Brexit影響知らず、1位561億円!「英国スタートアップ資金調達額ベスト10」

 addlight journal 編集部

ヨーロッパのスタートアップエコシステムにおいて、イギリスは圧倒的存在感を示している。3月27日、株式会社アドライトが行った「Trend Note Camp#12:ベンチャー投資額欧州1位の英国、Brexit後は?」にて「イギリスの投資額は欧州No.1の£7.1B(約1,026億円)。2位フランス、3位ドイツの2倍以上を誇り、2017年がこれまでで一番多かった」と、英国国際通商省のベンチャーキャピタル部にてヨーロッパ、アメリカ、アジアを中心とした企業にアドバイスを行うPaul Morris氏は語る。

内訳としてコンシューマー系投資の人気は高いが、AIやAR/VR、ロボティクスなどのいわゆるDeep Techの成長が目覚ましい。金融都市ということもあって政府バックアップのもとFinTech分野の法整備が整い加速しているという。 

桁違いの投資は好調の証

Paul氏によると、2017年 ディール数の多かったスタートアップのベスト10は以下のとおり。

1位: Improbable £389M(約561億円)

AR/VRの開発ツールを手掛けている。2016年にはGoogleとパートナーシップを結び、昨年の調達ラウンドではソフトバンクをリード投資家として5億200万ドルを調達。

2位:Farfetch £311M(約449億円)

世界11都市にオフィスを構え、190ヵ国への配送を行っているアパレルEコマース。2007年の創立以来、ヨーロッパの高級ブランドを中心に、現在では世界2,000以上のブランドを扱っている。昨年アリババに次ぐ中国のEコマース大手JD.comから3億9700万ドルを調達。現在の評価額は60億ドルとも言われており、IPOに向けた準備が進んでいる。

3位:Deliveroo £283M(約408億円)

Uber Eatsのようなレストランチェーンと配達ドライバーとのマッチングサービスを提供。上場前のFacebookやSnapchatに投資を行っていたアメリカのFidelityとT.Rowe Priceから3億8500万ドルを調達。評価額は20億ドルを超える勢いで、IPOへの期待も高まる。

4位:Acorn Oaknorth £251M(約363億円)

2015年に創業を開始した、中小企業向けの融資を行うFinTech企業。ACORNというプラットフォームを利用することで、様々なパラメータから各企業の与信を決定。シンガポールの政府系ファンドを中心に3億1800万ドルを調達。イギリスにおけるFinTechの調達額としては最高額となった。

5位:Lightsource £150M(約217億円)

ヨーロッパの太陽光発電事業最大手。ヨーロッパだけでなく中東、インド、アメリカなどでも電源開発を行っている。昨年石油メジャーBPが戦略提携を発表し、43%の株式を取得した。総額2億ドルでの買収となり、太陽光事業から離れていたBPの太陽光事業への復帰の足掛かりとなった。

6位:Neyber £98M(約141億円)

ゴールドマンサックス出身者が創業した消費者金融FinTech。これまでに80万人以上がアクセスする。過去の信用情報や、貸し倒れリスクなどからGREAT、GOOD、OKの3ランクでそれぞれ金利を分けている。7,000人に貸し出して債務不履行は30件未満とのこと。ゴールドマンサックスから約100万ポンドを調達。

7位:Secret Escapes £83M(約119億円)

イギリスを拠点としてヨーロッパで展開している旅行会社。高級ホテルの空いている部屋などを最大70%といった大幅ディスカウントで販売している。シンガポール政府系ファンドを中心に調達。

8位:Funding Circle £83M(約119億円)

2010年に創業したPtoPのソーシャルレンディングプラットフォーム。小規模事業者に投資を行いたいと思っている投資家と、投資を必要としている小規模事業者をマッチングする。米・アクセルパートナーズをリード投資家として、他シンガポール政府系ファンドなどから調達した。

9位:Atom Bank £83M(約119億円)

新興銀行Metro Bankの共同創業者とHSBC出身者によって設立された18歳~34歳のミレニアル層を中心としたモバイル専門銀行。アプリのみを利用する銀行として、従来のインターネットバンキングのようなブラウザを経由するサービスは提供しない可能性すらあるという。今年3月に2億600万ドルをBBVAから調達すると発表された。

10位:Tandem £80M(約115億円)

言語学習サービスを提供するEdTechスタートアップ。赤の他人同士をマッチングさせてパートナー(=タンデム)を作るというシステムで、無料ユーザーでも話す練習をすることができる。サポート言語は148言語。アメリカ、中国、ブラジル、イタリア、メキシコがユーザー数トップ5だが、いずれも全体に占める割合は10%以下と特定の国に偏るということがない。

見て驚くのは額の大きさだ。メルカリが大型調達をした時でおよそ80億円だったことを考えると、文字通り桁違いということになる。こうした巨額のディールが行われる理由としてはCVCや金融機関の活発な参入、技術系スタートアップが未上場のまま高いバリュエーションを保つことなどが挙げられた。

また1位のImprobableは、ソフトバンクのビジョンファンドの出資がかなり大きな比率を占めていたという。他の調達例でも、ヨーロッパ中心というより、むしろアジアやアメリカなど世界中から投資を受けているのが印象的だ。

またこうしたスタートアップと投資家のマッチングは独立系VCという印象があるが、多くは大手企業という。200以上ものグローバルなVCやCVCとのネットワークを使い、質の高いスタートアップを紹介していくことで投資を促進している。日本からは三菱、三井、旭硝子、トヨタなどが挙げられた。

Brexitの投資環境への影響

British Venture Capital AssociationのGurpreet Manku氏はイギリスの投資環境の状況やBrexitによるスタートアップエコシステムへの影響について触れた。2016年の国民投票でイギリスのEU脱退が決定されて以来、Brexitの様々な方面への影響が懸念され続けてきたようだが、「投資家の大多数はBrexitがヨーロッパでの投資に影響することはないと感じている」との見解を示しているといいう。

投資家はヨーロッパとイギリスの両方においてBrexit以降の5年間で約3割程度投資が増加すると見ている。また回答者の半数がヨーロッパでの投資戦略を変えるつもりはなく、4割弱の回答者はイギリスでも投資戦略を変えるつもりはないという。これにはイギリスの持つ産業優位性があるとのことで、法整備や投資家、ファンドマネージャーらとの繋がりがそれにあたるとのこと。

会場からの質問で、ロンドンからベルリンに拠点を移すスタートアップが後を絶たないという現実に対し、イギリスではどのように受け止めているのか質問が挙がった。

Gurpreet氏によれば、投資金額ベースで見た場合、やはり大きな違いは認められていないという。結局のところ、イギリスのEU離脱がベルリンやフランクフルトといったドイツの都市の需要に繋がるとは言え、それがイギリスから出ていく理由にはならない。本社を動かす、あるいはドイツに拠点を設けるといったことをしてもクロスボーダーでロンドンとの関係が続いていくことに期待をしているそうだ。

政府のバリアがある中国、人件費をはじめとした各コストの安いインド、ITインフラが強いエストニアなど各国それぞれの強みがあるが、イギリスのスタートアップの優位性について聞かれると、「環境面」と回答。技術面含めた高度な教育制度やマネージャーの育成、さらに高度な技術を活かしてビジネス化するノウハウはイギリスの強みという。さらにEXITに持って行くための市場の存在も重要な役割を果たしており、これらすべてはうまくいくスタートアップエコシステムに必要な要素であるとのこと。

このようにBrexitの影響はさほど受けないようにうかがえた。イギリスをはじめヨーロッパのスタートアップエコシステムから学ぶ点は多いかもしれない。