下の図は2017年1月〜12月26日現在、Googleトレンドで「働き方改革」と「RPA(Robotic Process Automation)」の検索数推移を調べたもの。約1年の間に検索数は何倍にも増え、動きに相関性が見られるように、RPAは働き方改革の文脈で語られることが多い。なかでも業務効率に寄与する取り組みとして近年注目を浴びている。
イノベーション創造を支援する株式会社アドライトが2017年12月5日主催した「Trend Note Camp #10:ソフトウェアロボットによる日米の業務自動化トレンド – 働き方改革の未来」にゲストで登壇した、一般社団法人日本RPA協会・代表理事/RPAテクノロジーズ株式会社・代表取締役社長の大角暢之氏(以下、大角氏)によると、日本では2016年1月頃からブーム化。
2016年度RPAグループに来た問い合わせ総数は、営業時間の1時間に1本ペースに相当する4,000件。参入障壁も低いことから、事業社も200〜300社に増加しているという。
そもそもなぜこれだけ注目を浴びているのか?大角氏曰く、「経営的なKPIで注目されている」という。「デジタルレイバー」というRPAのように定型業務を自動化するソフトウェアを擬人化にたとえたもので、24時間365日ミスなく稼働してくれる。
加えて、技術の敷居が低いところも大きい。AIと違ってプログラミングせずレコーディングできるため、たいていの業務に合わせてチューニングすれば適用できる。言い換えると、ブラックボックスになりがちな属人性も踏襲できるのだ。仮に業務がなくなったとしたらDeleteで削除するだけ。経営インパクトは絶大だ。「人口減も手伝い、20兆円マーケットと言われている(大角氏)」
単に業務を効率化するだけでなく、最近では現場発のアイデアを組織でデジタルレイバー化する動きも見られているという。たとえば、年末繁忙期を迎えるレンタカーの受付を夜通し取りこぼしなくおこない、Eコマースでの売れにくい商品をサイトから在庫削除。会員制サイトのタイムセールにまわし、SNSでつぶやき誘導するという企業もあるという。
レガシーな業務は無数にあり、現場からのボトムアップで取り入れられることも多いというデジタルレイバー。組織で普及させるポイントを聞かれると、「デジタルレイバーに高度なことはやらせず、常に業務に合わせて変化させていくことが大事」としめくくった。
「自動化」はアメリカではいい言葉でない理由
では、自動化が進んでいるアメリカではどのような動きが起きているのか。IT情報システム管理部署の自動化を目指しているスタートアップ「Fleetsmith」のCo-founder・Zack Blum氏(以下、Zack氏)は「『自動化』はアメリカではあまりよく捉えられていないコンセプトです」と衝撃の発言をする。
「自動化により仕事を失い、苦労している人が沢山います。経済の仕組みなので止めることはできないでしょう」
アメリカでは仕事に給与を払う制度をとっている。専門分野の育成・もしくは極めるには向いているが、仕事自体なくなれば人材も放出される恐れがある。自動化で消えゆく仕事ならなおさらその可能性は高まり、他に経験をしていなければ職にありつくことも容易でないというわけだ。「日本の企業のように(人事異動等で)色々経験させる教育を学んだほうがいい」とZack氏。
自動化している仕事に共通しているのは、ユーザに対し大きな課題や大変な作業が発生しているもの、よく起こる頻度が高い作業。最近ではHRの自動化が進んでいるという。
Wikiaの情報システム管理部ディレクター出身のZack氏は、自身の経験をもとにソフトウェアのアップデートの面倒臭さと影響度合いに着目。
「年々、ハッキングの母数は増えています。2015年に近づくにつれて、原因の大半はPCのパッチやアップデートができていないことによるものだとわかりました。これらは利用者のタイミングに委ねられることが多く、つい後回しになりがちですが、とても危険です。Firewallの有効やセキュリティソフトの導入だけでは防げません」
原因が明らかになったところで、企業は対処できる人材をすぐには採用できない。技術の難易度も高く、ヒューマンエラーが出やすいのだという。人材に頼らず、プロセスもノウハウも自動化し、IT人材がやっていたことを誰もができるようにする必要がある——そうして生まれたFleetsmithは、PC(現状、Macのみ)のすべてのソフトウェアやパスワードを自動的にタイムリーにアップデートするサービスを提供する。「操作はLINEくらい簡単」と、日本向けジョークも添える。
ソフトウェアの自動化は自社のセキュリティ強化だけでなく、契約時にも威力を発揮するという。セキュリティポリシーが甘い部分を相手に指摘された場合、ITやセキュリティ部門の人間が議論して検証して…としている間に話が流れる可能性がある。それがFleetsmithのサービスを導入すれば、検証時間など必要なしにクリックだけでクリアするというのだ。ネット銀行を立ち上げようとしているスタートアップが実際導入したケースを例に紹介。
今後のアメリカの動きとしてZack氏は3つ挙げてくれた。
- ソフトウェアのクラウド移行
企業のIT予算が社内のサーバからクラウドに移行中。とくにBPOが2016年から2020年の間に半分移行という予測がある。2012年〜2020年の間、働き方改革が進んだことでリモートワーカーが7%増。組織が分散されていることが原因のひとつ。 - ITのコンシューマ化
あらゆるソフトウェアが専門知識を有せずとも使えるようになってきている。今後、ITに関しては、それがスタンダードになる。 - セキュリティとIT部門統合
ITとセキュリティは切っても切れない。それぞれ専門部署が存在していたが統合されるだろう。
初来日を経て、日本市場はアメリカやヨーロッパに比べて自動化が受け入れられやすい環境という印象を持ったZack氏。「日本の企業の方々とお話しし、導入の可能性を探ってみたい」と述べた。
主人公は現場
後半は、弊社代表・木村モデレートのもとパネルディスカッションが行われた。
日本でのセキュリティや自動化で面白いと思う点を聞かれると、「日本ではクラウドよりデスクトップが普及しているので、皆の作業を自動化する、つまりRPAが面白いです」とZack氏。アメリカでは中小企業の場合、Saasの普及が大半で、会社と会社での普及率も変わらないという。
大角氏は、RPAという言葉が生まれる前から自動化に着手。レガシー業界へどのように導入を進めたか?という問いに対し、「ひたすらロボットを作り体感してもらうことをしていた」と吐露。稟議に数年要するが、それを乗り越えれば良好な関係に至ることが多かったという。
最後に、RPAのいい面として属人性を踏襲してくれる点を例に挙げてくれた。
「主人公は現場なんです」――自動化の勢いはとどまることを知らない。
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