こんにちは。弊社が日本からのオフィシャルパートナーとして参画している、FinTech領域でのスタートアップ育成プログラム「FinTech Innovation Lab」。香港は2014年よりAPACエリアの開催拠点となっていますが、今日はその2016年度の活動と参加チームについてご紹介します。
同プログラムの内容は、メンタリングを通して金融機関との提携可能性を探れるというもので、実際にパートナーとして参画しているHSBCやChina CTIC Bank、ゴールドマンサックス、バンクオブアメリカ・メリルリンチのような金融機関及びその役職の方々と接点を持てることがファウンダーにとっての大きなメリットになっているようです。
2015年度は全7チームが参加し、その国籍はロンドン、オーストラリアからインド、イスラエルまで様々でした。香港からは、ビットコインやブロックチェーンの技術を活用した途上国向けの送金サービスや、神経科学を応用した資産データの分析・管理サービスなどを提供する2チームが参加していました。
また、2014年度には全8チームが参加し、香港からは、金融機関が新興国の中小企業に対して短期融資を行うためのプラットフォームを提供するチームや、データを暗号化してクラウド上に保管する情報セキュリティサービスを提供するチームなど2社が参加していました。
米国におけるY CombinatorやAngel Padに代表されるような、いわゆるエクイティ取得を目的とするシード・アクセラレーションプログラムとは異なり、ホストであるaccenture社と参加チームが共に金融機関との提携というFinTech領域における大きなテーマに向けて動いているのが同プログラムの特色です。そこに、世界的な金融集積地である香港で同プログラムが開催されていることの理由があると考えられます。
実際、同プログラムについて、HSBCのアジア太平洋地域におけるチーフ・オフィサーであるRaymond Cheng Siu-hong氏は、South China Morning Postのインタヴューに対し以下のように話しています。
“The lab created a platform for us to work with start-ups that have innovative technologies and people with great ideas,” Cheng said. “We have identified a number of opportunities and tested out some of these initiatives, with the aim to make banking simpler, better and faster for our customers.” -22/08/2016South China Morning Post
「同プログラムは、我々金融機関と、イノベーティブな技術を持ったスタートアップ、及び素晴らしいアイデアを持った人々との協業のためのプラットフォームを作り出した。」「銀行業務をより簡潔にし、顧客にたいしてより早くより良いサービスを提供するという狙いをもって、我々は多くのチャンスを認識し、それらのいくつかを試用してきた。」
国際金融センターとして早くから発達した香港、その中にあって最先端技術への取り組みのために設立されたCyber Portにおいて、同プログラムは開催されており、香港の次世代の産業モデルを彷彿とさせますね。
さて、このFinTech Innovation LabのAPECエリアのdemo dayが、2016年11月9日に香港で開催され、ご招待頂きました。本日は、その参加チームについて簡単に紹介させて頂きます。
2016年度、同プログラムには8チームが参加しました。概要は以下の通りです
1.ChartIQ
2012年創業 ヴァージニア/アメリカ
金融機関向けに、各種データをHTML5によってヴィジュアル化するツールの提供。現在までに世界で125のクライアントを抱え、NASDAQなども採用。製品の特徴はデスクトップ上のみならず、各種デバイスを跨いで機能する汎用性の高さにあり、次世代の資本市場における分析ツールを目指す。
2012年創業 香港
金融機関の顧客管理におけるブロックチェーン技術の導入サービス。分散型の取引管理により、データの透明性、共有性やセキュリティ性及び適切な合意形成等を可能にしている。金融機関の抱える膨大な顧客(取引)データ利用の能率化が期待される。
2011年創業 シンガポール
金融機関に向けた、ビッグデータ解析技術を使った分析及びポートフォリオ管理サービスの提供。データ解析技術による市場予測で、市場の混乱による損失リスクを最小限にできるほか、ポートフォリオ管理の自動化により、作業におけるヒューマンエラーも最小限に減らすことができる。
4.Lattice
2013年創業 香港(サイバーポート)
金融機関のオフィスにおけるポートフォリオ管理と、その意思決定を支援するためのプラットフォームの提供。具体的には、複雑なポートフォリオ管理の中で、新しい要素とリスク要素をどう調和させるか、どのように非合理な要素を排除するか、新しい要素を既存のものと被ることなくどうやって導入するか、どのように運と技術を区別するのかといった難しい問題への解決策を提供することが主眼。ツールとしては、ポートフォリオの最適化を支援するElegant Portfolio Discovery Platformなどを提供。
2016年に、同サービスはHong Kong Institute of BankersのICT AwardsにおいてBest FinTech賞を受賞した。そこではEPD Platformのカスタム性や透明性、分析能力などで高い評価を得ている。
5.SIORK (2016年12月現在アクセス不可)
2013年創業 東京/日本
金融機関に向けた、AI技術の活用による顧客データの分析と、金融犯罪の防止ツールの提供。疑わしい取引パターンを学習や、自然言語分析による取引内容の解析などで、犯罪を未然に防ぐことができる。アジアでの成功をきっかけに現在グローバルにそのビジネスの拡大を狙っている。
2011年創業 香港(サイバーポート)
保険会社も含めた金融機関に向けた、資産管理のためのプラットフォームの提供。JPモルガンの元社員2人によって立ち上げられたチーム。高速のアドバイザリーエンジンを備え、投資可能な案件なども含めた総合的なFinTechプラットフォームの提供により、新しい形での資産マネージメントビジネスの立ち上げを狙っている。
7.Seerene
2011年創業 本社はポツダム/ドイツ 香港(サイバーポート)にオフィスを構える
企業内部においてソフトウェアの透明化を図り業務を効率化するためのサービス。既存のデータを統合することで、ソフトウェア開発チームのリスク管理や業務効率化に役立てる。また、システムの透明性を高めることに主眼を置いており、企業内の全チームがその業務効率化を図ることができ、そのために金融機関向けにもサービスを展開できるため、同プログラムに参加していると思われる。AdidasやMercedes Benzを顧客として抱える。
8.TNG
2013年創業 香港
香港における次世代の支払い、送金サービス及びトータルライフマネージメントを提供。TNGは最新テクノロジーとユーザーフレンドリーが融合したサービスを目指していて、あらゆるサービスをスマートフォン上での一つのソリューションに統合している。具体的な機能としては、電子ウォレットとしての支払い機能、PtoPでの送金、オンラインペイメントなど。
TNGの送金ネットワークはグローバルに展開しているが、現在のところその範囲は中国から東南アジア全域、そしてインドまでに限られている。Version 3.0からは、外貨両替もデバイス上で可能になっており、さらに給与支払いや、慈善団体向けの寄付など、ますますその活用の幅を広げている。
2016年度は香港からの参加チームがかなり増えています。金融機関向けの業務改善サービスが目立つなか、TNGはトータルライフサポートサービスとしてひと際存在感がありますね。2016年に、香港金融管理局より正式にライセンスを受けたようで、今後の普及が楽しみです。
2016年の第一四半期で、APAC地域においてFinTechに投資された総額は約10.5B USDとなっていて、その大部分は中国企業によるものです。これは、欧州地域の2B USDや北米での6B USDと比較してもかなり大きい数字です。
中国からの投資額が増え続けるFinTech領域において、今後どのようなチームが登場してくるのか、ますます注目度が高まっています。
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