人を成長させる「人材育成」よりも、経営資源として能力を引き出す「人材開発」に力を入れる企業が増えています。自動車やバイク、レーシングカーなどさまざまな製品を開発・販売するホンダグループの研究開発を担う株式会社本田技術研究所(以下、本技術研究所社)もその1社。新規事業立ち上げにあたり、イノベーター人材開発プログラムを選択した背景や、参加された研究職の方々に起きた変化等、同社先進パワーユニット・エネルギー研究所の内田翼さんに伺いました。(取材:2020年10月時点)
会社紹介:株式会社本田技術研究所
1960年創業。本田技研工業の研究開発部門を分社化して誕生した会社で主軸となる四輪車、二輪車をはじめスポーツカー、航空機エンジン、マリンエンジン、芝刈り機など様々な製品の研究開発を行っている。
自動車業界の大変革期到来
――事業内容を教えてください。
内田さん:ホンダは大きく3つのグループから構成されています。四輪車や二輪車などホンダ製品の製造・販売を行う本田技研工業、ホンダ純正品の販売を担うホンダアクセス、そして私が属している本田技術研究所があります。本田技術研究所では時代をリードする技術開発や研究を担っています。
――新規事業の立ち上げにあたってどのような課題をお持ちだったのでしょうか。
内田さん:これまでのプロダクトアウトのやり方が通じなくなってきたという点ですね。私達の業界はこれまで本当に恵まれていたと思っていて、モノを作れば一定数の売上が得られました。ところが、モノ消費からコト消費へとニーズが変わるという100年に一度の大変革期が訪れ、「シェアリングエコノミー」という考え方が生まれてからは、ただモノを作るだけではうまくいきません。消費者ニーズにいち早く気づいて取り組まないといけないと考えていました。
その結果、ビジネスを展開していくにあたってマーケットインやサイドアウトインといった観点をより強く持って事業計画を立てられるようにしようと決めました。
人にフォーカスする組織文化だからこそ、新規事業も人から
――その中で弊社を選んでいただいた理由はどのあたりにあったのでしょうか。(顧客ニーズを起点とした事業開発プロセスを体験いただく「イノベーター人材開発プログラム」を提供)
内田さん:ホンダには、シリコンバレーなど他の拠点にマーケティング支援などの事業サポートを行うアクセラレーターとしての役割を担うLabがあるので、グループ内でまかなうこともできました。ただその場合、社内事情を考慮してしまうといったように、どうしても内部の観点での支援になる懸念がありました。
それで、会社の変革のためにはグループ外からの視点を取り入れることが重要と考え、アドライトさん含む複数社に相談しました。「事業を1から10にします」とか「1を100にします」という既存事業を伸ばすためのサポートプログラムを提供する会社は多かったのですが、唯一アドライトさんが「0→1を生むための人材育成をやります」と言ってくれました。弊社の希望にもマッチしていると感じて依頼を決めました。
――プログラムを進めるうえで、あえて人材育成という分野を選ばれた理由はありますか?
内田さん:ホンダ自体が元々“人”にフォーカスしているボトムアップ型組織であるということが大きいです。つまり、人が育つとボトムアップ型の経営によってエッジを効かせられるんです。そのために、弊社の特徴である実務をこなしながら研修を行うOJT型の人材育成と並行して、アドライトさんの人材育成プログラムで新しい知見を得ようと考えました。
またグループで同じプログラムに取り組み、同じ体験をすることで共感力が育まれます。連帯感を持って新規事業に取り組めるのではないか、という狙いもあり人材育成の分野を選びました。
顧客目線で仕事に取り組める社員が増えた
――今回5日間のトレーニングカリキュラムを実施させていただきましたが、印象に残っていることはございますか。
内田さん:「0から1の新しい事業を築いていくためには主導者の想いが重要である」ということです。新規事業を考案していくなか各ポイントで顧客ニーズが何かを把握していくことはもちろん大事です。ただ、険しい道のりの中では、やりきる力がなければ新規事業を築けないと感じました。
アドライトさんのイノベーター人材開発プログラムでは、マインド面に加えて「事業の立ち上げ期ではどのタイミングでどのようなツールを導入すべきか」といった具体的な取り組みまで提案してもらえたのが大変勉強になりました。
――プログラム終了後、参加された方々からどのような感想が寄せられましたでしょうか。
内田さん:非常にポジティブな意見が多かったですね。新しいことに取り組むうえでどのような順序で進めていけばいいかといった流れを知れたのはもちろんのこと、失敗できない風潮の世の中における、チャレンジの方法(精神・手段)を学べたという声もありました。
――プログラムが現在の活動で活かされていると思うシーンはありますか?
内田さん:メンバー同士で「あの時学んだあの取り組みをやってみようよ」といった会話がなされるようになりました。また、技術部門が事業部門の目線を持つことで、技術・事業の両面で評価や判断を行えるようになり、コミュニケーションが活発になりました。より多くの社員がマーケットインの視点を持って仕事ができるようになったと感じています。社員が同じ体験をしたことが効果的だったのだと思います。
研究所もマーケットインの発想へ
――ただいま組織を変革されている最中だと思いますが、今後の展望を教えていただけますか。
内田さん:ホンダは「eMaaS」というエネルギーとモビリティ・アズ・ア・サービスを展開していくことをビジョンとして掲げています。研究所側からもニーズとシーズの発想を両立させて、マーケットインに関わっていけるような取り組みをしていきたいと考えています。
具体的には、プロダクトアウト目線で商品を開発したときに果たして消費者に受け入れらるのか。どのようなビジネスモデルで展開していくべきか。そのような仮説を検討したうえで事業部に提案できるようなチームにしていきたいです。