日本のGX(グリーントランスフォーメーション)は広大なフロンティアを舞台に、新たな局面を迎えています。
「GX Alliance」の第4回イベントが開催されました。今回のテーマは「海洋が秘めるGX」。専門家、そして最前線を走るスタートアップの視点から見えてきたのは、海が持つ多様なポテンシャルに対して、日本の脱炭素社会実現を加速させる挑戦でした。
基調講演:しまんと海藻エコイノベーション共創拠点
高知大学・次世代地域創造センターの岡村健志教授は、「しまんと海藻エコイノベーション共創拠点~海藻の無限増殖と変換技術を通じて地域に新たな挑戦の場を~」と題して登壇しました。冒頭で岡村氏が語ったのは、JST(科学技術振興機構)の競争的資金プログラムで、育成型から本格型への移行を逃した経験でした。採択には至らなかったものの、「何が足りなかったのかが、これほど明確になったことはなかった」と振り返ります。失敗を出発点に据えたその姿勢が、会場の空気を引き締めました。
なぜ今、海藻なのか
岡村氏が問題意識として挙げたのは、地球温暖化による一次産業へのダメージと、世界規模での食料供給の持続性という二つの課題です。一次産業はGDPの1〜3%程度に見えますが、土地利用や食料安全保障を支える社会の基盤であり、その弱体化は数字には表れない深刻な影響をもたらします。そこで注目されるのが海藻です。海藻は陸上植物と比べてCO₂固定効率が高く、肥料・たんぱく源・バイオ素材など多用途に展開できる資源として、世界銀行も2030年に向けた巨大市場形成を試算しています。
四万十川で何が起きているか
「日本最後の清流」四万十川は、自然と人の暮らしが共存してきた地域です。古くから「すじあおのり」や「ヒトエグサ」が特産品でしたが、水温上昇などによって、天然のすじあおのりは四万十市からほぼ姿を消しました。環境問題に加え、人口問題も重なります。現在約3万人の四万十市の人口は将来的に半減が予測されており、15〜25歳の若年層が流出する構造が定着しつつあります。岡村氏のプロジェクトが目指すのは、海藻資源の再生による環境課題の解決と、若者が挑戦できる場の創出による人材循環、その両立です。
50年の研究が生んだ「球状体海藻栽培技術」
高知大学が2000年に開発した「球状体海藻栽培技術」は、海藻を球状の基質に付着させ水中で浮遊させながら育てる手法です。全方向から光と栄養を吸収できるため生産性が大幅に向上し、陸上養殖として温度管理が可能なことから天候や季節に左右されない安定供給を実現します。岡村氏はこの技術を研究室にとどめず、四万十市・高知県・企業・金融機関と連携しながら社会実装を進めてきました。市民ワークショップで「これからの四万十」を共に描き、高校生や学生を事業づくりに巻き込む中で、100年以上続く地元事業者が陸上養殖に踏み出す動きも生まれています。
パネルディスカッション:「共創」の本質と事業化の壁
パネルディスカッションでは、岡村氏が事業化の課題を率直に語りました。技術は確立してきた一方で、「誰が担うか」「どう収益化するか」という設計が後回しになっていたことが、本格型採択を逃した核心だったといいます。
地域共創のキーパーソンは若者と述べました。若い世代が中心になったことで、地域全体の目線がそろったと感じています。子どもや学生は利害関係が少ない分、素直に未来を語れる。それが結果として、地域の大人たちの議論も前向きにしたと語りました。
出口側から繰り返し問われたのは「市場がどこにあるのか」という一点でした。すじあおのりは1kgあたり数万円になる高付加価値商材ですが、市場規模は小さく、加工原料・食品素材・海外展開といった多層的な出口設計が不可欠です。知的財産についても、売上の一部を大学に還元するモデルの実効性に疑問が示される中、外部専門家との連携体制へ移行が進んでいます。大学の長期的関与と民間の機動力を組み合わせること——それが地域共創を「理念」ではなく「実装」に変えるための条件だという認識が共有されました。
企業ピッチ:海洋DXと浮体式洋上風力の挑戦者たち
Upside合同会社:「眠っているデータ」を海の羅針盤へ
2009年創業のUpside合同会社(代表社員・新田哲也氏)は、水産・海洋DXを手がけます。現場では魚探や計測機器から膨大なデータが日々生成されていますが、その多くは活用されないまま消えていきます。同社はこれらをクラウドで処理し、GISや3Dマップとして可視化することで、データを意思決定の道具に変えます。沖縄・石西礁湖では、複数機関が個別に抱えていたサンゴ礁データを統合し、関係者全員が同じ情報を共有できるプラットフォームを構築しました。ブルーカーボンのビジネス化はまだ途上ですが、可視化なくして海洋資源の持続的管理は成り立たないという確信が、同社の事業の根幹にあります。
株式会社アルバトロス・テクノロジー:日本発・浮体式洋上風力への挑戦
2012年創業の株式会社アルバトロス・テクノロジー(取締役COO・長壁一寿氏)は、浮体式洋上風力の技術開発に特化したスタートアップです。日本の洋上風力ポテンシャルは全電力需要の数倍とも試算されますが、日本近海は水深60mを超えるエリアが多く、着床式が設置できません。同社の差別化は「陸上用設計を海に持ち込まない」という発想にあります。代表が専門とする船舶海洋工学の知見をもとに浮かべるのに最適になるよう設計し直すことで、コスト競争力を根本から追求しています。長崎県沖での実証機設置が進む中、長壁氏が強調したのは産業構造の問題です。現状、国内洋上風力の設備費の約半分が海外に流出しており、太陽光と同じ轍を踏まないためにも、今この段階で国産サプライチェーンを育てる必要があると訴えました。
次回イベントのご案内
GXAllianceは、デジタルプラットフォーム「SUITz(スーツ)」を通じ、1社・1業界では解けない課題に対し、産・官・スタートアップが連携して実装を加速するプラットフォームです。基調講演・ピッチ・ネットワーキングを組み合わせた設計で、大企業・スタートアップ・官公庁・自治体を接続し、協創の場を毎月提供しています。
次回5回目となるGX Allianceは、「森林によるGX-地域から始まるグリーンカーボンと持続可能な森林の未来-」です。
メインスピーカーに林野庁林政部企画課 飯田 俊平氏をお招きし、森林・林業・木材産業とGXの可能性についてご登壇いただきます。
ぜひ、皆様のご参加をお待ちしております。
お申し込みはこちら↓
https://suitz20260521.peatix.com/






