自動運転技術をめぐる各社の動きと開発状況 (2/2)

 addlight journal 編集部

前回記事では取り上げなかった新たなプレーヤーの動き

前回に引き続き自動運転技術をめぐる各社の動きと、その開発状況に関して、今回はこれまでに取り上げてこなかった新たなプレーヤーの動きをご紹介します。

Apple

2014年頃から自動運転技術開発を始動させ、2017年4月からは公道実験も行っている模様が報じられていたAppleですが、2017年6月5日のBloomberg社のインタビューで、自動運転技術開発に本格的に参入していることを、CEOであるティム・クック氏が公表しています。Project Titanと呼称される同プロジェクトは、Apple社による全自動運転車そのものの開発なのか、他の自動車メーカーの完成車に搭載するための全自動運転システムの開発なのかということで様々な憶測を呼んでいましたが、現在のところは、どうやらシステムの開発であるという線が濃厚であるようです。

ウェイモ

Waymoはグーグルの持ち株会社であるAlphabet社の傘下にあり、Googleのスピンオフ・ベンチャーとして自動運転技術の開発を進めてきた企業です。2014年から、Fireflyと呼ばれる運転席を持たない独自の全自動運転車を開発し、公道実験を行ってきていたことで話題になっていました。

しかし、2017年6月12日に、Waymoは、自社で作成した完全自動運転車でのテスト走行を取りやめ、フォードの量産型車両を利用しての自動運転技術実用化に向けた路上試験に切り替えることを発表しています。

2016年には既には、クライスラー製の車体に全自動運転システムを搭載した車両にて公道実験を開始していたWaymoですが、その全自動システムに用いられるカメラやセンサー類を全て内製化する方針を固めているようです。今回、自社製の車両での実験を中止するという決定に至ったのも、そういった自社製のハードウェアの開発に注力していくためであると考えられます。

出典: The Verge – Waymo retires its cute self-driving car in favor of minivans

アルゴAI

前回記事によってご紹介したように、米国Ford社によって10億ドルで買収されたArgo AI社ですが、もともとはGoogle出身のエンジニアとUber出身のエンジニアによって設立されたスタートアップでした。AIに関する専門家を多数抱える同チームは、自動運転開発の切り札になり得るという判断から、フォード社はその買収に踏み切ったようです。Argo AIのCEOであるBryan Salesky氏は、もともと前述のWaymoにてハードウェア開発のトップに立っていた人物で、Googleは自動運転技術においては先駆的であるが、社内で、マーケットへのアプローチ法をめぐってわだかまりができていることが指摘されています。そうした状況を背景に、もともとGoogleで自動運転技術の開発を行っていたエンジニアが独立してベンチャーを設立する事例が相次いでいるようです。

出典:recode – Ford is putting $1 billion into an AI startup, Detroit’s biggest investment yet in self-driving car tech

Tesla Motors

米国Tesla Motorsは、完全自動運転技術(ここではSAEレベル4以上を指しており、人間のバックアップをほとんど必要としないレベルのことを指します。)の実現に最も近い位置にいる企業のうちの1つと言えます。もはや規制面さえクリアすれば、技術的には可能なレベルに達しているのではないかと考えられており、今後の鍵となってくる公道データの収集に関しても、これまでに15万台以上を売り上げてきたモデルSのユーザーの走行データがテスラネットワーク上で蓄積されており、そのデータをAIによる学習を進めているといいます。AIの学習に用いられるデータの質といった課題があるとは言え、これまで各種センサー、カメラを搭載したインテリジェント・カーの販売を続けてきたテスラには全自動運転の分野においても一日の長があるように感じられます。

出典:Tesla Motorsホームページ

韓国ヒュンダイと百度

韓国ヒュンダイは、コネクテッド・カー分野において中国のインターネット検索大手百度と提携することを2017年6月9日に発表しました。コネクテッド・カーとは、インターネット上で得られる情報を活用して、ドライバーに交通状況や、駐車場の空き情報などを提供してくれるシステムを搭載した自動車のことを言います。また、ドライバーの音声認識による天気予報等の情報提供システムも搭載する予定で、2017年末に発売される新型車から搭載予定であるとのことです。そんなヒュンダイと百度は、全自動運転技術においての提携も視野に入れている模様です。

出典:【CESアジア2017】ヒュンダイと百度、コネクトカーで提携…自動運転も視野に

そうした全自動運転開発への取り組みの背景には、百度のインターネット検索大手企業としてのある強みが影響しているようです。

百度は検索エンジンのみならず、Googleマップと同様の地図サービスも展開しています。その百度地图は中国らしい、労働集約的な人海戦術によって作られていて、Google Mapを凌駕する精密さを誇っており、ストリートビューもほとんどの地域で見られるようになっています。すでにNVIDIAとの連携によって、こうしたマッピング技術を利用運転技術の開発にも着手しているようです。

出典:SmartDrive Magazine – 中国での自動運転車プロジェクト。鍵を握るバイドゥの現状と戦略

Nio

Nioは2014年に上海で設立された中国の自動車関連ベンチャーで、すでにドイツのニュルブルクリンク・サーキットにて、電気自動車としては世界最速タイムを誇るスーパーカー、Nio EP9を開発しており、その技術力に注目が集まっています。

そんなNioも、全自動運転技術開発へと参画しており、2020年までにその実用化を目指すと宣言していることが報じられています。Nio EVEと呼ばれるコンセプトカーは、運転席の固定ステアリングを配し、後部座席とも自由に行き来ができるような斬新な車内空間になっていて、EVEという、乗客の考えや好みを学習するAIも搭載されるようです。

自動車各社以外の動き(車載機器メーカー等)

パイオニア株式会社

カーナビや車載オーディオ機器事業を中心に展開するパイオニア社は、自動運転社会の到来に対応すべく各種システムの開発を進めているようです。今年の6月上旬に上海で開催されたCES2017アジアでは、SAEレベル3(運転者のバックアップのもとで、システムによる走行状況の監視等が行われる段階)の自動運転技術に対応できるよう設計された各種システムや、先進運転支援システムADASを搭載したコンセプト・コックピットを公開しています(内容は、今年1月に開催された東京オートサロンに出展されたものと同様です)。その内容としては、AR(拡張現実)によって、ドライバーにより多くの情報を提供するヘッドアップディスプレイやセンサーでドライバーの眠気を探知するドライバーモニタリングシステムなどがあります。

出典:パイオニア 世界最大級のカスタムカーイベント「東京オートサロン 2017」に出展

DESAY SV

同じく車載オーディオを扱う会社として1986年に中国で設立され、中国のカーエレクトロニクス産業のトップに君臨するDEASY SVも、自動運転社会に対応する車載コネクティビティシステム、「インテリジェント・キャビン」の開発に着手しているようです。同社の「インテリジェント・キャビン」は、4台のHDカメラや、77Gミリ波レーダーを搭載した先進運転支援システム(ADAS)を備えるほか、インターフェースとしてはTFT(薄膜トランジスタ)ディスプレイを採用。DESAY SV社のADASは、電子式リアビューミラーや、歩行者検知、前方衝突警告、車線逸脱警告、全自動パーキングといった機能を持っています。また、DESAY SVは、中国インターネット検索大手の百度と提携し、こうしたADASのシステムを全自動運転技術と結びつけるための研究・開発を続けているようです。

出典:Intelligent cabin concept demonstrated at CES Asia 2017

Continental

ドイツの自動車部品大手であるコンチネンタル社も、自動運転社会に向けた新たなコックピットシステムの開発を行っているようです。Holistic Human Machine Interface(HMI)と呼ばれるシステムは、ドライバーと車の間での情報のやり取りをよりスムーズで安全性が高く、かつ快適なものにするために開発されています。車が探知するあらゆる走行環境のデータをドライバーに送信する際に、HMIはドライバーの情報を読み取った上で必要な情報をあらかじめ絞り込んでくれるようです。また、ドライバーからの情報も音声認識等で読み取れるようになっているそうです。

出典:http://holistic-human-machine-interface.com/

自動車各社による自動運転技術の実用化に向けた動きと連動して、車載機器や部品メーカーも、そうした自動運転技術と連動するようなコックピットシステムの開発に着手しているようですね。また、DESAY SVなどは、ADASの技術を自動運転技術へと発展させるような取り組みも行っていて、自動運転の実用化に向けた競争はますます加熱していきそうです。

その他大手メーカーの動き

GM社

米国のGM社は、昨年1月に自動車の相乗りサービスを手掛ける米国Lyft社に5億ドルの投資を行っており、7月には、「全自動タクシー」の実用化に向けて提携していく方針を発表しています。全自動運転の実用化に向けて必要となるデータの収集を、Lyftの保持する顧客ネットワークを利用して、各種カメラ、センサーを搭載した車両をユーザーに貸し出すことで行う方針であるようです。

出典:GMとリフトの2社連合が目指す「自動運転タクシー」の実現

また、2017年6月15日の日本経済新聞での報道によれば、2018年にも、リフト社に数百台を供給する計画であるとのことです。

トヨタ

全自動運転の実用化に向けて必要となる公道でのデータ収集は、これまでにもご紹介してきたように、ゲームに用いられるような仮想データを活用するフォード社や、自社開発の車両にて公道データを蓄積させてきたWaymo、ユーザーから得られるデータを活用するテスラやGM社など、様々な手法が展開されていますが、トヨタは同分野において、ブロックチェーン技術を活用する方向に踏み切ったとのことです。トヨタが米国シリコンバレーに設置したTRIは、MITのメディア・ラボと提携し、膨大なユーザーの運転データを安全に共有できるネットワークを、ブロックチェーン技術を用いて開発するといいます。

出典;トヨタ、ブロックチェーンを自動運転車開発に導入へ――MIT始め多数の企業と提携

これまで、Waymoを初めとする各社が公道実験を行ってきたことや、Tesla Motorsが自社のユーザーネットワークを駆使して走行データを集めていることなどから明らかな通り、自動運転技術の実用化のためには、AIを学習させるための公道での走行データを可能な限り多く取りそろえることが重要になってきています。センサーやカメラといったハード分野では世界でも先行してきたと言える日本メーカーですが、今後はそういったデータ収集の課題にどう取り組んでいくのかということが、開発競争に勝利するための鍵となってくると言えそうです。