3月19日から20日にかけて、米国シードアクセラレーター・Y Combinator(以下、YC)のbatch(期)「YC Winter 2018」のDemoDayがカリフォルニア州マウンテンビューにあるComputer History Museumで開催された。本batchには過去最多となる141チームがジョインし、オーディエンス側も第二会場まで設置されるほどの加熱ぶりだった。
一時期、IT領域を離れてハードコアの領域に意識的に振ってみたり、アジアやインド、アフリカなど新興国の割合を増やしてたりと毎回変化のあるbatchだが、過去と比較すると、
・ヘルスケア系のチーム数が増え一定割合を占めるようになった
・各領域でのパーソナライズに特化したチームが目立った
・以前のYCのような開発ツール系のチームが目立った
詳しくは、YCのオフィシャルブログにYC Winter 2018の参加属性を参照いただきたい。
また登場するチームは日本にはまだ見られないようなユニークな事業も多く、多産多死の中でイノベーションを生み出すシリコンバレーのエコシステムを垣間見ることができた。
米国のアクセラレーターの状況を見てみようと思う。BtoBや各領域/テクノロジーに特化したプレイヤーは引き続き顕在だが、総合型のアクセラレーターとしてはYC一強には変わりない。
YCがシードファンドとしてbatch毎に100チーム以上輩出するようになった数年前からシード期のチームへのプログラムを展開したり、フォロー投資用のファンドをセットアップし、卒業チーム以外にもシリーズA投資を始めたりしている。最近では、シリーズAチームへの育成プログラムを行うVC向けのスクールを始めるなど、次々と新しい手を打ってきており、ますます目が離せない。
次回のbatchより、先日追加発表されたRFS(Request for Startups)も反映されるよう。8月の「YC Summer 2018」DemoDayが今から楽しみである。肌感覚だが、DemoDay参加チームのバリュエーションは引き続き高く(もしくは高くなる一方)、取捨選択のうえで優秀なチームへの投資が殺到し、DemoDay時点でラウンドが終わっているチームもいた。
PICK UP! YC Winter 2018スタートアップ30選
YC Winter 2018で気になった30チームを以下に紹介する(オフレコチームは除く)。
1)OpenSea
ブロックチェーンをベースにしたゲームアイテムなどをPtoPで取引できるマーケットプレイス。今後cryptogoods自体が増えてくることを考えると成長が期待できる領域。
2)Edwin.ai
人工知能を活用しチャットボットや音声アシスタント、人力での指導を組み合わせて英語教育を行うサービス。この領域は個々の手法によるサービスは多々あるが、組み合わせによる最適解にはチャンスがあるものと期待。
3)EasyEmail
E mailの返信を早く行うことができるプラグイン。現行のGmailのクイック返信がパーソナライズ皆無で使いにくく(特に日本語)純粋にユーザーとしても期待したいサービスであり、マネタイズは置いておいても今のタイミングであれば参入チャンスがあるか。
4)YouTeam
ソフトウェア会社からエンジニアを借りてくることができるマーケットプレイス。フリーランスのエンジニアのマーケットプレイスはたくさんあるが、会社に所属するエンジニアを直接借りられるという意味では、新しい人材流動性の形。
5)Nectome
人が死んだときの脳を保存しておいて死後も記憶や個性を再生しようとする研究開発を行うチーム。現在の研究成果は不明ですが、ワイルドカード的に面白いチーム。
6)Flint
メキシコにてアプリによるPtoPの送金サービスを展開する。ラテンアメリカでは人口の6割が銀行口座を持っておらず、中国のalipayやwechatpayとは異なり銀行口座と連携する必要のない形でのサービス展開を行っており、独自の進化が期待できる。
7)Arrow
AR機能を実装したインスタライクな動画共有サービス。他のプラットフォームも実装できるが、先行してテキストや絵文字に加え色々なコンテンツをAR化できると面白そう。
8)Molly
本人に代わって友達やファンからの質問に自動で対応してくれるサービス。今後のインフルエンサーによるライブコマースの進展などに伴い、必要になってくるサービス。
9)Piccolo
3Dカメラとコンピュータビジョンを使ってジェスチャーでデバイスをコントロールできるようにするサービス。標準化の問題はあれど音声入力インターフェースの次は動作入力インターフェース、という未来もあるか。
10)Storyline
コーディングなしでAmazon Alexaとの連携ができるようになるサービス。アメリカではスマート家電などを中心にAlexaとの連携がデフォルトになってきており、今後需要のありそうなサービス。
11)Bear Flag Robotics
トラクターを自動運転できるサービス。実際にアメリカのある農家で試したところ、人件費の削減により利益が10%アップしたとのこと。会場前に実物も展示されており、他社製のトラクター自体にカメラと操作機器をつけて運航していた。
12)SafetyWing
デジタルノマド向けの保険サービス。国をまたいで活動するフリーランサーに対して保険を提供し、セーフティネットとなっている。日本の東京海上とも連携しているとのことで、今後増えるであろうデジタルノマドの不安を解消してくれるサービス。
13)Passerine Aircraft
鳥の形をしたドローン。具体的には、足がついておりジャンプで離陸できる。会場で映像を流していたが、着陸の映像はなかった。
14)Patchd Medical
注射などによる投薬をパッチにおきかえることができるサービス。病院から自宅へ患者を戻すという意味でGet them homeというプレゼンが印象的。
15)SharpestMinds
人工知能を習得した学生向けに、インターン先や就職先を斡旋するプラットフォーム。成功報酬のビジネスモデルとなっている。人工知能関連の人材は世界的に不足しており、他の国でもチャンスがありそうなサービス。
16)CoinTracker
複数のウォレットに置いてある仮想通貨を管理し税金の計算までしてくれるサービス。まずはアメリカ国民向けとのこと。日本でも大いに需要のありそうなサービス。
17)Sheerly Genius
やぶれにくい女性向けパンストの提供。防弾チョッキと同じ素材でできており、50回はいてもやぶれないためコストパフォーマンスがいいとのこと。ピッチの際には、はさみでも切れないとうパフォーマンスを展開していた。
18)Volley
音声ゲームに特化したゲームデベロッパー。音声ゲームのtop20の中に7タイトルランクインしており、音声ゲームの市場自体が拡大してくると面白いサービス。
19)California Dreamin
マリファナ入り飲料の提供。名前も秀逸で、販売許可もとっているとのこと(カリフォルニア州ではマリファナは合法)。会場でサンプル品を提供していた。誤解のないように申し上げておくと、飲んで体内に何か起きた感覚は一切ない。
20)NexGenT
ITトレーニングサービスの提供。ファウンダーは元軍隊でITインフラのセットアップ部隊にいたそうで、まさに軍隊式でのbootcampを展開する。数カ月のトレーニングでサラリーの市場価格が3倍以上になった人も。
21)Voicery
人間に近い音声合成を提供。ピッチの半分は合成音声であったがかなり自然に聞くことができた。APIでの提供で文字数に応じた課金を検討しているのとこと。
22)CaptivateIQ
販売員のコミッションを自動計算してくれるサービスの提供。米国ではコミッション計算の70%が未だエクセルで行われているようで、自動化により複雑な計算を解消してあげることでチャンスありか。
23)Ovipost
コオロギを効率的に自動で養殖を行う。飼料用のプロテインとしては大きな需要があり、魚用だけでも9.5B USDの市場があるとのこと。会場に実物も展示していたが、写真はここでは自粛。
24)Look After My Bills
弁護士と連携して電力会社などの支払いを自動で最適化できるサービス。米国だけでも30B USDの市場があるとのこと。日本でも需要のありそうなサービス。
25)Station
仕事用のブラウザを提供。product huntにおいて2017 product of the yearを獲得した。ブラウザだけだとマネタイズが難しいが、仕事用appやSaaSも販売できる機能を実装していきappstore for workを目指すとのこと。
26)Atrium
スタートアップ向けに、アルゴリズムに基づく安価な法律サービスを提供する。YCのパートナーであり、かつtwitchの元創業者であるJustin Kan率いるチームで、彼が登場しピッチした際には会場も盛り上がった。demoday時点で10M USD以上を調達済との報道あり。
27)Mirror AI
その人の顔の写真を使った絵文字を自動で作成できるappの提供。ファウンダーは過去に二つのユニコーン企業を立ち上げた実績を持つ。日本とも親和性の高いサービスで、すでに日本の通信会社からも資金調達を受けているとのこと。
28)Aerones
大型のドローンで風車洗浄などを行う。同市場はニッチだが1.4B USDの市場があるとのこと。会場に実物も展示されていた。
29)Reverie Labs
人工知能の専門家を集めてスクラッチで製薬会社を作ってしまおうというもの。ビジネスモデル自体は従来の製薬ビジネスと変わらないが、それを人工知能の技術のみで実現しようとする試み。
30)Orangewood Labs
大型の3Dプリンティング技術を活用し、オンデマンドで安価な家具を提供するサービス。家具自体は組み立てのみでネジなしで作り上げることができ、会場ではサンプルも配布されていた。
今回も日本人の登壇はありませんでしたが、ぜひ次回以降出ていただきたいです!「YC Summer 2018」の参加申し込み締切は、明日3月24日(土)20時。ご興味ある方はお急ぎください!!
<イベント告知>
2018年4月23日(月)、FINOLAB(東京・大手町)にて「Trend Note Camp#13:Y Combinator最新チームと米国スタートアップトレンド」を開催します。昨年10月に開催した「Trend Note Camp #9 : 最新のY Combinatorから見るスタートアップの潮流」では100名もの方々にお集まりいただき、Demo Dayの度に開催してほしいとの声もいただいておりました。今回はそのような声にお応えし、3月19日から20日にかけて行われた「YC Winter 2018」をキャッチアップする内容のイベントとなっています。
ゲスト : 前回のTrend Note Camp #9でもご登壇いただいた、株式会社WiL パートナーの久保田雅也氏に今回もゲストスピーカーとしてご登壇いただきます。
【講演内容】(当日一部変更になる可能性有り)
・YC2018 Winter 厳選20チーム紹介
・パネルディスカッション(テーマ : 米国の最新スタートアップトレンド)