工事進行基準の落とし穴

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

今回は、昨今改めて話題になっている工事進行基準について、その特徴を振り返りながら、工事進行基準のリスクとその対応について考えてみたいと思います。

工事進行基準のリスクとその対応のポイントとは?

●工事進行基準の特徴

そもそも工事進行基準とは、請負工事や受注制作などのプロジェクトについて、その完成前であっても、プロジェクトの進捗度を見積もり、その進捗度に応じて売上と売上原価を計上する収益認識の方法です。工事完成基準の場合には、プロジェクトが完成し発注者側の検収を受けた時点で収益を認識するため、会計数値の客観性と確実性が担保されます。ところが、工事進行基準の場合にはプロジェクト完成前に売上計上を行うことになり、収益認識をはじめとする会計数値につき見積もりの介入する余地が大きくなります。

具体的には、プロジェクトの受注金額である「工事収益総額」、そしてプロジェクトの原価予算である「工事原価総額」、最後に「決算日における工事進捗度」の3つすべてを、合理性をもって見積もることにより、「成果の確実性」が認められることとなり、工事進行基準を適用することができます。つまり、これらの見積もりの精度や信頼性が低いと、曖昧な数字で売上と売上原価が計上されてしまうことになってしまうのです。

工事進行基準の実務対応について、詳しくは私が6年前に連載したエッセイ「まだ間に合う工事進行基準」にて解説しておりますので、そちらも合わせてご覧ください。
http://japan.zdnet.com/development/sp_pcm-2009/
●工事進行基準のリスクと数値例

上記のように工事進行基準による会計数値には見積の介在する余地が大きくなります。特に、プロジェクトの原価予算である「工事原価総額」については社内で将来の予測を行うことになるため、その原因が意図的な不正か意図せざる誤謬かを問わず、ミスや誤りが発生する可能性があります。仮に、工事原価総額が過小見積になった場合の影響について考えてみましょう。

まず、プロジェクトの完成前に工事原価総額が過小見積となる場合には、全体における原価の費消割合によって工事進捗率を算定する「原価比例法」における分母が過小になることにより工事進捗度が過大となります。よって、そこまでの売上が過大に計上されることになります。これは、例えば、ある会計期間における売上が予算に達していないような場合に、実現可能性の低い将来のコスト削減などを無理矢理織り込んで工事原価総額を過小見積することにより、売上を過大計上するなどの形が想定され、このような不適切なインセンティブが働いてしまう危険性があります。

さらに、本来はプロジェクトが赤字になることが合理的に想定されているにも関わらず、プロジェクトの完成前に工事原価総額が過小見積になってしまうような場合には、本来計上すべきであった工事損失引当金が計上されないことになります。これは、例えば、社内にて工事損失引当金計上に対するペナルティやそもそも工事損失引当金の計上を抑圧する風土があった場合に、プロジェクト責任者が工事原価総額を過小見積し工事損失引当金の計上を不当に回避するなどの形が想定され、このような不適切なインセンティブが働いてしまう危険性があります。

つまり、工事原価総額を過小に見積もることにより、売上の過大計上や工事損失引当金の計上回避につながってしまうリスクがあるのです。

これを数値例で考えてみると以下の表のようになります。このケースでは、工事原価総額を少なく見積もることによって、合計で105のプラスの損益インパクトが生じることになります。

●工事原価総額を合理的に見積もるには

「工事契約に関する会計基準」によると、工事原価総額を信頼性をもって見積もるための要件として、「工事の各段階における工事原価の見積もりの詳細な積み上げ」や「工事原価の事前の見積もりと実績を対比することによって、適時・適切に工事原価総額の見直しが行われること」――などが定められています。

まず、最初の要件である「工事の各段階における工事原価の見積もりの詳細な積み上げ」について考えてみましょう。工事の原価総額の見積もりの精度を高めるためには、工事全体を細かくブレークダウンし、その積み上げによって原価総額を算出する必要があります。そのためには、精緻な段階(フェーズまたはプロセス)の定義付けを行うとともに、工数見積もりの信頼性を向上させるための社内ルールの整備と運用の徹底を行うことが必要になります。合わせて、将来の予算と稼働率から導き出された適切な労務費単価、製造間接費単価の設定も不可欠になります。このためには、精度の高い予算編成と予算管理も対応すべきテーマとなり、管理会計制度の充実も前提になってきます。

そして、次の要件である「工事原価の事前の見積もりと実績を対比することによって、適時・適切に工事原価総額の見直しが行われること」についても考えてみましょう。例えばプロジェクトの最中に、当初の見積もりの原価予算と原価実績との間に乖離が生じ、全体としても当初見込んでいた原価予算の総額を大きく上回ってしまいそうな場合には、全体としての予算超過が明らかになった時点で、適時に工事原価総額を見直す必要があります。


●おわりに

上記のような対応は、経営者による内部統制が構築されていることが大前提になります。そもそも、工事進行基準の運用には前述のように見積が多く介在するため、精度の高い内部統制制度と、それを構築運用する責任のある経営者の高いモラルが求められます。

今回は、工事進行基準について、改めてその特徴やリスクなどをご紹介させて頂きました。次回も引き続き、プロジェクトをテーマにご説明します。