サムスンのグループ企業をはじめ様々な大企業が建ち並ぶ一方で、WeWorkのようなコワーキングスペースも並ぶ江南駅周辺。その中に大手カード会社Hyundai Cardが運営するSTUDIO BLACKというコワーキングスペースがある。
まるでエアポートホテル!?至れり尽くせりで利便性の高いワーキングスペース
1階のレセプションにはゲートが設置されており、IDカードなしでの入館は完全にできないようになっている。このあたりはさすがクレジットカード会社といったところだ。ゲートを抜け、10階のメインラウンジへ。
メインラウンジは共用スペースとして使われており、机や椅子が並んでいるほか、コーヒーマシーンやデザイン・旅行・音楽・料理といったジャンルの本が集められている。またこれらジャンルごとのライブラリがソウル市内に4箇所あり、こちらはHyundai Card契約者であれば誰もが利用することができるとのこと。カード会社が図書館を運営するというのは日本ではあまり馴染みのないことだが、ユーザー視点ではかなりの特典になるのではないだろうか。
同じ10階のフロアにはリフレッシュやミーティングに使えるクッションのある日当たりの良い部屋や、カプセルホテルのような形状をしている仮眠室、空港にありそうなシャワールームなどとにかく様々な用途に使える部屋がたくさんある。その中でもフォトルームとデバイスルームは特に素晴らしく、フォトルームではウェブサイト用の写真や、製品販促用の写真の撮影が可能だ。
デバイスルームではiPhoneやAndoroidなど多くの機種でデバイステストが行えるほか、3Dプリンタも用意してあるという徹底ぶり。他にも各フロアに貸工具が用意されており、オフィスのサイズや配置なども必要に応じてカスタマイズできるなどできる限り不自由のないような作りとなっている。
また同じくHyundai Cardが運営するコワーキングスペースに「Finβ」というものがある。こちらはSTUDIO BLACKの下の階(5階と6階)のフロアを使って運営しているが、入居チームに違いがあるとのこと。コンセプトもSTUDIO BLACKとは異なり、FinTech分野に強いスタートアップが集まる。FinβはHyundai Cardからのインビテーションが必要で、コワーキングスペースとしての役割が強いSTUDIO BLACKと比較するとアクセラレータプログラムの要素が大きい。
FinβのフロアはSTUDIO BLACKとは異なり、明るい色が基調となっている。メインのカフェテリアラウンジは夜になるとパブへと変貌。ダーツやビリヤードといったリフレッシュ設備も整っており、多くのイベントも開催されているという。
着想からわずか1年でオープン
ところでHyundai Cardという大手がこうしたコワーキングスペースに手を出したのは市場環境の変化だった。デジタル分野とクリエイティブ分野への拡大を狙い、クリエイターとすり合わせていくうちに今の形になったという。わずか1年の準備期間を経て、STUDIO BLACKとFinβあわせて7フロア全面コワーキングスペースを昨年オープン。
特筆すべきは、セキュリティ面を確保しているという点。例えば工具や本といった共有物の外部への持ち出しは禁止されており、本取材においても内部の写真撮影は許可が下りなかった。こうしたルールをしっかりと定めることで、規律があるからこその自由な空間が成り立つのかもしれない。
韓国だけでなく世界中のスタートアップが注目
コワーキングスペースを利用するには、アプライ後に選考プロセスがある。STUDIO BLACKはアプライ自体は誰もが可能で、チーム単位・個人単位問わないという。一方でFinβは招待制による10チームが1年半の利用期間真っ最中。
また入居している企業の多くは韓国出身のチームが多いが、アメリカ出身のチームもいくつか入居しており、中には日本人も入居しているのだとか。
<入居企業一部抜粋>
・HOSTEL WORLD
世界中のホステルを即時予約できるサービス。24時間年中無休のカスタマーサービスやレビュー、近隣の観光情報などを提供。
・Apps Flyer
イスラエル発スタートアップ。アプリのダウンロードなどがどの広告経由なのかを計測するモバイルトラッキングサービスを提供。
・Remerge
ドイツ発スタートアップ。アプリ向けリターゲティング広告のプラットフォームを提供。東京、ニューヨーク、シンガポールなどにも展開。
ソウルにひしめきあうコワーキングスペースの中での差別化ポイント
ソウルではコワーキングスペースがブームとなってきているが、最大の差別化ポイントはHyundai Cardという大手企業との繋がりがスタートアップにとって最も大きなメリットであること。STUDIO BLACKではあくまでアクセラレーティングを行うのみであるが、VCをコンタクトしたり、週に数回イベントを開くなど多くの人との接点を創出している。
Hyundai Cardとスタートアップとの間でうまくコラボレーションできた例を尋ねると、Hyundai Cardのスマートフォンケースを制作した「FLAME BY」というチームを挙げてくれた。スマホケースにHyundai Cardを収納することができるというプロダクトでユーザーからの反響も大きかったという。こうしたマッチングを起こすことができるというのがコーポレートアクセラレーターの大きな強みなのではないだろうか。
この1年様々なチームが入居してくる中で、Hyundai Cardとスタートアップとの協業も実現することができ、グローバルなネットワークも築きつつある。「まずは目の前のチームと協力していくということが大事。今は1箇所集中で」とのことだが、そして韓国のスタートアップ熱は明らかに高まっているように思える。
韓国財閥系カード会社によるコワーキングスペース。予想に反して堅いイメージを払拭するかのような空間がそこには広がっていた。
2年目となる今年はどのようなイノベーションを創造していくのだろうか。