「Fin Book Camp」は、株式会社アドライトが主催する、起業家のための資金調達や資本政策など、ベンチャーファイナンス全般に関するテーマを題材にした勉強会シリーズです。
第5回目は、日本で初めてとなる未公開ベンチャー企業の資本政策データベース化を実現させた株式会社ジャパンベンチャーリサーチ(JVR)の北村彰相談役をお招きし、2012年以降年々増加する国内スタートアップの資金調達について、直近の2016年の総まとめとしての概要やトレンド、注目の国内スタートアップ企業の個別事例紹介などをお話し頂きました。
当日は、注目度の高いテーマということもあってか40名強の起業関係者の参加者にお集まりいただき、有料会員のみが閲覧できる非公開なものも含めて、貴重な情報やスタートアップエコシステムに対する見解をお話いただきました。
北村氏は、日立製作所でSEとしてキャリアをスタートさせて、その後は日本IBMで様々な役割を担当したのち、日本オラクルの立ち上げ、日本グプタの設立、セールスフォースドットコムの日本支社設立で社長を務める等から、企業立ち上げ、事業再生、IPOのご経験など幅広くご活躍されてきました。その北村氏が手掛けるものが、ベンチャー動向データベースを軸にベンチャー、投資家、ファンドなどを探すための様々なデータや機能を提供するentrepediaというWebサービスです。2013年5月には、日本のベンチャー情報をグローバル化しようという趣旨で世界的なスタートアップデータべースプラットフォームであるDow Jones VentureSourceとも業務提携を行われています。
データベースには、実に未公開企業約10,000社、投資家約8,900社、ラウンド約50,000件、投資ファンド約2,000本の情報が集約されており、参加者の皆さまも食い入るように聞きいっている様子が印象的でした。プレゼンテーションでは、entrepediaに実際にログインいただき、実データに基づくレポート機能を活用しながら、投資トレンドについて詳しくお話をいただきました。
2016年の国内ベンチャー投資額は約2,000億円
現在集計中とのことではありましたが、2016年における国内ベンチャー企業へ投資された金額は約2,000億円とのことで、過去10年間で最高額となりました。ただし、その内容としては、過去10年とは少々異なっており、2010年前後のシードアクセラレーターの台頭によるシード期へのベンチャー投資が過熱した時期、またそれ以降でスマートフォンやアプリ関連のベンチャー企業へ投資が過熱した時期を経て、2016年は大型調達案件に牽引される形で全体の投資額が増加したとの見方を示されました。
その背景には、VCが大きく資金調達を行ったこともあり、2016年では直近では最大の3,000億円弱を国内VCがレイズしたとの内容もグラフを示しながら紹介頂きました。また、VC側の資金調達のトレンドとして、数年前の産業革新機構(INCJ)による税金の民間ファンドへの大型のLP投資が目立っており、あわせて2015年と2016年には文科省の予算による大学系VCの設立及び大型レイズの影響が強くみられるとのことでした。
2016年はIoT、ロボット、AI系のベンチャーへ積極的に投資
まずは、いくつかの企業の例を交えて、JVRデータベースのモデルについてご説明いただきました。JVRデータベースでは、売上、利益、資金調達、バリュエーション、従業員数、といったパラメータをもとに、成長の推移のインサイトを確認することができます。資金調達を行うスタートアップは、様々な狙いがあって実行する訳ですが、北村氏が特に強調されたことはスタートアップは黒字化を狙うのではなく赤字を出しても投資をしていくべきであるということと、そのためにVCが存在するということです。時系列で公開情報を追いかけていくことによって、プレスリリース(社内、外部メディア取り上げ含む)や事業提携のタイミングでは、資金調達があり人の増加があり動きが活発化していることが分かるとのこと。調達した資金の使い方は様々あるかと思われますが、優秀な従業員を獲得することの重要性を北村氏は語りました。
またJVRのデータベースの業種分類はかなり細かいツリー構造になっている。構造化は、システムに自動的に分類をさせているとのこと。資金調達総額の10%ほどは、海外で登記していて日本で活躍しているベンチャー企業となっているそうです。
最近の投資トレンドとしては、2013年頃を期に、スマホ系のアプリ等に対する投資は一旦落ち着いてきており、2016年のトレンドとしてはIoT、AI、FinTech、ロボットといった分野の投資数や金額が昨年の倍近くになるなど右肩上がりであり、この傾向は本年も継続されるであろうということでした。
日本が直面している課題としては、IoTなどものづくりをベースにしたベンチャーが少なく、投資家も投資先を探している状況があるとのことでした。
まだあまり知られていないベンチャー投資の全体像
その後は弊社木村のファシリテートのもと、質問タイムを含めたパネルディスカッション。どのように調達時のバリュエーションを算出しているのか、JVRのデータベースに掲載されるベンチャー情報の網羅性について、AI/IoT/FinTech/ロボットといった分野以外の投資分野の内訳はどうか、JVRのデータベースの更新頻度やタグの仕組みについて、JVRのデータベースの有料会員となっているユーザーはどういった企業/人か、2017年の投資トレンド予測を教えてほしいFintechやクラウドファンディング領域の日本における将来性について、お金が余っている投資家もいると聞くが実際はどうなのか、今後のentrepediaの方向性について、など幅広い質問が殺到。北村氏にはフランクにご回答いただいたことで、また弊社のベンチャー育成支援事例なども交えての対談により、活発な議論が繰り広げられました。JVRでは2016年の資金調達についての詳細レポート(有料版)を近日中に公開予定とのことでしたので、国内ベンチャー投資の最新の全体像を把握されたい方は、そちらも併せてご覧ください。
その後の懇親会でも、登壇者と参加者を交えて、名刺交換や情報交換を行う姿が印象的でした。
最後に
今回は2016年のスタートアップ資金調達総まとめという注目のテーマであったこともあり、盛況のうちに幕を閉じました。「Fin Book Camp」では今後も、第一線で活躍中の起業家をはじめ、」ベンチャーファイナンスに精通した弁護士や会計士、CFO、投資銀行や証券会社などのプロフェッショナルをお招きしての勉強会を予定しています。本記事やベンチャーファイナンス、または弊社のスタートアップ育成サービス内容に関することやその他お問い合わせがございましたら、ぜひこちらからお気軽にご連絡くださいませ。