日本の国土の約3分の2を覆う森林。その資源は今、脱炭素社会を実現するうえで改めて注目を集めています。
「GX Alliance by SUITz」第5回イベントが、2026年5月21日に開催されました。今回のテーマは「森林によるGX ─ 地域から始まるグリーンカーボンと持続可能な森林の未来」。林野庁の担当者をはじめ、森林・林業領域で先進的な取り組みを進める3社が登壇し、森林が担うべき役割と事業化の現実について、踏み込んだ議論が交わされました。
基調講演:森林・林業・木材産業とGXの可能性
林野庁林政部企画課課長補佐の飯田俊平氏は、「森林・林業・木材産業とGXの可能性」と題して登壇しました。冒頭で飯田氏が問いかけたのは、「森林にとってのGXとは何か」という根本的な問いです。GXは本来エネルギーの安定供給・経済成長・排出削減を同時に進める概念として生まれましたが、今日ではその意味合いが広がりをみせており、森林分野はそこにどう接続できるかを考える必要があると語りました。
森林の多面的機能と「森業」という新たな概念
飯田氏が特に力を入れて説明したのが、林野庁が推進する「森業(もりぎょう)」という考え方です。森林が持つ水源涵養・生物多様性保全・文化的機能・森林吸収といった多面的な生態系サービスを活用し、人と森林の関係を深めながら、森林所有者にも利益を生み出す仕組みを作ること。それが直接的にはカーボン吸収源として、間接的には広義のGXに貢献するというビジョンです。
日本の人工林は、戦後に植えられた木が今や多くが50年を超え、伐採・利用の適齢期を迎えています。しかし、国産材の活用は十分とは言えず、循環利用のサイクルを確立することが大きな課題です。一方で、都市住民との接点づくりや企業による森づくりの動きも広がりつつあり、飯田氏は「楽しく、美味しく、明るい地方」を目指す「地方未来共創戦略」とも連動しながら、企業の状況に応じた多様な関わり方を生み出すことが重要だと述べました。
J-クレジットの現在地と可能性
飯田氏がもう一つ重点的に取り上げたのが、森林由来のJ-クレジットです。2013年に始まったJ-クレジット制度は10年以上の歴史を持ちますが、森林分野の認証量は長らく全体の数パーセントにとどまっていました。しかし近年、カーボンニュートラル宣言の広がりや企業の意識変化を受けて認証量が急増しており、2025年度は年間で過去最大規模の認証が見込まれています。
今年度から本格的に稼働しているGX-ETSへの活用が認められたことで、クレジットの需要はさらに高まるとみられています。飯田氏は「生物多様性保全など、排出削減系のクレジットにはない付加価値を持つ点が、森林J-クレジットの大きな強み」と語る一方、申請手続きの複雑さや創出後の販売が困難という課題も率直に指摘。森林整備への還元を確実にするためにも、現場を知るコンサルタントとの連携が重要だと呼びかけました。
パネルディスカッション:「誰がイニシアチブを取るか」という問い
パネルディスカッションでは、主催者のアドライト代表・木村忠昭氏を交え、飯田氏との対話が展開されました。
議論の一つ目のテーマは、森林整備をめぐるプレイヤーの役割分担でした。飯田氏は、かつて森林組合が主体だった時代から変わりつつあると述べ、若い世代や新たな事業者が参入しやすい環境を整えながらも、収益性を維持するために一定の規模感が必要だという両立の難しさを語りました。日本特有の「中小を守る」発想のみにこだわらず、やる気のあるプレイヤーが連携しながら底上げを図る仕組みも求められると話しました。
二つ目のテーマは、J-クレジットの手応えと今後の展望でした。飯田氏は「期待は大きいが、まだ多く売れているわけではない」と現状を慎重に評価しつつ、例えば、自社の2030年目標を見据えてクレジットを調達する動きがあることや、GX-ETSとの連携でさらなる需要拡大が期待されることを指摘。「盛り上がって定着する世界になっていくことを願っている」と締めくくりました。
会場からは、森林J-クレジットにおける所有者同意の問題やバイオマス国内利用の現状についても質問が寄せられ、制度の現実と改善に向けた取り組みについて活発な意見交換が行われました。
企業ピッチ:森林GXの実装を担う3社
DeepForest Technologies株式会社:ドローンとAIで森林の価値を「見える化」
「森林GXを実装するには、まず価値を見える化することが入り口になる」──DeepForest Technologies株式会社の割田翔太氏はそう語り、ドローンとAIを用いた森林解析の可能性を紹介しました。
同社は京都大学発のスタートアップで、AI による樹木検出・樹種識別において世界初の技術を持ちます。広葉樹の樹種識別を含む木一本単位の森林解析が可能で、種類・高さ・CO₂固定量などを把握できます。この技術をもとに、森林解析ソフトの提供、ドローンによるデータ計測・解析代行、カーボンクレジット創出の申請手続きまでを一貫してサービス展開しています。
J-クレジットのモニタリング・巡視については1万ha超の実績を持ち、所有者の負担を抑えながら収益を地域に還元する仕組みとして機能しています。割田氏は「森林所有者や計測会社だけでは成立しない。今日集まった皆さんと一緒に実装していきたい」と協働を呼びかけました。
青葉組株式会社:「植えて育てる」造林に特化した林業集団
「未来の森を、いまつくる。」をミッションに掲げる青葉組株式会社。広報PR担当の荒尾 奈那氏が登壇し、同社のユニークな立ち位置を紹介しました。
同社は伐採ではなく、「造林(植えて育てる)」に特化した林業会社です。放置林・山火事跡地・荒廃地を個人の山主から引き取り、杉だけでなく、広葉樹の植林も行いながら、湿地や草地も合わせて設計・再生します。栃木県全域や岩手・新潟・茨城などで活動しており、30代を中心とした若いチームが運営しています。
企業との連携事例としては、シナネンとの「あかりの森」では電気の売り上げの一部を森へ投資するスキームを構築。卓球用品メーカー・タマス(バタフライ)との「バタフライフォレスト」では、蝶の生息に適した草地の保全や国産材ラケットの実証実験にも取り組んでいます。企業の経営課題に合わせた森づくりの設計から、自然資本サイトの認定支援まで一気通貫で対応できる実装パートナーとして、共創企業を募っています。
株式会社プノントイ:里山の保全と企業のサステナビリティ実装をつなぐ
自然環境を継承する多様な関わり手を増やすことを目指す株式会社プノントイ 代表取締役 吉成絵里香氏が登壇しました。北海道大学で生物多様性研究を学び、JICA海外協力隊・三菱UFJリサーチ&コンサルティングを経て2021年に創業した同社は、森林・里山のプロデュースを通じた環境経営支援を展開しています。
日本の国土の約40%を占める里地里山は、高齢化・過疎化が進む中で管理放棄されるケースが増えています。一方、都市部の企業はネイチャーポジティブやGXの実装に向けて専門人材・ノウハウを求めています。プノントイ社はこの両者をつなぎ、まず森の生態調査を通じて活用・保全のポテンシャルを把握したうえで、企業向けの体験型研修や人材育成プログラムを提供します。
J-クレジットの創出・活用を自社事業として進めたいガス会社の新規事業支援や、工場流域の生物多様性保全体制の構築支援など、研修にとどまらず事業開発まで一貫して伴走するのが同社の特徴です。サービス開始2年で連携地域は約20市町村に広がっており、IT・レジャー・鉄道・建設・通信・ガスなど多様な業種に導入されています。
おわりに
今回のイベントを通じて見えてきたのは、「森林に興味を持ってほしい」という飯田氏の言葉が示すように、森林がGXの文脈で改めて注目される時代が来ているという事実です。J-クレジットの認証量急増、企業の森づくり事例の広がり、そしてドローン・AIによる解析技術の進展──それぞれが単独では動きにくかった森林セクターに、異分野からの参入口を開きつつあります。一方で、収益性の確保・所有者の分散・申請手続きの複雑さなど、乗り越えるべき壁も率直に語られました。
GX Allianceは、デジタルプラットフォーム「SUITz(スーツ)」を通じ、産・官・学・スタートアップが連携して実装を加速するプラットフォームです。基調講演・ピッチ・ネットワーキングを組み合わせた設計で、大企業・スタートアップ・官公庁・自治体を接続し、協創の場を毎月提供しています。






