オープンイノベーションは当然至極なフランス、ドイツの取り組み

 addlight journal 編集部

6月25日、株式会社アドライト主催のもと、海外のオープンイノベーションやトレンドをキャッチアップするイベント「Trend Note Camp 15 ヨーロッパに見る官民イノベーション共創〜フランス、ドイツほか〜」をFINOLABにて行った。

本イベントでは、ゲストスピーカーとしてFutuRocket株式会社 代表取締役・美谷広海氏、World Innovations Forum Japan AMBASSADOR(日本代表)・Christian Schmitz氏が登壇。日本よりオープンイノベーションが先行しているドイツやフランスを中心に触れた。

フランスこそがオープンイノベーションのホットスポット

オープンイノベーションやスタートアップ分野では、中国・深センやアメリカ・シリコンバレーが現在その名を轟かせている。しかし、「フランスこそがこれからのホットスポット」と美谷氏は言う。オープンイノベーションの祭典「Viva Technology」を例に解説した。

Viva Technologyはフランスの大手企業とイベントがコラボレーションしてできたもので、各社が100社前後ずつピックアップするスタートアップのブースで構成される。出展するスタートアップは、各大手企業が課題を出し、解決策を提示した先を選定のうえ決まる。

こうした形をとる背景に大きく2つの背景があると美谷氏。一つ目めは「雇用形態」。フランスは雇用形態が日本と似ている。企業側は社員を辞めさせることも少ない分、採用も少ない。さらに、企業はコストの高いR&Dを抱える代わりに足りないものを補う業務提携やスタートアップへの小額投資が多く、これもスタートアップがフランスで活発化する原因だと氏は語った。

加えて、フランスの手厚い福利厚生も起因しているという。大手企業から独立し、起業後失敗しても元の大企業に戻れる仕組みや、起業中の失業保険が下りるなどのセーフティーネットも重要な役割を果たしていると分析した。

FutuRocket株式会社 代表取締役・美谷広海氏

FutuRocket株式会社 代表取締役・美谷広海氏

もう一つは「アフリカ市場への期待」。フランスはかつての植民地時代の背景から西アフリカへの影響力が大きく、次の新興国市場へのゲートウェイとしての注目が高まっている。企業側としても「既存の枠組みのない状態」から物事が始められるため、新しいものを作り出しやすいという背景がある。インフラも整っていない今がチャンスとばかりに、アフリカ市場を含めたフランス市場に期待が高まっていると見ている。

講演中にはニッチな国としてアンドラにも注目が集まっていると美谷氏。人口わずか7.5万人のアンドラは、EU加入国でないことを理由に、ブロックチェーンや仮想通貨まわりの取り組みが盛んだという。毎週月曜日にブロックチェーンのイベントが開かれ、100人以上のブロックチェーンやコイン発行者、マイニング、投資家などが集まるという。

主要産業を軸に、地方もイノベーションに積極的なドイツ

全世界で毎年80万社のスタートアップが起業するも、うち9割は初年度で失敗している実態を受け、「オープンイノベーションで多くのコラボレーションパートナーをつくり、マーケットからのフィードバックを早めに得ることが大事」と説くChristian氏は、EUとドイツを中心に触れた。

EUはポテンシャルがあるのについていけておらず、ベンチャーキャピタル投資も不足している側面があることを受け、EUにとどまらず、世界と協力しながらやっていこうという、「オープンイノベーション 」「オープンサイエンス」「オープントゥザワールド」が叫ばれているという。

たとえば、オープンイノベーション政策支援として、2014年、産業や大学、R&Dセンター、エンジェル投資家、個人事業主、クラウドソーシングを結びつける「OISPG(The Open Innovation Strategy and Policy Group)」を例として挙げた。市民をイノベーションプロセスに直接関与させることで実生活で迅速な起業家精神を育成し、雇用の創出や持続可能な経済、社会的成長を促進するというもので、ヨーロッパ全体で各国や組織が協力体制のもとイノベーションを実現する動きがとられているという。

一方、ドイツは政府、16州それぞれ予算を持ち、研究機関や発明、オープンイノベーションに取り組んでいる。各州にそれぞれ強い産業が点在しているため、地域単位でイノベーションが起こりやすい環境なのが特徴だ。なかでも機械やエンジニアリングに力を入れており、ドイツの主要産業のひとつでもある自動車産業を筆頭に、ホテルやタクシーなどプラットフォームがディスラプションしていることへの対抗策が求められているという。

ドイツの民間の支援状況を見ると、ドイツテレコムは17億ユーロ、SIEMENSは8億ユーロをスタートアップに投資し、SAPは2,700社のスタートアップに起業支援など続く。大手企業はベンチャーキャピタルやファンド経由投資、アクセラレータ経由でスタートアップを獲得し、中小企業はプラットフォーム経由でアイデアを募集し直接投資するケースが多いとのこと。

政府としてはハイテクストラテジーとアカテックストラテジーを行っている。前者は16州のなかにクラスターを作り、研究機関、大学、民間企業が公的機関に依頼し、オープンイノベーションに取り組むというもの。後者は民間と企業連携の全体的なドイツのイノベーションを支援するというものだ。

World Innovations Forum Japan AMBASSADOR(日本代表)・Christian Schmitz氏

World Innovations Forum Japan AMBASSADOR(日本代表)・Christian Schmitz氏

ドイツ発「Industrie 4.0」は、シリコンバレーにドイツはどう対応していくか?という観点から様々な社会・製造業に革命を起こすことを目的に立ち上がっている。ドイツの文部科学省や経済産業省がリードして取り組んでおり、工場同士、商品と機械、機械間のコミュニケーションを可能にすべく、ドイツとしてどういう企画でどのような構造でものを作り上げるかを世界発信している。

ここで大事にしているのが「統一された規格を出す」こと。海外のスタートアップとコラボレーションするときに文化の壁に悩まされることが多いためだ。

ほか、クラウドソーシングでスタートアップや研究機関のアイデアソーシングをプラットフォームとして展開のほか、女性専用のスタートアップ支援「WEP(Women’s Empowerment Principles)」、ICTをメインにした企業を集めてシリコンバレーに送り出す「German Accelarator」を紹介。「High-Tech Start-up Fund」というミュンヘンやベルリン等の大学研究機関から卒業し、スタートアップを立ち上げることを支援しているファンドも存在するという。

エンジェル投資家に対しては税金20%削減を優遇し、ドイツの経済産業省は半年に一度の割合でスタートアップナイトを開催するなどの投資機会を増やす策もあるとのことだ。

日本でオープンイノベーションを加速させるには?

後半のパネルディスカッションでは、日本でのオープンイノベーションについて語られた。

美谷氏は日本のスタートアップについて「技術的には面白いが課題設定が甘いことが多い」とコメント。参考としてフランスのブランドやプロダクトマーケティングの戦略に触れた。同じ東アジアとして、中国の深セン市が新しい分野、ドローン、AI、ロボティクスなどに強く、その影響を受けた台湾がハードウェア部門で盛り上がっているとも述べた。イスラエルではブロックチェーンやAIに関するイベントが多く、アメリカではGoogle やFacebookのM&Aにより吸収され、袋小路になっているとの考えを参加者と共有した。

スタートアップとのコラボレーションを狙う企業にとってスタートアップの選定は非常に重要だ。有名な企業が既に大手とコラボレーションしていく中、どのように国内外のスタートアップ情報を集めるのだろうか。

美谷氏はこの疑問に対して「スタートアップに調査を依頼すべきです」と回答する。「スタートアップについて一番詳しいのはスタートアップですし、調査をすることでスタートアップ自身も大企業が何を知りたいのか、何を課題として持っているのかを知ることができます」と語った。

また、Christian氏も美谷氏も「人とのつながりを密にすること」や「スタートアップが日本を訪問するときにオフィスを貸し、ワークショップなどを開催」することを提案した。場所を提供し交流を深めることでインプットの場にもなりうるメリットを示唆した。

海外から見て、日本に必要なものを聞かれると、Christian氏は日本企業のマインドセットチェンジの必要性や迅速に統一した規格を出すことの重要性を繰り返し語った。一方で美谷氏はデザインやプレゼンテーションの向上、それぞれの企業が課題意識を持つことの必要性を説いた。
「日本のスタートアップ業界では、まだ東京オリンピックのPRイベントのような官民の素晴らしい協力体制の獲得にまで至っていません」(美谷氏)
官民が協力し、課題設定を行うことに日本のスタートアップ振興の糸口が見えそうだ。

取材を終えて

個人や会社単体ではアイデアの幅も技術も狭い。より多くの人と関わり、お互いを刺激しあってこそイノベーションは生まれるのだろう。

最後に、Christian氏はオープンイノベーションのメリットとして以下を語った。

  • 社内だけだと限りあるノウハウへのアクセスになるが、外部と組むことで新しいアイデアやインスピレーションを得られて相乗効果がにつながる
  • クラウドソーシングのプロトタイピングによりタイムマネジメントの短縮が可能となる
  • リスクヘッジ、柔軟性の向上が可能に
  • 才能のある人材が獲得できる

さらに周りに目を向ける必要性がありそうだ。

 

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