米国で活躍する投資家が教える、Y Combinator出身スタートアップ

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

国内外で大手企業やスタートアップのイノベーション支援を行う株式会社アドライトは、10月30日「最新のY Combinatorから見るスタートアップの潮流(Trend Note Camp #9)」をFINOLAB(東京・大手町)にて行いました。Trend Note Campは、投資家等招き、世界のスタートアップやビジネスモデル等のトレンドを紹介するシリーズ。今回、アメリカを中心に活躍する3名のキャピタリストが、Y Combinatorの特徴や気になるスタートアップを披露しました。

バリュエーション1千万ドル前後も!大型化するY Combinator出身企業への投資状況

オーディエンスの1/5がシリコンバレーに行ったことがあると答えたことから、Y Combinatorへの興味関心度合いがうかがえた

Y Combinatorは半年に一度のサイクルで「バッチ」といわれるスタートアップ向けプログラムを実施し、終了後、彼らは2日間にわたるDemo Dayにて、500人もの投資家達の前でプレゼンテーション(以下、プレゼン)をします。弊社代表・木村曰く、1バッチあたりの起業家数が毎回増えており、直近は120社強にまで増加。バリュエーション1千万ドル前後も出る等大型化しているといいます。

サービスやプロダクトより、ポテンシャルを中心に紹介するケースが多く、株式会社DGインキュベーション マネージングディレクター・林口哲也氏(以下、林口氏)も「ここ2年ほど参加しているが、プレゼンの内容が変化。以前は売上高や成長高を明確に示していたが、最近コンセプトや見込み額で話しているケースが多い。テキストが増え、デモ動画が減った」とコメント。

Demo Day会場には入りきらないほどの人で溢れ、シリコンバレーの著名なエンジェル投資家らが地べたにも座り、2分間のプレゼンを聞いて拍手で投資の合意を決める仕組みとなっています。「投資したい人で賑わっているということは、資金はコモディティ化しているということ」とは、株式会社WiL パートナー・久保田雅也氏(以下、久保田氏)。

Y Combinatorの盛り上がりとともに立ち位置も変わり、2011年から11回Demo Dayに参加しているというBEENEXT マネージングパートナー・前田ヒロ氏(以下、前田氏)は、Y Combinatorは100億ドル以下のファンドが500ほどに増えたあたりから「ノイズキャンセラーの役割」に変わったと分析。Y Combinatorに入るには2人のファウンダーを必要としますが、1人だけでも入れるアーリーステージ向けプログラムが組まれる等、常に起業家を大切にする文化が形成されているといいます。

 

日本のY Combinator参加企業1社という歴史が物語っていること

これだけY Combinatorはアクセラレータープログラムとして不動の地位を確立しつつ、日本からは遠い存在のようです。現に、日本のY Combinator参加はこの夏も0社、2005年設立からみてもわずか1社にとどまっています。

「グローバル向けサービスだからいい、ドメスティック向けはダメと思っているのならそれは違う」と、久保田氏。ドメスティック展開のスタートアップもいて、日本の起業家のクオリティも海外と遜色ないといいます。

違う点があるとすると、「英語」と「プレゼン力」。

「英語でプレゼンを下手でもやりきって人とコミュニケートできるところは、日本の起業家は不利。皆プレゼンがうまいので、プロダクト自体は弱くても資金調達はうまい起業家はいる。資金力は勝負の分かれ目になるので、プレゼンタブルの起業家をよしとするカルチャーもある。その中でもまれたら、日本人ももっと自信を持てるのではないか」

 

トレンドは、ファンダメンタル

「1、2年前はAIや自動運転といったハイパーテクノロジーが目立つも、最近は人の寿命を伸ばそう、学校の教育を変えよう、癌を治そう、効率良く食事を摂ろうといった、ファンダメンタルなアイデアが多い」と前田氏。癌治療で数社、バイオテックで10社以上登壇しており、バイオテックにいたっては「ゲノム解析コストが安くなったことが影響し、エコシステムが構築されようとしている」と久保田氏は解説。

そんななか、彼らが注目しているY Combinator出身スタートアップは以下のとおり。

 

洋服のように家具を1点から気軽にレンタル

林口氏は、ありそうでなかったサービスを展開するスタートアップを中心に紹介。

株式会社DGインキュベーション マネージングディレクター・林口哲也氏

  • Mystery Science
    小学校の先生が理科や科学といったサイエンスの授業を教える際、専門家が予め用意したビデオをもとに授業を進めるというもの。先生が必ずしもサイエンスに詳しいわけではないのと、見せたほうが早くわかることもある。クラスの皆でディスカッションできるような授業進行もサポート。学校側で課金する仕組みがとられている。
  • SMBRate
    中小企業向け融資横断サービス。自社が設立何年目で年商規模はどれくらいといった基礎情報を入れると、事業融資数やどの程度の規模融資が可能か算出してくれるというもの。単独で資金提供先を探すのは大変だが、これを使うと資金ニーズがあるところがわかり、成長やトレンドが時系列で確認できる。
  • AssemblyAI
    カスタマイズ可能なスピーチ英語サービス。音声データを認識化しテキスト化してくれるだけでなく、業界固有の言葉のカスタマイズも可能。営業電話のモニタリングの解析や、YouTubeのビデオコンテンツを自社と競合他社とで比較等に使われているという。
  • Feather
    家具のレンタルサービス。1点から数点セットのパッケージまで月額いくらで家具を借りることができる。家具も気分や季節、家庭環境で変えられるという発想が面白い。最近、大型の資金調達を果たし、BtoBのサービスも展開。

 

個々に合った癌治療の薬を判別

前田氏は、自身が投資しているというY Combinator出身の20社からPICK UP。

BEENEXT マネージングパートナー・前田ヒロ氏

  • Lob
    紙の印刷と配送を自動化するAPIを提供。これを使うことで、配送先に近いところで印刷し発送される。日本でいうラクスルのようなもので、元マイクロソフトのメンバーが創業。約30億ドル調達。
  • Instacart
    元amazonの物流担当が立ち上げたおつかい代行サービス。牛乳やクッキーを注文すると、一番近いスーパーから第三者が購入し、家まで届けてくれる。670億 調達し、時価総額は3,000億以上にものぼる。スーパー内に置いてある商品や配置、効率のいい送り方といったデータとロジスティクスを駆使。いいりんごやきゅうりの選び方もショッパーと言われる購入代行者に教育。
  • Notable Labs
    100万通りもの薬の組み合わせから、個々の癌細胞に合うものを判別するサービス。理論上、30年くらいかかると言われていたが、ビッグデータやプリディクティブ・アナリティクスを組み合わせることで、2週間に大幅短縮。現在、白血病に特化しているが、今後は脳腫瘍にも展開。創業者はヘッジファンドマネージャー出身。父親が脳腫瘍で亡くなったことがショックで、UCLAやバークレー大学の教授らと組み、発見したという。
  • Simbi
    英語のレッスンを教える代わりにギターを教えるといったバーターの経済を作ろうとしている。類似サービスは他にもあるが、KJという女性経営者のプロダクトエッセンスがきめ細かく、登録の流れや登録後のメール配信、ユーザフローが繊細に設計されている。数字を見ても経済が成り立っている。トリックは独自の仮想通貨。需要がないとバーターは成り立たないが、うまくバーターエコノミーをつくっている。
  • HEAP
    KPIを設定するために必要なデータを取得する際、コードを組み込まずとも一行だけ挿入することで、全てのデータが取り出せるサービス。あとからKPIを設定しても問題なくバックトラックできる。元Facebookのクライアントマネージャーである創業者が立ち上げた。現在、約40億ドル集まっている。

 

ゲノム編集の新領域

久保田氏は夏のバッチで注目を集めた自動運転サービスからゲノムにいたるまで披露。

株式会社WiL パートナー・久保田雅也氏

  • May Mobility
    自動車メーカーの研究職やエンジニア職、大学でロボット研究室に属していたメンバー等集結し、特定エリアでの自動運転サービスの実用化に取り組んでいる。バス型の車両が特徴で、利用実績とデータを蓄積する戦略をとっている。
  • Contract Simply
    建設業の工程管理をクラウドに集約するツール。おもてはそれを無料で提供するも、裏ではしっかり業者間の請求や決済で課金する金融プラットフォームとして位置する。売上も今期400万ドルの予定と、実事業が立ち上がった会社が増えているのも最近のY Combinatorの傾向。
  • PullRequest
    別の会社で働いているトップエンジニアにコードレビューだけをクラウドソーシングするサービス。エンジニア向けのツールを出し、プログラムテストやダークローンチを自動化する等、デベロッパーのかゆいところに手が届くものを展開。いかにデベロッパーに気に入ってもらえるかが鍵。
  • Original Tech
    ローンの中小金融機関向けクラウドシステム。金融機関が導入するとオンラインでレンディングできるというもの。Fintech領域において、スタートアップは自社のブランディングではキャッチアップできず、顧客獲得コストが高騰するといった課題と直面。金融機関のトップランに貢献するFintechツールがあるようでない部分へのアプローチとして期待がもたれる。
  • Rev Genomics
    大麻を害虫に強く、作付け効率が高くなるよう、ゲノム編集のテクノロジーで生産するスタートアップ。現在、大麻は成長産業のひとつと捉えられており、アメリカ28州で合法化されている。

 

投資家から見たY Combinatorの凄さ

会の最後に質疑応答が設けられ、会場から積極的な質問が飛び交いました。

「投資家から見たY Combinatorの凄さはどこにあるのか?」との問いに、三者三様の意見が出てきました。

林口氏は「運営力がずば抜けてレベルが高い」として、その理由を3つ挙げました。「1つめは、年2回200社以上登壇し、バッチをきっちりと回していく。2つめは、そのなかから大きく調達や注目を集める目玉企業が1、2社必ずある。最後は、フィルタリングという意味で、起業家と投資家ができるだけ本質的な議論ができるようファシリテーションがある」。当日になって来るメールで登壇者一覧と「興味がありますよボタン」「投資したいボタン」が配され、機械的にマッチングできる仕組みがあるといいます。

2010年から計10回ほど参加している前田氏は、「決してY Combinatorが突出して優れているわけではなく、タイミングがよかった」と振り返ります。「あの仕組みを2005年にやり、数年でDroboxやAirbnbを輩出し、それがブランドとなっている。そうしたところに人は集まりやすい」。

自分たちの勢いを止めず、ひたすら新しい取り組みをしているところも評価すべきポイントで、「Y Combinatorに参加していなくてもオンライン(MOOC)上で受けられ、ディスカッションにも参加できる「スタートアップスクール」があったりする(久保田氏)」といいます。

一方、久保田氏は「Y Combinatorだけかいつまんで見るより、シリコンバレーのエコシステムにうまく入り込んでいるのが差別化のポイント」と解説。

「Demo Dayで知ったサービスがほかに流用されてしまう心配は?」との質問に対しては、「情報をコントロールするのは難しい(林口氏)」と率直な意見のほか、「フェーズにもよると思うが、プロダクトと市場の適合性がない場合はアイデアの検証をしたほうがいい。それがなされているのであれば目立たないほうがいい。資金調達やなにか目的があるならいいが(前田氏)」とコメント。

「ICOへの印象」について聞かれると、「シリコンバレーではそんなにホットではない。ドットコムバブルを経験している人はシビアに見ている。日本では毎日ICOの問い合わせが来る(前田氏)」「ICOバブルは弾けたんじゃないかと言われている(久保田氏)」というように、シリコンバレーと日本では印象に開きがあるようです。

「見込み額でもピッチしているのはなぜ?ロジカルな説得力があるのか?」という質問に対し、林口氏は「おそらく案件として受注できていないのではないか」と見ているといいます。

「そうした起業家は、できるだけ早いタイミングのものを実績として見て欲しいという思いがある。見込み額だとしてもどのフェーズにあるかは投資家も見ているので、必ずしもネガティブじゃない。ただ、似たようなビジネスで受注している実績がある会社が他にいると、そちらに目がいきがち」と、本音も聞こえてきました。

木村も「スタートアップが解決できる課題が大きくなり、シードステージのスタートアップでも大手企業や自治体等と取引を始めているチームも増えてきた。リーンにスタートアップできる環境が整ってきたことも影響しているのではないか。現地では、オープンイノベーションという言葉こそあまり使わないが、当然のようにそういったコラボレーションは増えている」と解説。

「ほかにもたくさん面白いプログラムはある。ぜひ現地に行かれるチャンスがあれば、積極的に運営側にコンタクトをとってほしい。知りたいことは何で、自身がどういうバックグラウンドの人間か伝えれば、きちんと対応してもらえる(林口氏)」

「Y Combinatorは最先端のトレンドを捉えている。半年に一度のDemo Dayで一社ずつどういう市場を狙っているか考え調べると、最先端のトレンドを狙える(前田氏)」

「Demo Dayに出る起業家はプレゼン力だけでなく熱意がすごい。ここから何としてでも這い上がるという意気込みが感じられる(久保田氏)」

加えて久保田氏は、「日本人はこれまで一社しか参加していない。現在、来年の冬バッチを募集しているので、ぜひ参加してほしい」と締めくくりました。