株式会社アドライトが主催するイベントシリーズ「Trend Note Camp」では、世界で活躍する起業家や投資家の方々に、アメリカやアジアの最先端ベンチャーのトレンド・ビジネスモデルなどをプレゼンテーションいただき、その後、参加者の皆さまを交えてパネルディスカッションを行っています。
第5回目の今回のテーマは、「中国フィンテック最前線」。昨今ますます注目が高まっているフィンテック分野において、中国は目覚ましい発展を遂げており、アリババグループによるAlipayやTencentグループによるTenpay(Wechat Paymentとも呼称される)などは中国国内のみならず、アジアを中心とした多くの地域に広がりを見せています。今回は、そんな中国のフィンテック分野におけるこれまでの概況と最新の動向について、ChinaStartupNews編集長の家田昇悟氏にご講演いただきました。
中国のスタートアップ元年とBATの台頭
家田氏による講演は、まず中国におけるフィンテックの概況についてのお話から始まりました。
家田氏が中国のスタートアップ元年と呼ぶ2011年は微信(Weixin)がローンチされ、スマホアプリの存在が広く認知されるきっかけことにもあり、スマートフォンが劇的に普及したそうです。また、中国のスタートアップへの資金流入は日本と比較して約13倍に及ぶ1.5兆円規模となっており、同分野が盛況にあることが分かります。ここからお話はAlipayやTenpayに代表されるモバイルペイメント分野へと進んでいきました。
中国のモバイルペイメントとそれを牛耳るBAT
現在の中国のモバイルペイメント分野は、BATによってほとんどそのシェアが牛耳られているといいます。BATとは中国三大IT企業のそれぞれの頭文字で、Bは百度(Baidu)、AはAlibaba、TはTencentを表しています。ここからは、BATがそれぞれどのようにサービスを展開してきたのかという、その沿革と特徴についてお話をいただきました。
百度はもともと中国版Googleとも呼ばれていた検索サイトや地図サービスが主軸でしたが、その後、マネタイズの部分と決済の仕組みはAlibabaとTencentには劣っていたことから衰退していきます。中国国内では、「BAT」ではなく「AT」が良いのではないかという声が上がるほどのようです。
AlibabaはtoBの情報発信サイトとしてスタートし、その後2003年のebayの中国進出のタイミングでeコマース事業に参入。さらにフードデリバリーサービスや配車サービスにも進出していくなかで、決済の仕組みに課題があることを認識。独自の決済システムとしてAlipayをローンチし、eコマースやマーケットプレイスの分野で急成長を遂げました。ただし、ユーザーを流入させる仕組みに弱みを感じていたため、中国版Twitterと言われる新浪微博への投資を行ったりもしているようです。
Tencentは中国語で微信(Weixin)、英語版ではWechatと呼称されるチャットアプリが事業の基盤で、ユーザー流入においては圧倒的でした。しかし、マネタイズの部分で弱みがあったTencentは、中国版Amazonと言われるJD、中国版食べログと言われるDianping、中国版Uberと言われるDidiなど様々なサービスへの投資を実行。それらを自社決済サービスのTenpayを通じて決済してもらうことでマネタイズの課題をクリアしていきました。
さらに、家田氏の講演の中では、BATに比肩する規模に成長してきているXiaomiについてのお話もあり、廉価版のスマートフォンを武器にして、既存のネットワークの外部から業界への進出を試みているとのことでした。
AlipayとTenpayは中国におけるモバイルペイメント分野において双璧として君臨していますが、2013年頃まではAlipayが圧倒的なシェアを誇っていて、Tenpayはここ数年で、SNS上でのユーザー間のネットワークを利用したCtoCの送金サービスやオフラインでのネットワークを活用したサービスなどでシェアを拡大させてきたようです。その後、お話はAlipayとTenpayがどのようにオフラインでサービスを拡大させていったか、そして現在モバイルペイメントはどのように利用されているのかといった方向に発展していきました。
オフラインへの導入と、モバイルペイメントの利用状況
AlibabaとTencentの両社は口コミサービスへの投資通じて決済サービスのオフライン展開を積極的に行っていました。レストランを中心とする口コミサービスの展開は、既存のユーザー基盤をオフラインのサービスとリンクしコンバージョンさせることが狙いであり、必要不可欠なものであったとのことです。配車サービスへの進出も同様に積極的に実施。また、Tencentに関しては2014年の旧正月期間に行われたお年玉キャンペーンが印象的で、ゲーム性を伴った個人間送金サービスを展開し、2日間で2億枚の個人銀行カードとリンクさせることに成功しました。
そして、現在の中国におけるモバイルペイメントサービスの利用状況としては、QRコードをサービス側で発行し店舗で読み取ってもらう、または店舗側にQRコードを発行しユーザーが読み取る、といった手法でオフライン店舗における利用がメインになっているようです。その他では、金額の手動入力の利用やクーポン併用の利用も多くみられている、とお話いただきました。
なぜ中国ではモバイルペイメントサービスが進んでいるのか
最後になぜ中国ではモバイルペイメントサービスが拡大したのかを、日本における拡大のボトルネックも含めお話いただきました。中国でモバイルペイメントサービスが拡大した要因は主に4つあり、1つ目にWeixinのようなSNSサービスが銀行口座と連携しやすかったことがあったようです。中国ではキャッシュカードで本人確認まで行えるため、サービスと口座を連携させるハードルが日本に比べて低いことが後押ししました。2つ目には、デビットカードの普及がもともと進んでいたこととデビットカードとQRコードとの親和性が高かったことを挙げられました。そして3つ目には、Weixinは、短文投稿、長文投稿、チャット、画像投稿のようなSNS機能をひとつのアプリで網羅していて、決済プラットフォームを展開しやすかった点。最後の4つ目には、中国では偽札のリスクが高くことと高額紙幣が無いことから現金の使用が不便であったことを挙げられました。また、家田氏のご指摘によれば、これらの点に加えて、社会的または文化的に新しいものへの好奇心の強さ、世代によらない情報リテラシーの高さなどが、日本と違いモバイルペイメントが爆発的に拡大した裏側にあるだろうとのことでした。
今、モバイルペイメントで全てが完結するようになってきている中国社会は、その変化のスピードがとにかく速いようです。非常に示唆に富んだ家田氏の講演は、現在の中国におけるFinTechの概況を知るだけでなく、今後の状況占う上でも参加者の皆様にとって大変有益なものでした。
AlipayやTenpayの今後の展開に注目が集まる
最後に、弊社代表木村ファシリテーションのもと参加者の皆様からの質疑応答を交えたパネルディスカッションを行いました。
パネルディスカッションは、参加者の皆さまから数多くの質問をいただき活発な意見交換の場となりました。
中国ではスタートアップの参入が難しいのか、今後Alipayが日本にローカライズすることはありそうか、モバイルペイメントの発達をうけ中国の銀行はどう反応しているのか、TenpayとAlipayの住み分けはどうなっているのかとユーザーは片方だけを利用するのか、両方利用するのか、信用管理へのサービス展開を考えた時、例えば法人データを保有しているプレイヤーいるのか、モバイルペイメントサービスにおけるネット犯罪は生じているか、物流業界の崩壊といったことも耳にするが人口の多い中国においてどうなっているのかと代引きのようなサービスは存在するのか、取り扱われる商材に関する規制の有無、決済額の上限の有無など、皆さまこのチャンスを逃すまいと様々な質問を家田氏に投げかけている姿が印象的でした。
パネルディスカッションの後は、登壇者と参加者を交えた懇親会。積極的に情報交換をや名刺交換を行う姿が目立ちました。
最後に
もはや市場として日本にとっても非常に魅力的に成長している中国ですが、その中国におけるFintech分野の成長は、とりわけモバイルペイメントという決済手段の変革という文脈で重要な意味をもっていることと思います。事業者の皆様には、今回のTrend Note Campを通じて、同国におけるモバイルペイメントサービスのこれまでの概況と最新のサービス展開について知見を深めていただけたことと思います。Trend Note Campでは、今後も日本に届いていないホットなスタートアップ情報を様々なテーマのイベントを通じてお伝えしてまいります。本記事、その他お問い合わせがございましたら、ぜひこちらからお気軽にご連絡ください!