大卒の約半数が起業!マレーシアのスタートアップを支える人々

 addlight journal 編集部

マレーシアのサイバージャヤでスタートアップへの支援を行う「Malaysia Digital Economy Corporation Sdn. Bhd.(以下、MDEC)Digital Economy Specialist・Mohd Atasha bin Alias氏に、MDECの活動やマレーシアのEXIT環境等伺いました。

MDECとは?

——MDECについて教えていただけますか?

マレーシアのルックイースト政策下で1996年に設立されました。初期の投資者にNTTグループほか数社の日本企業が参画してくれました。私達はスタートアップまわりのコミュニティ作りを掲げ、海外からの投資を束ねるためのあらゆる活動をしています。

私達が投資をするのではなく、スタートアップと投資検討企業を結ぶという役割が大きいです。あるスタートアップが著名なVCに会いたいとしてもすぐにアポイントをとることは容易ではありません。そこで我々がスタートアップの声を聞いて査定し、推薦という形式でVCに紹介するのです。そうすると、大抵VCは時間を割いてくれます。

MDEC Digital Economy Specialist・Mohd Atasha bin Alias氏

MDEC Digital Economy Specialist・Mohd Atasha bin Alias氏

私達はICT分野に特化していて、例えばマイクロソフトなどが実際にマレーシアで投資をしています。

充実したスタートアップの支援はあるもEXITは先

——スタートアップへのフォローが手厚いですね。

我々の課題認識として、マレーシアをBPO(ビジネス・プロセスアウトソーシング。ここでは、マレーシアが他国のビジネスを行うために安価で製造を行う地としての意味)としてこれ以上成長させることは見込めないだろうと考えてきました。したがって、国全体でアントレプレナーを育ててスタートアップを育成しようと舵がとられることになりました。現在、大学卒業後、約半数は起業しています。

MDECの直接の取り組み以外にも、マレーシアには有力な取り組みがいくつかあります。まず政府政策として、今は小学校からプログラミングを学ばせています。これは単にITスキルを身に着けさせようということではなく、クリティカル・シンキングを学んでもらうことを意図してもらうものです。記憶を中心とした教育は、もはや機能していないよねということを理解していたからです。

また、国外からの入居希望のアントレプレナーに対してVISAを取得しやすくしています。何か事業案があるアントレプレナーに対してtech-VISAといわれるVISAを発行するようにしているのです。我々がこの政策を実施し出した数ヶ月後には、マレーシアやタイも同じことを模倣したのですが、それはある意味、私達の政策が正しいものであることを示しているでしょう。

——MDECはMaGICとどう違うのでしょうか?

MaGICはプレシード・シードラウンドからはじまり、Cradle(政府系のプレシードVC)のようなVCから資金が供与される仕組みをつくっています。MDECはより成長したスタートアップに対して支援を行うという違いがあります。

——マレーシアでのEXIT環境はどのようなものですか?

EXITを望むスタートアップは多いですが、実際のところマレーシアでのEXITは難しいと思います。現在、MDECでは買収を行う大企業(=バイヤー)を増やすため、大企業に対してロビーイングを行っています。スタートアップが買収されることが増えればマレーシアでエコシステムを構築することに繋がると考えています。

例えば、起業家がビジネスの地を探した時に「マレーシアに行けばEXITがしやすい!」と思わせられれば、それがより多くのスタートアップのマレーシア進出を促すことに直結するはずです。

日本の気になるスタートアップ

——今後日本の大企業・スタートアップと何か一緒に取り組みたいものはありますか?

まず、今考えているのは、世界のそれぞれのエコシステム同士を橋渡しし、何か協力ができるのではないかということです。そうすれば、企業買収やオープンイノベーションを加速させられるはずです。その中で、日本のエコシステムと行いたいことは2つあります。ひとつは、グローバルにビジネスしたいと考えている日本のスタートアップは、マレーシアのスタートアップと協力をしてほしいということです。もうひとつは、日本の大企業でマレーシアのスタートアップに投資したいと考えているIT企業がいらしたら、ぜひ来てほしいです。

——日本のスタートアップの中でも気になっている分野はありますか?

AI関連企業は面白いですね。マレーシアにはあまりAIスタートアップがいない分、日本からスタートアップに来てもらいマレーシアの企業と協力してほしいという思いがあります。

オープンイノベーションを推進する立場で言いますと、AIやブロックチェーンなどもそうですが、話題性のある産業テーマだと大企業に協業が必要な説明をするコストが抑えられるという利点があります。ホットなトピックだと、ある企業が導入し始めた時に「自社も何か協業を行わなければなきゃ」という集団心理が起こるわけです。

取材を終えて

マレーシアの大卒半数が起業している背景には、国や政府が主導し支援体制や教育環境を整えていることが明らかとなりました。EXITしづらい課題が残るとはいえ、VISAの取得は比較的容易。これを機に、日本からも積極的に進出するスタートアップが1社でも増えることを願うばかりです。