「これは4、5年前の自分に向けて書いた。振り返ると起業家としてダメなことをやっていた。起業家としての人生を変えたいなら手にとってほしい」。自身のシリコンバレーでの起業の失敗をもとに興したスライド「Startup Science」著者・株式会社ユニコーンファームの田所雅之氏が、「Fin Book Camp #9(株式会社アドライト主催)」に登壇しました。
成功に近づきたいなら失敗を減らす
起業家とVCの両視点から作り上げたというStartup Scienceは、2015年に第一弾公開後、毎年改訂し、2017年版は1,229ページにも及ぶ大作へと進化。世界で累計5万ダウンロードされています。自身の起業経験に加え、100社のメンターやアドバイスもするなか気づいたポイントを集約。今回、そのなかから「起業での失敗を減らすポイント」について熱く語ってくれました。
「スタートアップはお金や人といったリソースがないなか、時間の価値をどうやって最大限にするか?それは失敗を減らすことにほかならない」と田所氏。「100を1つに絞ることは難しいけれど、3つに減らすことはできます。これがサイエンス。そしてさらに3つを1つに減らす。それがアート」と持論を展開。どこにフォーカスするかで失敗のしづらさは変わってくるといいます。
スタートアップが陥りがちな行動パターン
「学習にフォーカスしないスタートアップは失敗する」として、田所氏は学習しないスタートアップあるある行動パターン3つを挙げました。
1)カスタマーインサイトなしでプロトタイプ構築
市場の伸びも期待でき、テーマも面白いが、「このサービスは誰のどのようなお困りごとを解決してくれるのか?」と尋ねたら答えられなかった。なぜ作ったのか聞いたら、「投資家に『早くアクションしろ』と言われたから」と返ってきた。
2)主観や思い込みでプロダクトを作る
「こういうプロダクトがあったらいいよね」という主観や思い込みで作り、見たいものを計測するサイクルを繰り返す。学習にフォーカスしないと陥りがち。
3)何かをやっているつもり症候群
前に進んでいる感がないと人は不安になる。たとえば初期の段階でWantedlyを活用し、商品・サービスと関係ないブログをアップしたりする。PVが増えて喜ぶも、肝心の商品・サービスへの定着率は低く、売り上げも0。事業としては何も進んでいない。
「一生懸命やるだけでは評価されません。正しい問題に取り組み、人が欲しいもの、そして少人数に熱狂されるものを作ることが大切です。投資家はピンポイントではなく定点観測で投資します。数字がどれだけ伸びたかを見ています」
現地・現物が大切
学習にフォーカスするとは、「仮説構築→ヒアリング→仮説検証」のサイクルをまわすこと。主要人物のペルソナ像を設計し、現状のプロセスを洗い出す。痛みのある課題はどこなのか仮説をたて、代替ソリューションを考える(代替案の不安・不満を洗い出す)こと。
その次にヒアリング。ここでできるだけ多くの一次情報を集めることが大切ですが、5人くらい聞くとユーザーパターンが決まり、だいたい4つの象限に分かれる。そして市場がぼんやり見えてくるといいます。
「追求したい課題設定と、踏み込む勇気に迷っているとしたら、一次情報が不足していることにほかなりません。逆に迷う課題がなかったら次の課題をあたった方がいいです。スタートアップはサイドプロジェクトを気楽に始めたほうがいいのです」
こうした現地・現物が大切である一方、忘れてならないのが「ユーザーはプロセスや物においては専門家だが、彼らが課題を言語化するのは仕事ではない」という視点。
「ユーザーのコメントを額面通りに受け取るのではなく、真意を見つけ出すこと。99%知っていることを事業化してもリソース不足になるだけ。それでは大企業に太刀打ちできません。だれも顕在化していない真意を見つけ出し、最小単位で最大化することがスタートアップになります」
いい人材を集めたいならビジョンに力を
成功に近づくうえでさらに忘れてならないのは「チームメンバー」。成功しているスタートアップはおしなべてチームの平均人数が少ないといいます。そのほうが皆で学ぶことになり、学習が加速するからとのこと。いい人材の集め方のコツは「ビジョンピッチング」。ビジョンがあるからこそ人が集まるという発想です。
こうして学習にフォーカスしたスタートアップは、3.5倍早く成長し、7倍の資金調達ができる可能性が高まるといいます。
今後、Startup Scienceの4カ国翻訳や、BtoB向け、テクノロジードリブン向けを展開する等して、世界のスタートアップシーンを盛り上げていきたいと語る田所氏。「過去の経験が道筋を作ってくれた」——無駄なことは何一つないことを証明してくれた2時間でした。