社会を変革するサービスを作りたい——WebPay創業・売却後、LINE Payの立ち上げにも携わった久保渓氏(以下、久保氏)は無人コンビニ事業を手掛ける600株式会社を創業。2月13日、株式会社アドライト主催の「Fin Book Camp 11 LINEに事業を売却した連続起業家が挑む『無人コンビニ経営』」に登壇し、起業や経営者としての思いを明らかにした。
社会を変革させるサービスに情熱を注ぐ
久保氏の起業家人生は大学時代まで遡る。在学中にサンフランシスコでクラウドホスティングのスタートアップ「fluxflex」を創業。続いて創業した開発者向けクレジットカード決済サービス「WebPay」を1年半ほどでLINEに売却し、LINE Payの立ち上げに参画する。LINE Payでは2年半かけてユーザ数3,000万人を達成し、国内最大級のモバイルペイメントサービスに成長させた。
その後は子供が産まれることもあり、すぐに新たな事業を始めるつもりはなかったが、無人コンビニへの興味を持っていた。クラウドやFinTechという社会を変革しているサービスに携わってきたなか、無人コンビニも同様な存在だと感じていた。
エンジェル投資家としてアメリカの無人コンビニ事業会社への投資も考えていたが、やり取りがあった数か月後にその会社は買収されてしまった。このできごとがきっかけで創業を決意する。「どうしても無人コンビニをやりたい気持ちを抑えることができなかった」と久保氏は振り返る。
共同創業者は必ずしも必要ではない
こんな話を聞いたことはないだろうか。
“スタートアップの創業にCo-Founderは必須である”
アメリカの著名なアクセラレータープログラム・Y Combinatorのポールグレアムが強調する共同創業者(Co-Founder)の必要性だ。彼はそれぞれの強みが活かせることや、1人では処理すべきタスクが多くなってしまうという点で共同創業者を持つことを強く勧めている。それもあってかY Combinatorでは共同創業者なしで参加することはできないというルールがある。
久保氏も起業の度に共同創業者をたてていたが、600ではあえてやめた。共同創業者がいないことのメリットは「すべてを自分でコントロールできる」。それは全責任を負うという強い意思の表れでもある。「ロゴ1つ、色合い1つに関しても意思決定を行わなくてはならない」
どれほど仲が良かったとしても1つの決定に対しての説明責任は必ず付きまとう。1人で創業した場合はこの意思決定に対する説明プロセスが省かれ、自分の思うとおりに会社を動かすことができるようになるのだという。
「僕の場合、共同創業者を相談相手として見ています。どんな状況であれ、意思決定は1人で行うもの。そうでなければ意思決定の質が低くなっている可能性が高いですね」
週休3日制導入の背景
600のユニークな制度に「水土日の週休3日制」がある。「無人コンビニというコンセプト上、消費者が消費行動を起こしてもらうよう働きかける必要があります。ずっと仕事を続けていると消費行動に対するイメージが鈍ると思って」と、持論を展開。消費活動データからこの商品を置いてみようではなく、どの商品をどこに置けるのかという感覚を大切にしたいという。
加えて、週休3日制にしたことのメリットとして「毎日仕事に情熱を注げる」を挙げた。たとえば日報も毎日ではなく、2日分まとめての提出にしている。急ぎの対応等で気を取られてしまうと提出自体が目的となり、報告の質の低下に陥りがち。提出遅延へのストレスも蓄積し、モチベーションダウンといった負の連鎖も起きてしまう。これらを解決するために必要な期間という。
「喜怒哀楽を表現する欄も設けていて、社員へのこまめなケアやコミュニケーションにも一役買っています(笑)」
自分は何を目指しているのかを意識する
会場ではスタートアップを創業した後、大規模な組織に加わり中間管理職をしているというオーディエンスより、大きな組織での立ち回り方や社内調整の難しさへの質問が飛んだ。
「スタートアップの場合は素早い意思決定を行える反面、リソースが限られます。大企業の場合、進め方、社内調整に時間はかかりますが、だからこそ使えるリソースがあり、そのリソースがなければできないこともあります」と久保氏。「スタートアップであっても、大企業にとっても目標に対して、行動していくことが大切です」
「どんな状況でもMust Can Will(しなければならないこと、できること、したいこと)を意識的に考えていく必要があります。大きな組織では意思決定プロセスや何を重視しているのかといった要素分解を行いやすいので、時には長い時間をかけて思った方向に動くようにしていきました。」
また、久保氏は、今目の前に起きようとしている社会変革への執着が強く、やりたいと思い立ってしまうと他の事への興味が薄れてしまうのだとか。かつて携わっていた領域に関しても同じく、今はとにかく無人コンビニしか見えない。
次なる社会変革は無人コンビニから起こすのだという強い想いがそこにはあった。