はじめに
前回コラムにおいて、社内における基幹システムの導入または刷新を検討されている方を主な対象として、基幹システム導入プロジェクトにおけるPMOの必要性についてお伝えしました。今回は、基幹システム導入の際にPMOが果たすべき7つの役割について、弊社支援事例などをふまえ詳しく解説していきます。
基幹システム導入におけるPMOの7つの役割
改めてですが、基幹システムを導入する際のPMOの主な役割は、以下の7つとなります。
(1)プロジェクト管理手法の決定と定着化
(2)進捗状況の可視化とリカバリ策の立案
(3)課題およびリスクの管理
(4)分科会の設置とハンドリング
(5)プロジェクト予算の管理
(6)データ移行や受入テストなどのユーザタスク計画と進捗管理
(7)上記に付随する各種事務作業
これらを順番にみていきましょう。
(1)プロジェクト管理手法の決定と定着化
一つ目は、プロジェクト管理手法の決定と定着化です。この役割は、主にプロジェクトが開始する前におこないます。すなわちプロジェクトのキックオフ・ミーティングが開催される前に、プロジェクトの管理手法をまとめます。
具体的には、プロジェクト管理のルールおよびプロジェクトの運営ルールを決定し、プロジェクト運営ルールブックという形で文書化します。プロジェクト運営ルールブックには、プロジェクトの会議体をはじめ、議事録の管理プロセスとフォーマット、進捗報告の管理プロセスとフォーマット、課題およびリスクの管理プロセスとフォーマット、プロジェクトルームの運用ルール、各種情報共有の方法などを盛り込みます。
なかでも考慮が必要なのは、情報共有の手段です。可能な限りプロジェクトメンバー全員(社外のパートナー企業も含む)がアクセス可能な環境を構築しておくことが理想的です。いくつかのプロジェクトでは、電子メールで文書をやりとりする状況が見られましたが、バージョン管理などの観点で非効率です。現在ではクラウドのストレージ環境(BoxやDropbox、Googleドライブなど)が十分に整っていますし、クラウドベースのプロジェクト管理サービスも充実していますので、これらを活用すると情報共有を円滑におこなうことができます。
PMOはこれらプロジェクト管理の基本的なルールづくりと環境づくりを行い、キックオフ・ミーティングでプロジェクトメンバーへの説明と定着化に注力します。プロジェクト管理手法を確立し定着化することで、プロジェクト管理業務の抜け漏れがなくなり、かつプロジェクトメンバーの作業が均一となることでプロジェクトの質を向上することが可能となります。
(2)進捗状況の可視化とリカバリ策の立案
二つ目は、進捗状況の可視化とリカバリ策の立案です。一般的に、基幹システム導入のプロジェクトは、販売や生産、購買、会計、インフラ、そしてインターフェースなど、担当する領域ごとにチームを分けて進めます。そこで、各チームで進めているタスクの進捗状況を把握するために、定期的に各チームから進捗報告を集めます。
進捗報告を集めるタイミングは、週次開催する全体進捗ミーティングの一日前から二日前に設定します。PMOは各チームの進捗を把握するとともに、全体の進捗状況サマリを作成します。そのなかで進捗の遅れが認められるチームに対しては、チームリーダーと個別に打ち合わせの機会をつくり、チームリーダーと一緒にリカバリ策の検討をし、対策を決め、その結果をプロジェクトマネージャーとすり合わせます。
リカバリ策の立案を終えた後に、PMOが週次全体進捗ミーティングでファシリテーションをおこないます。ミーティングの場ではリカバリ策の情報共有に焦点を絞ることができ、リカバリ策の検討に必要以上の時間がとられることを避けることができます。
PMOでおこなう進捗管理とは、進捗遅れに対するリカバリ策の検討およびプロジェクトマネージャーとのすり合わせに大部分が割かれます。進捗の可視化とリカバリ策の立案は、プロジェクト納期目標の達成に直結する役割であり、非常に重要です。
(3)課題およびリスクの管理
三つ目は、課題およびリスクの管理です。課題管理およびリスク管理のフォーマットをプロジェクト開始前に決めておき、プロジェクト運営ルールブックに掲載します。また、課題管理およびリスク管理のプロセスもルールブックに記載し、プロジェクトメンバーに周知します。とくに、課題の進捗ステータスについては、誰がどのような基準でステータスを変更するのかについてプロジェクトメンバーの認識を合わせておくことが重要です。つぎに、各チームに課題およびリスクを抽出してもらい、PMOが集約します。
課題については、プロジェクト期間中は常にアップデイトが可能な状態にしておき、新規課題および既存課題ともにPMOが進捗を追跡します。期日が到来している、あるいは長期間進捗が動いていない課題があれば、担当者にヒアリングをします。そこで、課題解決を阻害している要因があれば、解決策を担当者とともに探し、プロジェクトマネージャーとすり合わせます。
リスクについては、プロジェクト初期の段階で各チームのメンバと抽出作業をし、PMOはリスクの評価と方針を検討し、プロジェクトマネージャーの承認を得ます。
PMOは、課題やリスクの対策で実行に漏れや遅れがないか、各担当者と蜜にコミュニケーションをとりながら、解決をはかる役割を担います。
(4)分科会の設置とハンドリング
四つ目は、分科会の設置とハンドリングです。先に述べた課題やリスクの中には、即時に答えが出ず、解決のために適切なメンバの招集と複数回の会議が必要になるケースが出てきます。その際に、プロジェクトチームとは別に分科会を設置し、プロジェクトの進捗と並行して、特定課題およびリスクの検討体を作ります。
PMOは、この分科会の設置に関する提案をプロジェクトマネージャーにおこない、かつ分科会の成果物が期日どおりに提示されるよう、中心的な役割を担います。また、分科会の会議設定やファシリテーションも必要に応じておこないます。
PMOはチーム横断で解決すべき課題が生じた際には、迅速に検討体を提案し、課題が放置されてプロジェクト進捗を妨げるようなことが無いように働きかけます。
(5)プロジェクト予算の管理
五つ目は、プロジェクト予算の管理です。基幹システムの導入プロジェクトにおける予算は、製品のライセンス費用に加え、各社固有業務に合わせたカスタマイズによる開発費用が含まれます。当該カスタマイズの開発費用については、PMOがITサービス提供企業とともに検討し、スコープ管理と開発見積もりの管理をおこないます。
その検討状況をプロジェクトマネージャーとすりあわせ、最終的な開発範囲を決定します。多くのプロジェクトでは、各チームからカスタマイズ要求が多数でますが、予算の限界があるため優先順位付けをおこない、かつ各チームへ丁寧な説明が必要になります。説明自体はプロジェクトマネージャーから行うのが良いですが、説明に必要な資料はPMOがまとめると良いです。
カスタマイズのみならず、ハードウェアやネットワークなどのインフラやインターフェース開発、データ移行費用、研修費用など、各種予算の管理をPMOがとりまとめ、プロジェクトマネージャーの意思決定に必要な情報を揃えます。
PMOは、プロジェクトマネージャーとともに、プロジェクトの予算目標を達成できるように、すすめることが重要です。
(6)データ移行や受入テストなどのユーザタスク計画と進捗管理
六つ目は、データ移行や受入テストなどのユーザタスク計画と進捗管理です。基幹システム導入プロジェクトにおいて、プロジェクト計画フェーズ、要件定義フェーズ、受入テストフェーズ、データ移行フェーズなどは、ITサービス提供企業側ではなく、ユーザー側が主導する必要のあるフェーズです。なかでも、受入テストフェーズやデータ移行フェーズでは、PMOが計画を策定し、プロジェクトマネージャーとすり合わせます。
計画には、スケジュールの決定から、各チームのタスクアサイン、各フェーズ自体の進捗管理などを含みます。ユーザタスクについては、PMOが主導的な役割を担い、プロジェクトの円滑な進捗を推進します。
(7)上記に付随する各種事務作業
七つ目は、上記に付随する各種事務作業です。これまでの六つの役割における各種調整作業や資料作成作業などを指しています。これまでの六つの役割については、さまざまな情報を集め、それら情報を適切なかたちで可視化するということが重要となります。そのため、様々な情報ソースから資料を集め、資料を作成する作業が繰り返し発生します。
これら作業をプロジェクトマネージャーに変わってPMOが行うことで、プロジェクトマネージャーの負担を軽減し、かつ円滑にプロジェクトが進行させることが可能となります。プロジェクトにおいては、各種事務作業をPMOが積極的に引き取ることが肝要です。
おわりに
本コラムでは基幹システム導入におけるPMOのなすべき役割を中心に説明してまいりました。プロジェクト内にPMOを設置するためには、PMO専門で担当できる人材を、すなわち他の業務と兼業しない人材をアサインすることが望ましいです。そのためには、既存業務との調整が必要になりますので、担当役員やマネージャーに対しても十分な説明が必要となります。
上記でみたとおりPMOがなすべき役割は広範囲かつ専門的な内容になりますが、高額な投資となる基幹システム導入プロジェクトを成功させるためにも必要な組織であると考えます。PMOが担う役割の重要性を理解したうえで、外部のPMO人材活用なども視野にいれつつ、プロジェクトの目標を達成しましょう。
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