコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)といったトピックにおけるオープンイノベーションの実情を、第一線で活躍する有識者の方々をお招きしてお伝えしてきました。オープンイノベーションという手法は認知度が上がってきてはいるものの、実際にどう推進していくのかという点では正解がなく多くの企業が苦労されていることも事実。弊社ではこういった課題の解決をご支援すべく、関連イベントの開催やハンズオン支援の提供など積極的に活動している旨お話しました。

株式会社アドライト 代表取締役 木村忠昭

その後、登壇者4名より、各社のオープンイノベーションに対する取り組みとインサイトについてお話いただきました

大企業連携ではパズルピースが合致した

まずは最初の登壇者は、無意識で暮らしを良くするソリューションを創る企業ドリコス株式会社の代表取締役竹氏。竹氏は学生起業家としてキャリアをスタート。同社では、「飲む」と「エレクトロニクス」の融合により、消費者が知らないうちにヘルシーになっていくという世界の実現を目指しています。読者の皆さんの中にも、ダイエットや身体作りに挑戦したが続かなかった、挫折した、リバウンドした、といった経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。また、近年人気がでてきたヘルスケア系のアプリやウェアラブル端末などを使っていてもやはりうまくいかなかったという方もいらっしゃるのではないかと思います。この状況をみた竹氏は、日本の経済成長をけん引したエレクトロニクスの力に目をつけます。

同社で開発した「healthServer」は未来のヘルスケアデバイス。あなただけの栄養士であるheatlhServerは、管理栄養士と医学博士の監修のものに開発された独自の栄養解析アルゴリズムを搭載。消費者の身長、体重、性別といった身体的情報に加えて、どういった栄養素を消費しているのかといった行動パターンの情報などをもとに、ドリンクに混ぜ合わせることが可能な粉末状の栄養素を提供してくれます。まさにあなただけの栄養士。消費者は何も考えることなく、意識することなくhealthServerが提供するドリンクを飲むことで健康になっていく、ということです。

今回のテーマである、大企業連携においては、大手飲料メーカーとタッグを組んで事業展開を加速させてきたエピソードを披露。同社が経験した事業提携では、中核事業の成長エンジンとしての提携と派生価値の検証エンジンとしての提携のふたつに大別されるとのこと。前者は想起しやすい提携スタイルで、後者は例えばベンチャー企業にありがちなリソース不足問題の補充のメリットがあったようです。また、大企業側にとっては既存事業を時代や流行に沿った形で変革していくための足掛かりにできるという点もあるWin-Winな提携を実行。竹氏はこれを「パズルピースが合致した」と表現してくれました。

ドリコス株式会社 代表取締役 竹 康宏氏

宇宙開発のispaceは多様性に富んだチームを形成

続いての登壇者は、宇宙開発の分野で奮闘する株式会社ispace代表取締役袴田氏。同社が目指す未来は、宇宙に生活圏を築く時代を創造すること。そのために、積極的に大企業連携を行い、通信会社と組んで月面における通信環境を開発したり、接着剤メーカーと組んで宇宙で使える接着剤の開発をしたり、といった取り組みを行われているそうです。

同社が牽引する有名プロジェクトは、日本発民間月面探査チームHAKUTOです。通信大手au、東北大学、多様性に富んだプロボノメンバーが集い開発した月面探査ローバーは、各国から集まった計34チームの中から5本指に入る実力を発揮。その知恵と技術が業界最小の探査ローバーに集約されました。NASAのローバーは約900kg、中国は約100kg、アメリカは約30kgの重量があることに対して、同チームのローバーは4kgと圧倒的な軽さを実現。これにより、打ち上げてから月面に運ぶまでの労力とコストを大幅に削減することができます。

このような輝かしい実績を誇るispace社は、民間月面探査レースに参加するために立ち上げられたベンチャー企業。東北大学教授でもあるCTO吉田氏が約20年に渡り東北大学宇宙ロボット研究室の研究開発で培ったノウハウと技術を活用し、当初からレース後の宇宙分野での事業化を目標とし活動を続けてきました。今回のテーマにまさにぴったりなエピソードを紹介してくださった袴田氏。宇宙に生活圏が築く時代の到来が待ち遠しいところです。

株式会社ispace 代表取締役&ファウンダー、HAKUTO代表 袴田 武史氏

京都大学から生まれるオープンイノベーション

ベンチャー企業2社に続いて登壇いただいたのは、京都大学イノベーションキャピタル株式会社投資部でプリンシパルを務める八木氏。京都大学発ベンチャー企業をベンチャーキャピタルとして支援する八木氏からは、京都という土地柄や在籍する大企業、また、政府が出資する官民ファンドについてのお話など、普段あまり接することがない情報も交えてお話いただきました。

京都大学といえばiPS細胞の山中教授など、ノーベル賞の受賞者を数多く輩出してきた言わずと知れた名門大学。その京都大学からイノベーションを創出するために結成された同社の取り組み内容、ファンド概要/規模と投資先のベンチャー企業などご紹介いただきました。同社は、ベンチャー企業の事業領域に特化することはなく幅広く支援。その領域は、バイオテクノロジー、ICT、IoT、AI、エネルギー、素材系など多岐に渡っています。

印象的であったことは、大学連携を含めたオープンイノベーションの現実についてのお話。民間企業ではないという点で、やはり想定外のことが起きていることをプロジェクト推進の課題として捉えており、その点を解決してオープンイノベーションを通じたより多くの成功事例を生み出していく考えです。一方で、大学としても独立が求められており大学単体としてどのようなバリューを世の中に出していくのか、という点も今後の発展に向けて大切であると八木氏はお話しました。

その中でも最大の課題は、起業家人材が足りていないことであるといいます。それをうけて、より多くの優秀な若手のホープを起業家として育成すべく立ち上げたのが、Entrepreneur Candidate Club(ECC-iCap)と名付けられた起業家育成コミュニティーです。このコミュニティーを通じて、ミートアップやイベントの開催、シードプログラム、起業家育成プログラムの提供などを行っていくそうです。

これまでの数多くのイノベーションを生み出してきた京都大学の今後の動きに注目です。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資部 プリンシパル 八木 信宏氏

オープンイノベーションのカギはスピード感

そして最後の登壇者は、TomyK Ltd.ファウンダーでACCESS共同創業者の鎌田氏。鎌田氏は自身も東大在学中にベンチャー企業を立ち上げ、最近はベンチャー起業の支援を中心に活躍されています。また、Googleよって買収にされた東京大学発のロボットベンチャーSCHAFT(イベントの翌日SoftBankによって買収されることが発表された)の立ち上げからEXITまで社外取締役として支えた経験を持っています。

鎌田氏は、リアル世界とデジタル世界の融合がグローバルに戦うカギだと語りました。ハードウェアのみでは中国勢や韓国勢に価格で勝っていくのは難しく、Computingの面も付加しプラットフォームとして戦うことが大切との考えです。大学発の例として、インクジェット印刷でフレキシブル基板の製造をオンデマンドで発注できるサービスを展開するAgICやヒューマノイドロボットの実用化を目指すSCHAFTを、動画を交えながら詳しくご紹介いただきました。

テックベンチャー創出の課題としては、八木氏と同様に、起業家人材を増やすこと、また、大企業と足並みをそろえてともに成長していくこと、を挙げられました。鎌田氏のお話の中でも印象的であったことは、ベンチャーと大企業で連携する際のスピード感の違い。ベンチャー企業は一年半でなくなっちゃうんです、と語った鎌田氏は限られたリソースの中で成功していくためには大企業側の迅速な意思決定と推進体制が必要不可欠であると話しました。大企業にも特有の意思決定プロセスがありその必要性を説いた上で、ベンチャー連携は打率2割くらいの確率で成功するもの、くらい失敗を恐れない姿勢が必要とされるのではないか、ということでした。

グローバルにベンチャーを長期に渡り経営し、大型M&Aも経験された鎌田氏の熱のこもったプレゼンには独特の説得力を感じさせるものがあり、参加者の皆さまも聞き入っている様子がうかがえました。

TomyK Ltd. Founder & CEO 鎌田 富久氏

大学発ベンチャーとオープンイノベーションの未来

休憩をはさんでから、弊社木村ファシリテーションのもと、登壇者によるパネルディスカッションを実施。

パネルディスカッションの様子

まずは木村から、登壇者の皆さまへの質問タイム。最終的に提携を行うと意思決定した時に重要視していたこと、出資をもらう前後で事業のスピードが加速したことは具体的にどういった点であったのか、事業会社と提携する上でデメリットはあったのか、などを質問。京大VCの八木氏には、大学の先生のベンチャーへの関わり方について、VCとして投資した後の支援内容などについて。また、鎌田氏には、大企業とベンチャー企業のスピード感の違い、米国Google社の買収におけるプロセスや意思決定方法とスピード感などについてお伺いしました。その後、参加者からも、様々な質問が投げかけられました。大企業が以前と比べて他社連携に対しオープンになってきているのかや、ベンチャー企業が次の産業を創り出していくとするとどういった産業になるのかなど、それ他にも幅広くかつ突っ込んだ質問がでて予定時間をオーバーするほどの活発な議論が繰り広げられました。

その後の懇親会でも、登壇者と参加者を交えて、積極的に名刺交換や情報交換を行う姿が印象的でした。

最後に

大学発ベンチャー経営側、支援側の第一線で活躍される方々をお招きして行われた今回のMirai Salon第4回は、前回に引き続き熱気に包まれ、活発な議論が行われた会となりました。今後もMirai Salonでは、オープンイノベーションに関する様々なテーマでイベント開催を予定しています。関連トピックに関するイベント登壇やお問い合わせに関しては、こちらからお気軽にお声がけくださいませ。