GXや広義の環境対応は、一社単独、あるいは一地域だけで実現できるものではなく、多様な主体が連携しながら事業共創を進めることが重要です。GX Alliance は、こうした共創のきっかけを生み出す場として、2026年1月から継続的に開催されているイベントです。
今回のテーマは「まちづくりGX」。国土交通省 都市局 都市環境課 竹園様による基調講演を中心に、都市政策、エネルギーの面的利用、未利用熱の活用、建設資材の循環利用、自然資本の可視化など、都市を起点としたGXの実装に向けた多角的な講演が行われました。
まちづくりGX
基調講演には、国土交通省都市局でまちづくりGXを担当する竹園紘樹氏が登壇しました。講演では、GXをエネルギーや技術開発だけの問題として捉えるのではなく、「都市そのものを変えていく大きな機会」として捉えて、都市行政の立場から今後の政策課題と取り組みの方向性が説明されました。
気候変動・生物多様性・ウェルビーイングの統合
講演の冒頭では、これからの都市に求められる視点として、気候変動への対応、生物多様性の保全、ウェルビーイングの向上という三つの要素が挙げられました。2050年カーボンニュートラルの実現に向けた温室効果ガス削減の取り組みに加え、都市の中で自然環境を守り、人と自然との接点を増やすこと、さらに肉体的・精神的・社会的に満たされた状態を意味するウェルビーイングを高めることが重要であると説明されました。
都市GXを支える三つの柱
国土交通省都市局の取り組みとして紹介されたのが、「まちづくりGX」の三つの柱です。第一の柱は、都市構造・移動手段の変革です。都市機能の集約による公共交通の利用促進を通じて、過度な自動車依存を抑え、移動に伴うCO₂排出量の削減を目指す方向性が示されました。
第二の柱は、エネルギーの面的利用です。講演では、これまで都市政策の中で十分に取り組めていなかった領域として、建物単体ではなくエリア全体でエネルギーを効率的に利用する仕組みづくりが挙げられました。
第三の柱は、緑地・オープンスペースの確保です。都市公園やグリーンインフラの整備を通じて、CO₂吸収、生物多様性の確保、都市環境の快適性向上を図る取り組みが紹介されました。さらに、これらの三本柱に加えて、猛暑の中でも安全・快適に暮らせる暑熱対策も「プラス1」の重要施策として位置付けられました。
今、都市GXに取り組む理由
講演では、都市がGXに今取り組むべき理由として、エネルギー価格の上昇、日本のエネルギー輸入依存、再生可能エネルギーの主電源化、都市インフラの更新時期、暑熱対策の必要性が挙げられました。日本ではエネルギーの多くを海外から輸入しており、国際情勢の影響を受けやすい構造にあります。また、都市部では多くのエネルギーが使用されているため、都市でエネルギー利用を見直すことが重要になっていると説明されました。
検討会で議論される今後の政策方向
国土交通省では、「効率的なエネルギー利用に向けた都市のあり方検討会」を開催しており、年度内にガイドラインの発出を目指していることが紹介されました。検討会では、エネルギーの面的利用を都市政策の中でどのように位置付けるか、制度上の課題をどのように整理するかが議論されていると説明されました。
その中で、今後の重点テーマとして示されたのが、地域冷暖房、調整力の確保、未利用熱の利用です。特に未利用熱については、データセンターや清掃工場などから発生する排熱を、地域のエネルギー資源として有効活用する重要性が示されました。こうした取り組みは、単なるCO₂削減だけでなく、都市の快適性やエネルギー効率の向上にもつながるものとして説明されました。
パネルディスカッション:誰がまちづくりGXを設計し、実行するのか
パネルディスカッションでは、主催者のアドライト代表 木村を交え、対話が行われました。「まちづくりGXは誰が設計し、指導して実行するのか」というテーマに対し、竹園氏は、行政がすべてを主導するのではなく、行政は将来像、ルール、プラットフォームを設計する役割を担い、実際の実行主体としては民間企業が中心になるとの考えを示しました。
都市では、業務・商業分野を含めて大きなエネルギーが使われています。そのため、エネルギー利用の効率化やGXの実装においては、都市の利用者であり事業者でもある民間企業の役割が大きいと説明されました。
また、企業間連携や官民連携の可能性として、未利用熱の活用が取り上げられました。データセンターは大量の電力を使用する一方で多くの排熱を発生させるため、その熱を周辺施設で活用できれば、都市における有効なエネルギー資源になり得ると述べられました。清掃工場から発生する熱についても、周辺地域への供給など、地域全体での活用可能性が示されました。
行動変容については、「脱炭素だから頑張りましょう」という呼びかけだけでは十分ではないとの見解が示されました。生活者にとっては暮らしが便利になる、光熱費が下がる、地域の価値が上がるといった身近な価値と結び付けることが重要であり、企業に対しても、設備やコストだけでなく、空間価値や運用面のメリットを示すことが行動変容につながると説明されました。
会場からは、生ごみ処理や都市のごみ回収、温暖化に伴う都市インフラのあり方などについても質問が寄せられました。これに対して、日常的な行動変容にはインセンティブの設計や社会的な風潮づくりが必要であること、また暑熱対策としては遮熱性の高い舗装、日陰の創出、バス停など人が滞留する場所での対策が必要であることが語られました。
ピッチ企業
ONESTRUCTION株式会社:サーキュラーコンストラクションを、日本でどう実装するか-欧州基準に依存しないマテリアルパスポートの設計
企業ピッチの一社目には、ONESTRUCTION株式会社の共同創業者兼CCOである宮内氏が登壇しました。
同社は、建設とテクノロジーの架け橋になることをミッションに掲げ、建設DX、制度改革、契約方式の見直しなど、建設業界全体の変革に取り組んでいると紹介されました。宮内は、建設業界におけるGX対応として、設計・施工段階で環境性能を計算・証明することが今後の実務の前提になっていくとの見通しを示しました。
ピッチの中心となったのは、サーキュラーコンストラクションとマテリアルパスポートです。サーキュラーコンストラクションとは、建設資材を使い捨てるのではなく、分別・回収し、次の建設へ再流通させる考え方です。その実装には、資材の種類、量、由来、環境性能、再利用可能性などを記録し、後から活用できるデータ基盤が必要であると説明されました。
欧州ではデジタルプロダクトパスポートやマテリアルパスポートに関するルール形成が進んでいる一方、日本では欧州標準をそのまま導入するだけでは機能しない可能性があるとの課題認識が示されました。国内メーカーを守り育てるためにも、日本の産業構造に合った基盤づくりが必要であると述べられました。
今後については、いきなり都市全体で実装するのではなく、まずは町や組織レベルで実証を進めることが現実的であるとされました。自治体、デベロッパー、ゼネコン、金融機関、資材メーカーなどに対して、実証フィールドの提供や連携を呼びかけました。
ミドリクNbS株式会社:「見えない自然の価値、未来のランドスケープを ── 体感できるデジタルツインへ〜緑の可視化から合意形成、維持管理の無人化まで〜」
二社目には、ミドリクNbS株式会社代表取締役の関氏が登壇しました。ピッチテーマは、「見えない視線の価値、未来のランドスケープをー体感できるデジタルツインへ~緑の可視化から合意形成・維持管理の無人化まで~」です。
同社は、AI、3D、デジタルツイン、ロボット、ドローンを活用し、自然との接点がある現場におけるインフラ、公園、河川、森林などの維持管理の自動化や、自然資本の価値の可視化に取り組んでいると紹介されました。三次元空間を構築し、そこから見える情報を分析・解析したうえで、維持管理や合意形成に活用する事業の全体像が示されました。
森林領域では、四足歩行ロボットを用いた無人の森林調査や、森林内の幹の位置情報の可視化などが紹介されました。これまで人が歩いて行っていた調査を無人化する取り組みとして、森林管理の効率化に向けた可能性が示されました。
また、ドローンや手持ち型スキャナを活用した計測、災害シミュレーション、水源涵養の可視化、環境DNA調査などの取り組みも紹介されました。環境DNAについては、水を採取してDNAを解析することで、どこにどのような生物がいるかを把握する技術であり、人が入りにくい崖地などでドローンを用いて安全に採水する仕組みを開発していると説明されました。
都市領域では、樹木や緑地の情報を正確に取得し、都市の緑を高精度に再現することで、TSUNAG認定制度の支援や、ヒートアイランド対策のシミュレーションに活用する方向性が述べられました。都市モデルそのものの作成だけでなく、緑の情報や環境シミュレーションに強みを持つ企業としての位置付けが示されました。
さらに、自然が人に与える心理的な安らぎや癒しを、デジタル空間やイマーシブ空間で再現する取り組みも紹介されました。自然の揺らぎ、音、匂いなどを再現することで、人間への心理的な効果を持つコンテンツ化を目指しており、地域のプロモーションや観光誘致にもつなげていく構想が語られました。
おわりに
今回のGX Allianceを通じて明らかになったのは、まちづくりGXが、単なる脱炭素施策ではなく、都市の価値を高めるための総合的な取り組みであるという点です。都市構造、移動、エネルギー、緑地、暑熱対策、建設資材、自然資本の可視化など、多様なテーマが相互に関係しながら、これからの都市のあり方を形づくっていくことが示されました。
GX Allianceは、共創プラットフォーム「SUITz」を通じ、技術や知見を提供したい自治体・企業と、課題解決を求める主体を橋渡しする場として紹介されました。業務提携、共同開発、資金調達など、多角的な連携を生み出すことを目指すプラットフォームとして、今後もGX領域における共創の加速が期待されます。






