7月31日、株式会社アドライト主催のもと、海外のオープンイノベーションやトレンドをキャッチアップするイベント「Trend Note Camp 16 フィンランドスタートアップ最前線〜」を大手町にあるFINOLABにて行った。
ゲストスピーカーにフィンランド大使館商務部のペッカ・ライティネン氏とGoldrush Computing株式会社 代表取締役 水鳥敬満氏を迎え、フィンランドの起業家を支える社会システムや注目スタートアップ等についてお話しいただいた。
起業家が欲しい環境が整うフィンランド
フィンランドでの起業は、日本にとってなじみのない響きかもしれない。しかし、「フィンランドにはスタートアップに最適な環境が整っている」と大使館のペッカ氏は話す。
税制が高いイメージがつきまとうが、フィンランドの法人税は20%と非常に低い(日本の法人税は29. 74%)。EUに加盟し、通貨もユーロにつき、EU5億人の市場が広がっている。失業保険の給付も2年間と長期につき、その間に職業訓練校に通って起業の準備がしやすい等のメリットがある。さらに、東西交通の要所に位置し、実はヨーロッパのなかで最も日本から近い距離にあり、週38便が運行されている(コードシェア含め)。
加えて、スタートアップ同士、あるいはスタートアップと大手企業や投資家がつながれる機会に恵まれているという。ペッカ氏は「Startup Sauna」「Maria 01」「JETROグローバルアクセラレーションハブ」の3つを例に挙げた。
Startup SaunaはAalto Entrepreneurship Societyという学生による非営利団体によって運営されており、フィンランド投資庁(現Business Finland)の助成のもと、80人以上のコーチが参加する7週間のプログラムを参加費無料で提供。これまで222のスタートアップが卒業し、計200万ドル以上の資金調達に成功している。
Maria 01は古い病院をリノベーションしたインキュベーション施設。ミーティングルームやジム、イベントスペースなどが附設された施設を提供することで、スタートアップが互いに刺激しあい、イノベーションを起こす礎を築いている。現在85のスタートアップが入居し、700を超える専門家ネットワークや、年間150超のイベントにより、企業へのネットワーク機会提供等が強み。メンバーのVCによる投資額等の合計は1兆5850億ユーロ、Maria 01発スタートアップの資金調達総額は7,600万ユーロにものぼるという。
この流れで「JETRO(日本貿易振興機構)」が展開するJETROグローバルアクセラレーションハブが登場することを不思議に思うかもしれないが、“世界各地のスタートアップ・エコシステム先進地域において、現地の有力スタートアップ・アクセラレータ等と提携し、日系企業の現地展開および、現地有力スタートアップの日本進出の支援等を行う”(参照:JETRO)先として採択された世界12都市のなかにヘルシンキが含まれている。
フィンランドの有望スタートアップ
続いて、フィンランドの有望スタートアップをいくつか紹介してくれた。
ENEVO
ごみステーションやリサイクルスポットの容器に小さなワイヤレスのセンサーを付けて、ごみ収集を最適化。センサーのネットワークがEnevoのサーバにデータを送り、容器が満杯か空かなどの情報や最適回収ルートを教えてくれる。日本、オーストラリア、ブラジル、アメリカで展開中。
NORSEPOWER
船の上にポールを付け、マグヌス効果を利用して動力エネルギーとすることで、船の燃料の消費を20%抑え込む技術を開発。2016年、Innovation of the Year Award at the Electric & Hybrid Marine Awards受賞。
OURA
リング型の装置を指にはめることにより、日中の行動やその人の睡眠のデータを解析し、最適な生活習慣を提供するシステムを提供。すでに製品として販売されている。
MAAS GLOBAL
公共と民間の交通機関を組み合わせて、ルートの探索、予約、決済を専用アプリで一括して行うことができる。電車やトラムなどの公共交通機関のほか、今後はタクシーやシェアリンクバイクなども対象とする予定。トヨタやデンソーなどの日本企業も出資し、ヘルシンキ、ウェストミッドランド、アムステルダムでサービスを展開中。
ARILYN
ARプラットフォームプロパイダー。直感的な操作でARが作れて、登録無しでARを体験できるというふた軸を展開。
TRIPSTERI
観光地のレストランやホテルの予約、観光名所をまわるための最適なルート検索などができてしまうアプリ。専門家が撮った写真でARやVR体験もできる。
ペッカ氏が最後に大きな特徴として挙げていたのは、「外国企業であってもフィンランドでスタートアップを行うのであれば助成が受けられる」という点だ。ペッカ氏はこのような状況が整っていることを生かして、もっと日本企業もフィンランドに進出してほしいと結んだ。
起業家・スタートアップのためのイベント「SLUSH」
世界最大級規模の起業家・スタートアップ祭典「SLUSH」はヘルシンキ発としてあまりにも知られている。2015年にはアジア初の舞台として東京が選ばれ、以降毎年開催されている。2016年、ゲストの水鳥氏はヘルシンキでのSLUSHに展示経験をもつ。
まず、水鳥氏が挙げるSLUSHの特徴は「コストパフォーマンスがいい」という点にある。日本円に直して約16万円の参加費は一見高いようにも見えるが、アメリカのシリコンバレーで行われるイベント等に比べると格段に安価。Google等のメガベンチャーや大手企業も参加しており、マッチングの機会としても有用。さらに、数多の投資家も訪れるため、資金調達のチャンスも広がるのだという。
参加側だけでなく運営にもメリットがある。SLUSHは学生ボランティアで賄われているが、ある程度仕事が終われば施設内を自由に回り、興味に基づいたスタートアップについて知るチャンスが与えられている。これは、フィンランドにおける産学の協力体制につながっているとも考えられる。
開催先がヘルシンキということもあり、北欧を中心としたヨーロッパの人々とのつながりが増えるという。より広い視野でスタートアップをすることが可能になる土壌が広がっているのだ。
「フィンランドにはスタートアップに適した環境が整っている」。ペッカ氏同様に水鳥氏も同じ感想を持っていた。
失敗してもいい文化があるフィンランド
後半のパネルディスカッションでは、弊社代表・木村モデレートのもと、フィンランドのスタートアップについてやりとりがなされた。フィンランドの産業と研究機関のコーポレーションについてペッカ氏は「大企業が抱える問題を解決する手段として、スタートアップや研究機関などと触れ合う機会に恵まれている」と述べた。また、若者の起業意識について「フィンランドの若者は失敗してもいいのでとりあえずやってみる、という意識がある」という。
水鳥氏はフィンランドの投資家や起業家の特徴的な部分として、「あまり壮大なことは言わず、自分の経験からアドバイスを言う傾向にあります。そのため、身近なところからスタートアップが生まれやすいのでは」と述べた。
会場からは質問が多く飛び交い、両者のプレゼンテーション通じてのフィンランドへの興味と関心が増したことを感じさせた。
取材を終えて
フィンランド国家のスタートアップを支えるシステムは目を見張るものがある。絶対的存在であったNOKIAが倒産したことにより、解雇された人々がスタートアップで活躍できる社会を作り上げてきた成果と言えるだろう。日本でもさまざまな取り組みがなされているが、ヘルシンキのように起業しやすい都市の上位にのぼる頃には、今とは違った景色が見えるだろう。
お知らせ
【8/30 東京・大手町】Trend Note Camp#17 世界に挑む日本発AIスタートアップ開催
「日本」発有望AIスタートアップが登壇!!
GAFMAやアリババ、テンセントによるAIスタートアップ買収が進むため、アメリカや中国、そしてDeep Techの履修過程を持つ大学が多い欧州でAIビジネスが加速しているように見える昨今、日本のAIスタートアップも相当にレベルが高いことで世界から注目を集めています。
当日は、そのなかでも選りすぐりの日本発AIスタートアップをお招きし、AIトレンド、日本のAIスタートアップの強み、AIの可能性などをお話しいただきます。
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