BATとしてもおなじみの中国テックジャイアント3社、Baidu(百度)、Alibaba(阿里巴巴)、Tencent(騰訊)。そんなBATの一角を成すTencent(テンセント)はアジアで最も早く時価総額5,000億ドルを突破した企業として知られている。ゲーム会社としては世界最大の規模を誇り、チャットアプリWeChatや、このアプリを用いたモバイルペイメントWeChat Payなどが有名だ。
スタートアップ育成のカギを握る“衆創空間”
今回訪問したのは、そんなTencentが手掛けるインキュベーション施設「騰訊衆創空間」。こちらは中国国内におよそ20箇所も存在する。Tencentが本社を構えるのは、広州省深センの南山区と呼ばれるエリアで、BaiduやAlibabaの他、多数のインキュベーション施設が集まっている。民生用ドローンで有名なスタートアップDJIの拠点も含まれる。
強い日差しがガラス張りのビルで反射し、日陰もほとんどないようなビル街。Tencent(テンセント)の本社ビルが遠目に見える場所に騰訊衆創空間は位置する。
木とコンクリートで構成されたカジュアルな内装で、スプレーアートのポップなデザインが壁に描かれていた。騰訊衆創空間に参加しているスタートアップサイドではないTencentの従業員が大半ということだが、食堂は人で溢れかえっていた。なお、Tencentは本社ビルも含めて2万人近くの従業員を抱えるという。
ベビーベッドからモータースポーツまでユニークなチームが参加
インキュベーションエリアに入ると、緑を基調にした吹き抜けが現れる。左手には参加チームのプロダクトが置かれていた。いくつか紹介していこうと思う。
こちらは離れた場所で寝ている赤ちゃんが泣いた際すぐ気が付けるよう、ベビーベッドの中心部にカメラを取り付けてスマートフォンに通知してくれるプロダクト。将来的には、スマートフォンを通じて声をかけ、赤ちゃんをあやす機能も実装されるのではないかということだ。
VRによる内見サービスでは、実際に現地に赴くことなく候補を絞ることができる。また不動産業者はVRでおおよその見当を付けてもらうことにより、ミスマッチなどによる再検討や内検そのもののコストを減らすことができる。
一度のみならずVRを体験したことがあるが、やはり平面の写真を大量に見るのとは全く違う体験だった。家を決める場合は特に間取り図や写真で比較するよりもVRで見た方が何倍もイメージが湧きやすくなるだろう。
キーボード機能が付いているスマホカバー。画面のみにしかタッチ機能を持たないスマホの背面にもインターフェースを付けることで操作の幅を広げる。利用例としてはスマホカバーを外しキーボードとして利用するシンプルなものから、背面を大きく4分割してゲームなどへの利用、自撮りのように手の可動域が限られる場面で背面を用いた操作、VRデバイスとしての利用など可能性は様々だ。
中国版Teslaとの期待も高い新興電気自動車メーカー。45分の充電で400km以上走行可能という電気自動車を発表し、SUVも市販化のラインナップとしている。TencentやBaiduから出資を受けており、アメリカでのIPOも検討中。『Formula E』には第1回から現在まで参加、初年度にはドライバー部門のチャンピオンを獲得している。写真はミニチュアモデル。
世界最大のゲーム企業の次なる進化
今から20年前の1998年、Tencentは深センで設立された。Tencentが設立当初手掛けたのはメッセンジャーサービスQQ。WhatsApp設立が2009年、LINEやカカオに至っては2010年代ということを踏まえると1999年から続くQQの歴史は驚くべきものだ。今でこそモバイルペイメント機能を備えたWeChatに注目が集まっているが、ユーザー数は現在もQQが世界2番目の地位を保っている。
QQとWeChatはいずれもTencentが手掛けるサービスだが、多様なサービスを提供するQQとメッセージに特化したWeChatのように用途が分かれているようだ。調査によると、QQは若者に人気で、WeChatは中高年や仕事用に好まれている。現に、ビジネスの世界で紙による名刺交換はせず、WeChatで連絡先を交換し合っている。
今やAlibabaと共に時価総額TOP10の常連となったTencentだが、まだまだその手を緩める気配はない。昨年度、Tencentが投資した企業は関連事業から自動車、ハードウェア関連、金融、医療などと幅広く、なんと合計で113社にものぼる。驚くのは約半数が数十億〜数百億円規模の投資だったということだ。
2018年Q1決算を見ると、売上高735億2,800万元、純利益232億9,000万元、営業利益306億9,200万元と、増収増益を果たし、ゲーム事業は全事業の約4割にとどまった。言い換えると、それ以外の事業の伸びがいいことを意味している。スタートアップエコシステムを自社でやり遂げてしまうTencentの底力は計り知れないものがある。