マレーシアのグローバルイノベーション創造センター「Malaysian Global Innovation & Creatibity Centre(以下、MaGIC)」に焦点をあて、アクセラレータープログラムのありかたを問う(全2回)。前編は、MaGIC DemoDayのもようをレポート。
クアラルンプール国際空港からパームの樹林が続くのどかな風景を抜けると一転、交通量が格段に増え、建設ラッシュにわく光景に変わった。最先端のITインフラを整備した都市を設けて世界中の企業や人を呼びこみ、マレーシアを産業振興と都市開発を行うアジアのICTハブとする――1996年、マハティール元首相のもと大前研一氏が練り上げた「マルチメディア・スーパーコリドー(以下、MSC)」は、2020年に先進国入りを目指す「Vision2020」実現の国家プロジェクトのひとつとして着実に進められている。ここサイバージャヤはまさにその象徴都市。
同都市に位置するMaGICではこの日「Global Acceration Program(以下、GAP)」のDemo Dayが開催。映画さながらのハイクオリティなオープニング映像とともに幕を開けた。
はじめに、自身も起業家としてソーシャルコンテンツネットワーキングサイト「Joota」の最高執行責任者(COO)および共同設立者のキャリアをもつMaGIC CEO・Ashran Dato Ghazi氏が登壇。
「GAPはマレーシアのためのプログラムでもあります。地域を成長させるため、それぞれの国が野望を持っています。起業家にとって、私たち1人1人はビルダー。多くの会社がイノベーションやデジタルディストラプションのように変化(≒シフト)しているのを知っています。私達はどんな方法でどれくらい早く社会をよくできるでしょうか?なぜなら今の世界は急速に進歩しているから。その展望を理解することはスタートアップにとって非常に重要なことと考えています」と挨拶。
アジアを中心とした9ヶ国44組のスタートアップが登壇し、与えられた5分を使ってピッチを展開。そのなかから気になったサービスを紹介したい。
- Cafe bond.com(シンガポール)
世界中のカフェやローストパートナーから直接焙煎された専門家のコーヒー豆が味わえるアジア最大のコーヒー専門eコマースマーケットプレイス。現在、シンガポールとマレーシアのみだが、香港、台湾、中国、ロンドン等への展開を検討している。オフィスに定期的にコーヒーを届けることもできる。別に設けられたスペースでは選りすぐりのコーヒーの試飲がふるまわれていた。 - Inspired Soul(デンマーク)
「忙しい都心のイスラム女性のために、ヒジャブをもっと手軽に」。そんな発想から、インスタントターバンやTシャツ感覚で着れるロングスリーブTジャブズといったユニークなもの、フォーマルな場所にも対応できるようシルク製のヒジャブを取り扱う。「ムスリム女性はファッションに敏感。個性的なスタイルでアイデンティティを確立するために我々は存在している」。美しくもたくましい言葉が続いた。 - KONSERKU(インドネシア)
登壇時、ひときわ歓声が高かったKONSERKUは、同じ都市にいるファンの声をもとに招待アーティストを決め、興行の成功を確実なものに近づけるプロモーターのためのサービスを展開。「イタリアのある都市で某バンドファン1000人が集まり、代表的な1曲を皆で演奏。それをビデオで見たバンドが感動し、その都市に訪れ演奏した。このできごとが私を起業へと突き動かした」。情熱は連鎖する。 - SwapIt(マレーシア)
「渡航先で両替したほうが安い」「どうせならレートのいいタイミングで両替したい」「帰国しても空港でも両替できない通貨もある」等、自由度が高くない外貨両替。それがアプリ「Swaplt」を使うことで、中間市場の為替レートでExchangeできるデジタル通貨両替サービス。現状はマレーシアとシンガポールに口座をもつ人に限られる。
MaGICで手ほどきを受けているのかもしれないが、ピッチの構成はおおよそ下記のとおり。
- PROBLEM(課題)
- SOLUTION(解決策)
- MARKET SIZE & OPPORTUNITY(市場規模、機会)
- BUSINESS MODEL(ビジネスモデル)
- COMPETITIVE(競合)
- BOTTLENECK(ボトルネック)
- TEAM(チームの紹介)
- THE ASK(問い合わせ先)
5分でピッチを終えられない登壇者はダークな音楽とともに強制終了させられたり(あくまでユニークな演出)、司会者が少し笑いを入れる等して進行もテンポよく、そして飽きさせない工夫がなされていた。同プログラムは10月まで続く。
取材を終えて
会場に足を踏み入れたときから感じていた何かは、ピッチを聞いても変わることはなかった。類似イベントでありがちな独特の突き放し感や必要以上によく見せようとするふるまいは皆無。多民族国家ならではの度量の広さなのか、誰もを受け入れる空気が漂っていた。加えて、登壇者は熱狂していた。希望に満ち溢れ、起業という険しい道を心の底から楽しんでいるように見えた。インドネシア語で「jaya」は「栄光」や「勝利」を意味する。「cyberjaya」をマレーシアに栄光をもたらす場所にするという覚悟が見え隠れした。
後編「大企業とスタートアップの協業にはマインドセットを変えることが必要」につづく