国別MaaS動向―フィンランド、中国、アメリカ、日本

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

移動手段をサービス化する概念として登場したMaaS(Mobility-as-a-Service)。2030年にはアメリカ・中国・ヨーロッパで170兆円規模の市場になるとも言われ、急速な成長を見せている。

MaaS発祥の地・フィンランド

MaaS発祥の地がどこかご存知だろうか。以前、「Trend Note Camp #16 フィンランドスタートアップ最前線〜」のレポート記事「世界の起業家がフィンランドに向かうべき理由」でも触れたがフィンランドだ。隣国スウェーデンのように世界的自動車メーカー・ボルボがあるわけでもないなかMaaSが生まれた背景には、自家用車への対抗が経緯としてあったという。

フィンランドを代表するアプリがMaaSグローバルの手掛ける「Whim」だ。Whimはモバイルペイメントと経路検索が組み合わさったアプリをイメージすると理解しやすい。アプリで現在地から行きたい場所を選び、経路を検索。利用後クレジットカードで決済されるという仕組みだ。

Whim

Whim

これだけ読むと他にも似たようなアプリはありそうだが、Whimの特徴はサービスの利用範囲と料金体系にある。Whimはタクシーだけでなく公共交通機関(電車、バス)、シェアサイクルやレンタカーも含まれる。料金はその都度決済するプランから、全て無制限で(タクシーは1回あたり5kmまで)使える月額499ユーロ(約64,000円)の月額プランまで用意されている。単一の交通機関ではなく複数の交通機関を用いたルートを提示してくれるうえ、支払いはクレジットカードで行われることから、タクシードライバーやバスドライバーにはWhimのアプリを見せるだけで済む。

上記が実現した裏には政府の働きかけもあった。各交通機関を結びつけるようなアプリの開発には交通機関のデータが欠かせない。こうしたデータをオープンにするという動きを主導する重要な役割を政府は担ったのである。

Whimは評判も高く世界中から注目を集め、現在ではアムステルダムやバーミンガムといった都市でも提供されているという。ちなみにWhimを運営するMaaSグローバルには、日本からもトヨタファイナンシャルサービスやあいおいニッセイ同和損害保険も出資している。

Whimのような働きをするサービスをMaaSオペレーターと呼ぶが、各国、各地域でどこの企業がMaaSオペレーターとしての覇権を握るのかが重要なポイントとなりそうだ。

ライドシェアで驚異の成長を見せる中国

中国には1週間がシリコンバレーの1カ月に匹敵するほどの密度だと言われる地域がある。香港の真上、広州省に位置する深センだ。こちらも以前取り上げた記事「イノベーション大都市・深センの成長戦略」で触れたが、ハードウェア、スタートアップの街として成長を続けている。

中国ライドシェア大手のDidi(滴滴出行)は6月、深センの蛇口エリアを中心に自動運転のオンデマンドバスを走らせると発表し、7月から運用が開始された。利用者が現在地を発信することで、最寄りの乗り場までの距離を通知、近隣のバスを乗り場に走らせるというシステムになっている。今後徐々にエリアを拡大していく予定だという。

DiDi

DiDi

Didi自体もいたたましい事件が起きた影響でサービスの停止命令を受けていたが、警察との連携を速やかに行うSOSボタンの設置等、セキュリティ機能の追加を発表した。4月にMobikeを買収し、9月に香港でIPOを実施したMeituan(美団点評)は、こうした状況を受けてかライドシェア事業への参入を発表した。このように中国ライドシェア業界は、王者であったDidiが再三の向かい風を受ける中、新規参入のライバルが登場するという波乱の展開となっている。

一方でMaaSプラットフォームの構築は順調に進んでいる。中国IT大手Baidu(百度)は、2017年4月に「アポロ計画」と称し、完全にオープンな自動運転のエコシステムを構築すると発表した。発表当初はFordやダイムラーといった自動車メーカー、コンチネンタル、ボッシュといった部品メーカー、IT業界からはIntelやNVIDIAといった企業が参画した。2018年現在では参加企業数が100を超え、国内外問わず様々な企業が参加している。2021年に一般道、高速含めた自立走行を目指す。

逆風吹き荒れるMaaS大国・アメリカ

アメリカがMaaS大国であるということは今さら言うまでもない。アメリカに拠点を設けるMaaS関連企業といえばライドシェア大手ウーバーとLyft、自動運転ではグーグルのWaymo、アップル、テスラ等誰もが知る名前が並ぶ。

ライドシェア業界はウーバーが最大勢力となっている。ウーバーに次ぐLyftは2018年5月にアメリカでの業界シェアが35%に到達したと発表。1位と2位で大きく差が開いているのが印象的だ。双方ともにNVIDIAやAptive(旧デルファイ)等と提携し、自動運転技術の開発にも力を入れている。自動運転でもやはりウーバーがやや先行しているが、死亡事故発生により一時実証実験が中止する等必ずしも順調とは言えない状況が続いていた。

Lyft

Lyft

一方のLyftは参入こそ遅れたものの、2018年1月のCES開催に合わせてラスベガスで無人運転タクシーを試験運用し、5月にはラスベガスに30台を投入のうえ本格運用に乗り出した。Aptiveとも自動運転タクシー運用に向けて複数年契約を結んだとあり、今後に向けて期待が高まる。

自動運転はウーバーとテスラが死亡事故を起こしたことで安全性に関する指摘が増えた。ウーバーは夜道に現れた女性を認識できずに接触してしまい、Teslaは高速道路の分岐点にあるコンクリート壁にぶつかった。これらの事故が、自動運転は本当に安全なのかという議論が起こるきっかけに発展してしまう。

こうした2社と対照的なのが、グーグルのWaymoとアップルの自動運転車だ。Waymoは2016年にグーグルの自動運転部門を分社化し誕生した。わずか2年で走行距離1,000万kmを達成し、シミュレーション上での走行距離は80億kmにも達する。

これまで2度事故に遭ったことを公表したが、いずれも対向車が車線を大きくはみ出して突っ込んできたため、Waymo側に過失はないと考えて問題ない。9月に公表されたアップルの事故も時速1マイル以下で合流しようとしたところ、後続車が衝突してきたというものであった。

いずれも自動運転関係なく回避不能である可能性の高い事故という点で安全性に欠けるという印象は少ない。とはいえ、死亡事故が起きているというインパクトは大きく、完全な逆風となる前に信用を回復できるかがポイントとなりそうだ。

もう一つ大きな問題となっているのが雇用だ。現在ニューヨークを中心にライドシェアリングが増加し続けており、タクシー業界の圧迫のみならず、ライドシェアドライバー同士も潰し合いとなっている現状がある。これには2015年に1.2万人程度だったライドシェアドライバーが、2018年には8万人にも膨れ上がったという背景がある。ニューヨーク市はこれに対し、シェアリングアプリ大手4社(ウーバー、Lyftに加えJunoとVia)がこれ以上ニューヨーク市でドライバーを雇用することができないようにする規制を行った。

ところがこれで一安心というわけにはいかなかった。完全自動運転が実現するまでの間、タクシードライバー、ライドシェアドライバー、トラックドライバー等含ム年間30万人もの人が失業に追いやられると試算されている。自動運転タクシーの普及と、こうしたドライバー、特にウーバードライバーとしての役割を担っていた人をどうケアしていくのかという点も考えていく必要がありそうだ。

州ごとにルールが違うものの比較的自動運転の実証実験/運用を行いやすいアメリカ。先に進んでいるからこそ見えてくるシビアな課題にどう対応していくのか、未来と現実のバランスが求められている。

自動運転EV車がカジノや店へと変貌の日もすぐそこ-日本

最後に日本のMaaSについて見ていく。真っ先に挙がるといえば、カーシェアリングサービスではないだろうか。駐車場を中心にステーションを展開し、車を保有しないライフスタイルも定着し始めている。アメリカや中国ではポピュラーなライドシェアも日本では法律上認められていない。完全自動運転も技術的には可能な水準にあるが、やはり法律がクリアできず公道での実証実験が困難となっている。

日本のメーカーはこうした動きに消極的なのかというとそういうわけではない。日産のプロパイロットやスバルのアイサイト等既に市販化されているものでも技術力の高さ、そして自動運転への意欲がうかがえる。

2018年のCESでは、トヨタが発表した「e-Palette」に注目が集まった。当初トヨタは完全自動運転化に良い反応を示さなかった。ところが徐々に完全自動運転もツールの1つとして捉えるようになり、運転する楽しさと自動運転を両立させるMobility Teammate Conceptを掲げるようになった。

そしてアマゾン、ウーバー、Didiなども参画するe-Palette Conceptを発表。BtoBに向けた、時にはカジノやシューズの販売店等、まるでパレットのように用途を使い分けることのできる自動運転EVを開発したのだ。それもただ箱として売るのではなく、GoogleやApple、Facebook等をライバル視したビジネスプラットフォームとして世に送り出す戦略を打ち立てた。2020年の東京オリンピックに合わせ、2020年前半には市場に投入するという計画だという。

「車は『動くスマートフォン』と化す」という表記がメディアでよく見られるが、「移動」「空間」「決済」まで兼ね備えた先にあるのは、産業構造の変革と言っても過言ではない。

 

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【12/4 東京・丸の内】Mirai Salon#10 オープンイノベーションが鍵!モビリティの未来~MaaSで変わる産業構造

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2030年にアメリカ・中国・ヨーロッパで170兆円規模の市場になるとも言われている「MaaS(Mobility as a Service)」。ライドシェアやカーシェアをはじめ、フィンランド発「Whim」は経路検索から決済までカバー、GMは2019年までに完全自動運転を発表する等、まさにパラダイム転換期。日本でもトヨタとソフトバンク、NTTドコモとNEDOのようにMaaS領域で提携や共同が相次いでいるのは、互いの得意分野を融合して攻めるほど価値ある市場とも言えます。MaaS事業に取り組む大手企業やベンチャー企業の事例をふまえ、今後を探ります。

※Mirai Salonは、オープンイノベーションを中心とした事業にかかわる大手企業やスタートアップをゲストに迎え、自社の取り組み等お話しいただくことで、事業のヒント形成やコミュニティ強化につなげるイベントシリーズです。

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主催: 株式会社アドライト/共催・協力:東京21cクラブ(三菱地所株式会社)