大手企業とブロックチェーンのベンチャーが協業する際の心得

 Maxwell Weiss

2017年後半、ビットコインやイーサリアム等のブロックチェーン技術を使い独自に発行されたトークンによる資金調達「ICO」がピークを迎えるも、今年に入り、トークンの価格が大幅下落。ICOへの取り締まりも厳しくなり、ブロックチェーンに対する投資の考え方や投資額も徐々にベンチャーキャピタルに近づいている。その結果、ブロックチェーンを使ったサービスを提供するベンチャー企業は、さらに売上に注目する必要があると気づいたり、それを達成するために大手企業とのコラボレーションに興味を持ったり等、ベンチャーキャピタルからもお金を集めようとしている。

さらに、日本はブロックチェーンに対して前向きな姿勢を示していることから、ビジネスポテンシャルに惹かれて起業家が来日するケースが増えている。とはいうものの、大手企業とベンチャー企業のコラボレーションが成功しているとは断言できず、海外でも成功するとは限らない。

具体的にどのようなオープンイノベーションのチャンスがあり、ブロックチェーンという文脈ではどのようなチャレンジやどんな成功に導くことができるのか。去る7月17日から18日にかけ、わたくし株式会社アドライトのコンサルタントであり関連ファンドのマネジングパートナー・Maxwellがアジア最大級のブロックチェーンカンファレンス「BEYOND BLOCKS SUMMIT Seoul」のパネルディスカッションにモデレーターとして登壇。そこで出た話を通しての気づきや考察をお伝えしたい。

大手企業とブロックチェーンベンチャー企業のコラボの機会はあるのか?

モデレーターを務めたパネル「The Mainstream Effect – The Startup × Corporate Connection」では、大手企業とブロックチェーンベンチャー企業のコラボレーションの機会はあるのか?という題目のもとディスカッションした。

StormのCEOであり、Co-founderのSimon Yu氏は「様々な業界でブロックチェーンが長期的・根本的活躍のポテンシャルを有し、さらにスタートアップと大企業のコラボレーションにおいても可能性があります」と説いた。

理由は以下の3つだ。

1) 潜在的ポテンシャル
2) 社会に対しての公平な価値の創出と配当
3) FOMO(Fear of missing out)-皆がやっているから自分だけ乗り遅れないようにしたい

さらに、ブロックチェーン自体トレンドでもあるので、PR要素にもなり、ユーザーも増やしやすいタイミングであることを述べた。

ひとつずつ解説していこう。

1) 潜在的ポテンシャル

これまで最もブロックチェーンが良い意味で影響を及ぼすであろうと言われている業界は金融だ。銀行や海外送金サービスは昔から一定の課題を抱えているが、インフラが古いとか、システム間で連携がうまく図れていないといった技術的な要素が強い側面がある。そもそも現状の支払いシステムは、コストも高く非効率。これを特に感じるのが、流動性に欠け、他国との自由な取引が困難な「エキゾチックカレンシーコリドー」であると、StellarのDirector of PartnershipsのElla Qiang氏は言う。

移民の労働者を例にとると、海外送金は手数料が最大の課題。Stellarのプラットフォームはオープンソースでもあり、いわゆるコミュニティが主なオーナーであること、分散型であることがコスト削減に直接つながっているという。同社は非営利団体につき、こうした分散型組織を開発するローコストなソリューションに適していると触れた。

さらにElla氏は続けた。エキゾチックカレンシーコリドーに関して言うと、たとえば、タイに住んでいる移民労働者が実家のカンボジアに送金したい場合、半分も手数料として持っていかれるケースもあるという。そこでStellarや日本発祥のTelcoinなどのブロックチェーンを活用した海外送金サービスは、1円以下のわずかな手数料で海外送金を実現。さらにその手数料は同社のコミュニティに分配されるという。今後、他業界でも非効率な取引も大手企業と組むことで、新しいビジネスモデルや改善する方法を模索することができると期待している。

2) 社会に対しての公平な価値の創出と配当

Facebookがソーシャルメディアを独占し、Googleが検索を独占するように、何かしら価値を創り、それで得られる利益はひとつの組織に集中しているのが実態だ。彼らはユーザーデータをレバレッジして広告モデルで収益を上げるプラットフォームのビジネスモデルを確立している。

ユーザーは彼らの価値醸成に貢献しているが、上記の価値や収益に還元されない。このポイントはOrbsのCo-FounderであるUriel Peled氏が苦言を呈した。同社が取り組んでいるのはまさにこの部分で、イーサリアムのブロックチェーン上でdApp(分散型ネットワーク上で走るトークン型アプリケーション)を開発するためのパブリックブロックチェーン技術を開発している。

同社の目的は、dAppを沢山の人に使ってもらうことにより、ユーザーの多くがブロックチェーン上での取引を習慣にすることだ。その手段としてプラットフォームを集約型から分散型に変えようとしている。現在、SNS会社やAdTech企業と組み、企業の収益がユーザーに還元できるのか、それにより新しい仕組みがまわるのかという点でソリューションを開発している段階だ。

3) FOMO(Fear of missing out)

「FOMOをイノベーション全般に対して感じる大手企業もいれば、ブロックチェーンも次の主要テクノロジーになる可能性があることがさらに加速させている」と、OGroupのCEO Maja Vujinovic氏は言う。氏はGEのイノベーションの責任者出身で、当時もブロックチェーンプロジェクトを担っていた。

3つの要素(潜在的なポテンシャル、社会に対しての公平な価値の創出と配当、FOMO)はたしかにあるが、大手企業との協業を考えるという意味においては、やはりPR的、短期的リターンを求めるのは事実。協業のモチベーションをしっかり考えたほうが良いと思われる。

ここについては補足をしておきたい。Squareがビットコインを扱うようになった結果、1ヶ月で株価が3割上がった事実を鵜呑みにし、自社もそれに続けとビットコインを扱うことで時価総額が上がるもしくはPRになる──この程度しか目的を持たない企業との協業は場合により好ましくない。

大手企業からお誘いが来たことで、ブロックチェーンのベンチャーが「協業する」というプレスリリースを出したとする。ブロックチェーン絡みの場合、大手企業の株価が上がる傾向にあるが、従来の未上場ベンチャーとは違い、ベンチャー側も価格に影響することを意味する。だが、意味のある協業ができないこともあれば、協業にすら至らないケースもある。

すると、トークンの価格も下がり、損をする人たちが出てくる。彼らに対し「ベンチャーだからうまくいかなければしょうがない」のように気軽な対応はしてはいけない。詐欺とみなされることもあるのだ。

だから開示する情報(提携したことを発表する)にはくれぐれも気をつけておきたい。何かしら成果を出してから発表するに尽きる。

大手企業とブロックチェーンベンチャー協業での課題

他に、パネルディスカッションで挙がった課題は以下のとおり。

  • 大手企業とベンチャー間でリリースまでの期間の期待値がズレている
  • インテグレーション部分が技術的等の様々な理由で長引く
  • 大手企業の人事異動により、関係値を一から構築
  • 文化の違い
  • はじめからゴールを合意せず、大手企業のなかでもイノベーション部署以外の部署に取り組みを反対される
ブロックチェーン画像

ブロックチェーンのような最先端の技術は、情報や技術が常に更新されることもあり、周りが追いついていない場合が多い。リリースにはまだ早いという状況が常にある。

加えて、スケーラビリティの問題もあり、長期的なのか短期的ソリューションで互いに提供しようとしているのかも決める必要がある。前述したように、ブロックチェーン自体成長過程の段階につき、長期的取り組みがフィットはする。短期的に取り組みたい場合は、3) FOMO(Fear of missing out)で触れたようにPR要素が強かったり、トライアルとして本気に取り組まないケースが多い。

ごく稀なケースとして、短期的でも新しい取り組みをしてみようという大手企業も存在する。だが、社会意義や社内プロセスといった風土に合わないことが多い。大手企業に非があるのではない。そういう特性を理解してベンチャー企業は取り組む必要があるということをお伝えしたい。

スタートアップやベンチャー企業側でも柔軟に対応できないケースも多い。とくにブロックチェーンでありがちなのが、スタートアップで経験値もさほどないなか、トークンの投資で簡単にたまたま巨万の富を得てしまったケースだ。

妙な自信がついた彼らは、私がディスラプションを起こしているという態度や考えを出てしまう場合がある。理論上、仮にFacebookのビジネスモデルをディスラプションできたとしよう。それでも協業先の大手企業が必ず取り組みたいことでもなければ、メリットにもならない、あるいは手掛けようとしているプロジェクトが大きすぎて現実的じゃない等のひずみが生じることがある。

ここでのアドバイスは「相手を理解すること」とパネリスト達は強調していた。どんな歴史を持ち、どのようなビジネスモデルを展開し、どんな課題を抱えているのか。そこを知らないまま、もしくは解決できないままお金が集まるのがブロックチェーンの危ないところ。大手企業は多くの場合、既存のコミュニティやカスタマーベースもあるし、自社の産業分野についてのナレッジもあるわけだから、ベンチャーは慎重に進めることが大事だ。

また、分散型≒自動化になると、人的雇用を必要としなくなる仕事が出てくる可能性もある。仮に雇用を失う人が出てきたとした場合、新しい形の組織としての存在理由を植え付けるまでベンチャー企業は考えているのか。分散化へのリスク管理を考えていなかったとしたら、大手企業は受け入れないだろう。

ブロックチェーンのスタートアップやベンチャーの見極め方

ブロックチェーンを使ったスタートアップやベンチャーの特徴としてよく見られるのが以下2つ。

  1. ICOでお金を得てからどのようにビジネスを実現させるか考える
    この場合、チームも最適化されていない。
  2. ブロックチェーン技術に興味を持っているだけ
    とにかくブロックチェーンを使って妄想し、開発に着手。

いずれもプライオリティがズレている。その会社のDNAになるので、次のステージへと成長できない例は多々ある。資金調達済みのブロックチェーンベンチャーの半分以上が半年以内で破綻するという統計も最近出ている。

では、いいスタートアップやベンチャー企業とはどういうものだろうか。大手企業とブロックチェーンでできることを考え、そこから分野毎のエキスパートが経験を活かし、ビジネスのユースケース前提で新しい会社を立ち上げたりする企業はいいと言えるだろう。そうすることで仮想通貨取引所で上場した後の価格の維持にもつながり、コンフリクトがないよう課題を解決してからお金を考えようという方向にも働く。

新しい技術を取り入れる際にはぜひとも注意し臨んでいただきたい。ご不明な点があればアドライトまでご相談を

 

お知らせ

いま、アジアのブロックチェーンやICOの動きが面白い

9/21(金)、FINOLAB(大手町)にて「Trend Note Camp #18 アジアのブロックチェーン& トークンエコノミー最新事情 」を開催いたします。ゲストに一般社団法人 日本ブロックチェーン協会 事務局長・樋田桂一氏を迎え、アジアのブロックチェーンやトークンエコノミーの動きを余すところなく語っていただきます。