YCに入る前と卒業後の流れは?YCあれこれ

 addlight journal 編集部

こんにちは。先週、Y Combinator(以下YC)の今回のbatchであるYC S15の参加チームの紹介をしましたが、それ以降で、今後のYCの投資の方向性に関するいくつかの発表がありました。印象としては、YCが行っているprogramの前後に投資のスコープを広げ、pre acceleratorのチームからpost acceleratorのチームまで投資を行う方針のようです。

毎年、MITが発表しているアメリカのシードアクセラレーターのランキングで首位をキープしていたYCですが、前回(2015年3月公表分)よりそのランキングから外れて(外してもらって)います。というのも、YCは直近で自己定義をseed acceleratorからseed fundと変更しており、合わせて前回batchであるYC W15より、一回のbatchでの参加チームを100以上に増やし、さらに多様性のある領域のスタートアップへ広く投資する方向性に振っています。

本日は、今週発表された、pre acceleratorのチームを対象とした助成金プログラムである「YC Fellowship」と、YC卒業後のpost acceleratorを対象としたプロラタでの追加投資について、紹介していきます。


●YC Fellowshipについて


7月21日(PT)に公表された、pre acceleratorのチームを対象とした助成金プログラムYC Fellowshipの概要を箇条書きでまとめてみました。良いチーム(人材)に早めにアクセスしたいという意図と思われます。

・アイデアレベルのチームのための育成プログラム

・基本的には投資家からお金を集めたりアクセラレータープログラムに入る前のチームが対象

・選ばれたチームには株式を取得する投資ではなく12K USD の助成金(grant)が与えられる

・8週間のプログラムで、YCのパートナーや卒業生によるアドバイス等が受けられる。ベイエリアへの移住は必須ではないが好ましい。

・フェローシッププログラムの後には、メインのYCのbatchであるYC W16への優先的な選考が受けられる。
・そもそもYCは複数のファウンダーを前提にしていたが、1名のファウンダーでも参加可能(ただしファウンダーとみなされるには20%以上の株式シェアを保有していること)

なお、締切は2015年7月27日20時(PT)つまり日本時間の2015年7月28日(火)12時。応募のためのアプリケーションには動画が必要であったりなど、項目もメインのプログラムのアプリケーション並に多くなっており、一種のスクリーニングになっているものと思われます。対象ステージが相当アーリーなので限定されてしまいますが、良い機会だと思いますので興味ある方はお早目にどうぞ。


●Pro Rataでの追加投資について

Pro Rata

Pro Rataとは英語のproratable(比例配分できる)の略語で、投資後のラウンドについてもその既存保有持分に応じて追加投資が行える(権利)のことです。投資対象ステージの広いVCやファンドから投資を受ける際などにはこの条項が投資契約に入っていたり実際にプロラタでの追加投資が実行されたりしますが、YCでも卒業生チームに対して、このプロラタでの追加投資を行っていくことがYCのblogで7月23日(PT)に公式に発表されました。

YCのblogによると、プロラタ投資の概要は以下のようになっています。

・postバリュエーションが250M USD以下のYC卒業チームに、YCの既存持分に応じた追加投資を行う。

・ラウンドのリードは取らず、基本的にはYCの卒業後のラウンドに対して全て参加することにより、追加投資によるシグナリング効果は持たせないようにする。

・昨年のYC S14のbatchから、投資条件にプロラタ条項を入れており、将来の追加投資を見越して準備はしていた。

・(この追加投資のファンドは、techcrunchの記事によると、ファドサイズ1B USD程度ともいわれるY Combinator Continuity Fundから投資される。(同ファンドは以前にSECに登録されている)。)

これは、YCが自己定義をseed fundとしたこともあり、acceleratorの枠を超えて、投資ファンドとしてのレバレッジとリターンを最大化しようとしている動きと理解しました。YCは、卒業チームの追加投資機会にリーチできるため今回のファンドレイズも1Bと大型に行えたものと想像できます。YCとしては運用するファンドサイズが大きいほど毎年の管理報酬を最大化(仮に管理報酬が2–3%として年間20–30M USD程度でしょうか)でき、YCの経営自体が安定します。今までのYCをはじめとするseed acceleratorのビジネスモデルが、日本語でいう「千三つ」というような、ごくごく限られた成功チームのホームランによってその他すべての投資回収とリターンを構成していたことを考えると、従来型のseed acceleratorのビジネスモデルに加えて、大型の追加投資ファンドも並行して運用することにより、よりstableなビジネスモデルにすることができます。


以上、今週YCから発表された、ふたつの新しい取組についての紹介と個人的な解説をさせて頂きました。

このようなYCの新しい取組は、pre acceleratorとpost acceleratorのどちらかだけではなく、上記のようにpreとpostの双方向に投資ステージを広げることによって盤石の体制が構築できるもの考えます。つまり、今後は(大型の)VCファンドとseed acceleratorの境目が曖昧になってくるとすると、勝負のひとつは良いディールソースにいかに早くリーチできるかになります。大型のVCファンドなどがよりアーリー側の手前ステージに降りた来たとしても、YCは更に手前のfellowshipプログラムによって先にアクセスすることができます。逆に言うと、追加投資ファンドの管理報酬などの安定収益があるからこそ、YCは安心してfellowshipプログラムにも助成金として広義の先行投資ができるとも考えら、それが結果的に良いチームへの投資につながり追加投資ファンドのリターンも担保するという好循環を生み出していけるという狙いではないでしょうか。

今後のYCの動向及び他のアクセラレーター等の動きにも引き続き注目したいと思います。