中国に見る、モバイルペイメント普及がもたらす世界

 addlight journal 編集部

5月28日、弊社アドライトが共催するイベント「Trend Note Camp#14: Alipay、WeChat…中国がモバイル決済大国になるまで」がFINOLAB(東京・大手町)にて開催された。
株式会社メルペイ マーケティンググループ 中国インターネット研究所所長 家田昇悟氏が登壇し、中国のモバイルペイメントについて熱く語った。

中国のキャッシュレス社会は企業努力で築かれた

様々な憶測が飛び交う中国のキャッシュレス社会だが、「一部の報道で出ているような偽札だけがキャッシュレス社会を創造したというのは神話的」と家田氏は苦言を呈する。偽札も社会を構成する一要因にすぎず、証拠となるデータも限られているからだ。
家田氏は企業(テンセント、アリババ)が実行する企業戦略によってキャッシュレス社会が達成されたという企業の役割を強調した。「自動的に社会が変わることはなく、社会を変える主体である企業の戦略の重要性が無視されているため、偽札論は無意味なのです」

Tencentの戦略

マーケットプレイスという事業において、使う人が先か?はたまた、使える場所が先か?は重要な論点である。ボリュームを必要とするモバイル決済において、いかに同時にこれらを垂直で立ち上げることができるかが大きな鍵となっていた。そこをクリアしたのがWeChat Payment(テンセント)だった。

同社は送金によるキャッシュインやフードデリバリーサービスを用いたキャッシュアウトの垂直立ち上げを行った。デリバリーサービスや配車サービスが爆発的に普及する中でモバイルペイメントも一緒に普及した。「これらのサービスが爆発的に普及できたのは中国社会ならではでありますが、テンセントとアリババのマーケティング戦略から見習うことは多いです」と家田氏は強調した。

政府の介入により取引が可視化され、ATに続きToutiao、Meituan、Didi(TMD)が勃興。自社で決済事業に乗り出し、決済データを抑えつつ金融事業に足を伸ばす意向である。

モバイルペイメント普及で変わる世界

中国QRコード写真

中国では、至るところにQRコードが印刷、印字されており、すぐに決済できるようになっている

では、モバイルペイメントの拡大により、中国ではどんなことが起きているのか。本人確認と決済データをもとにつくった信用を担保に、消費の民主化が成立しているという。「所有を必要としない商材であればレンタルが当たり前になり、購入する必要がなくなることも可能性としてあります」

日本でもあるサービスとの比較のひとつとして、携帯電話の充電サービス(ここではの場合を指す)を挙げてくれた。日本ではボックスに入れて暗証番号を設定し、30分200円の固定額かつ現金で払う仕組みだが、中国の場合、WeChatのQRコードをスキャンすると充電器のコードが出てきて、使用した時間を自動で決済するようになっているという。「スコアリングにより人を判断するコストが下がることで、皆がいい行いをするよう心がける。それにより社会全体のコストも下がる。これがモバイルペイメントが普及した後の世界です」と家田氏は説いた。

後半のパネルディスカッションでは、弊社代表・木村モデレートのもと、オーディエンスからも沢山の質問が寄せられた。

スコアについて聞かれると、「経験的に普通の人でも、大卒の人なら700点貯めることができます。そうするとホテルのデポジットが無料になることがあります」。機能的な面からモバイルペイメントの差別化は難しく、AlipayとWeChatPayの先行優位は揺るがないのではないかという見解も示した。

取材を終えて

会場の様子

上記は質問の一部にすぎないが、日本との違いや比較についてが半分以上を占めていた。それだけ関心の高いテーマであることは間違いない。アリババもテンセントも日本向けサービスをしないと名言しているため、別の形で進めないことには、日本でのキャッシュレスは普及しないだろう。
最後に家田氏は、日本ではネットにはびこる嘘も含まれた情報を収集し書いた記事や、深センでの短期間滞在による経験を公開する、ポエム的なブログが横行していることを嘆いていた。中国の生の情報を発信するTwitterのインフルエンサーから情報を得ることを勧めた。